弟くんへ

第1話 鞠絵の場合


 今日4月4日はわたくしのお誕生日。今年で18歳になります。朝、いつものように目が覚めて朝食の準備に取り掛かります。6年前、ひょんなことから体調を崩してしまったわたくし。高原の療養所に入院していました。幸い大事に至らず退院も決まって、今まで献身的に治療をして下さった先生や看護師さんたちに感謝してもしたりないくらいです。退院する時には思わず涙がこぼれてしまいました。そんなわたくしよりももっと嬉しがっていたのが、わたくしの弟の航…。わたくしとは歳が6つばかり離れている弟は昔からわたくしに懐いていたっけ…。父上様・母上様は外交官で今でもあちこち飛び回っているので必然的に弟の面倒はわたくしが見ていたのだけれど…。前述の通りわたくしは1年くらい療養所のほうに入院していたのですが、弟は親戚の伯父上様のところで預かってもらいました。伯父上様たちの子供で従妹のひばりちゃんは弟と同い年。どうやらひばりちゃんは弟のことが好きみたいだったのですけど、今はそうでもないみたい。そのことをこの間ひばりちゃんに話すと、“あれ〜? そうだったかなぁ〜?” ですって…。不思議そうに言う彼女の顔を思い出だしては、今でも笑いがこみ上げてくる。でもその時の航ったら“ぼくも入院する〜っ!!” って駄々をこねて大変だったんですから…。わたくしが少し叱ったら、泣きべそをかいてたっけ…。
 そんな弟も今年で12歳。でもまだまだ甘えん坊。それは甘やかすわたくしにも問題があるのだけれど…。先々月だったかしら。保護者面談があってわたくしは母上様の代わりに出たのだけれどその時先生から、“お姉さんは甘やかせすぎです!” って怒られてしまいました。厳しくしようとは思ってるんですよ? でもあの可愛い笑顔を見てるとどうしても甘やかせたくなっちゃうわけで…。お姉さん失格かな? わたくし…。一人そんなことを思いつつ今日も朝ごはんの準備に掛かります。
 お味噌汁もちょうどいい感じ。味見をしてそう思いました。ご飯もふっくら炊けていました。自分用の食器と弟の食器を出していると、弟が起きてきます。頭には壮大な寝癖がついています。わたくしと同じで朝が弱いのかぽや〜っとした顔。その顔がとても可愛いので見飽きません。“顔を洗っていらっしゃい。その後ご飯ですよ?” というと頭をぽりぽりかきながら、“ふぁ〜い” とまだ眠そうに挨拶。うふふっ、とわたくしは微笑んでお味噌汁を茶碗に盛りました。


 そうそう、今日は弟がどこか連れて行ってくれるそうです。ご飯を食べている途中で、“ちょっと付き合ってほしいところがあるんだけど…。いい?” と聞いてきます、多分わたくしのお誕生日を覚えていてくれていたのでしょうね? 直感で分かりましたから、うんと首を縦に振ります。弟の喜んだ顔…。わたくしの一番好きな顔です。でも学校の用品ならよく忘れて先生にしょっちゅう叱られてるくせに、こう言うところは抜け目がないんだから…。とは思います。思いますが、にっこり微笑んでしまうわたくしもわたくしですね? そんなことを思う今日4月4日はわたくしのお誕生日です。

END