弟くんへ
第4話 鈴凛の場合
梅雨明けももうすぐな今日7月9日はアタシのお誕生日。朝、寝ぼけ眼で起きてくると、弟の航が何か難しそうに時計をバラしてた。アタシの弟の航。アタシより2歳年下の弟は運動系の部活に入っている。だから普段ならこんなゆっくりしていない。と一瞬考えて、ああ、そうか! と納得するように頷いた。そう、期末試験。理数系が得意なアタシとは好対照のように、弟は文系が得意だそうだ。でも2歳も歳が違うと習ってる内容も違うので、と言うかアタシの方がすごく不利なんだけど…。現に弟に教えているわけで…。
「なあ、アネキ。これどうやって直すんだ? 何回かやってるんだけどなかなか直らなくてさ…」
そう言うとバラした時計とアタシの顔を交互に見つめてくる航。朝も早い時間から何をやっているかと思えば…。はあ、と軽くため息をつくと、“直してあげるから貸してみなさい?” と言うアタシ。まあ、こんなものはちょちょいのチョイ…って、あれ? なんか1個部品が足らない。弟に聞いてみるけど、知らないと言うようにぶんぶん首を横に振っていた。ついでを言うとこの時計、一昨日の朝から壊れていたらしく、その日の夕方くらいから直し始めたんだそうだ。そう言うことなら遠慮なんてせずに言ってくれれば直してあげるのに。そう思ってちょっと口を尖らせるアタシ。ジト目で見遣ると航は苦笑いを浮かべていた。
「で、部品はこれだけなの? もう1つあったはずでしょ?」
そう言うアタシ。結構重要な部品が1個足りない。もう一度弟の顔を見遣ると、前にも増してぶんぶんと首を横に振っている。こりゃあれだ。お母さんにごみと間違えられて捨てられた口だわ…。はぁ〜っとため息をつくと向こうのほうで鼻歌交じりにお弁当を詰めるお母さんの姿が見える。うちのお母さんはそう言うことには結構ルーズって言うのか、そう言うことには気をつけないタイプなので、部品とは気づかずに昨日のごみの日に出したんだ…。はぁ〜っと今日2回目の大きなため息をつく。アタシの考えてる事が分かったのか急にあわあわ慌てだす航。その仕草がお父さんのようで妙に楽しい。お父さんは海外へ単身赴任中。でも毎日電話をくれるからそんなに寂しくはない。そんなお父さんと同じ仕草を弟は毎日してる。と視線に気がつくと弟がさっきアタシがしたようにジト目でこっちを見つめていた。
「サンキュー、アネキ。これで僕の時計も直るね? …って! 今日はアネキの誕生日だったんだった。すっかり忘れてたよ…。ごめん」
夕方、商店街の時計屋の前でこう言って頭を下げてくる弟。姉は損だ、とは思うけど舌をペロッと出してぽりぽり頭を掻きながらぺこぺこと謝る弟の仕草が妙に可愛らしくて何も言えないアタシ。もちろん代金のほうもアタシ持ちだ。はぁ〜っと今日何回目か分からないため息をつく。だけど、それだけアタシのことを頼りにしてくれているのかな? と思うとちょっと嬉しくなる。まあ今年も何もなかったけど、また今度フリマにでも応募して、新しい芸でも仕込んでやらせてみようかな? ねっ? 航…。横を歩く弟の横顔を見ながらそんなことを思っては、うふふっと微笑んでしまう今日7月9日はアタシの15歳の誕生日だ。
END