弟くんへ
第12話 千影の場合
今日3月6日は私の誕生日だ。だからじゃないけど、胸の鼓動が上がっている。と言うのも今、私は弟くんと一緒に映画に来ているわけで…。弟くんの名前は航と言う。私より3つ年下の17歳。普通ならこう言う場所は彼女と一緒に来るものではないのかい? とは思うものの弟くんには彼女がいないらしい。ちょっと贔屓目過ぎるんだが、姉の私から見ても弟くんは格好いい。運動神経も私なんかと違ってすごくあるし、学力面でも常にトップクラスに位置している。それなのになぜと思う…。今朝そんなことが頭に浮かんだ私は弟くんに聞いてみることにした。すると…。
「別に僕は彼女が欲しいわけじゃないし…。彼女持ちの友達はいろいろ大変みたいだよ? プレゼントとかも買わないといけないし、それに何かあるとすぐぷぅ〜って頬を膨らませるし…。この間もそのことで話してるとね、偶然通りかかった友達の彼女が僕の顔をむ〜って見ながら通り過ぎて行っちゃったし…。あれってどういう心境なのかな?」
だって…。普段から女の子には無頓着と言うか無関心な弟くん。中学生の頃のバレンタインは全部返していたそうだ。というか今もそうなのだろう。そういえば私のチョコも私と半分に割って食べてたっけ…。甘いものが苦手ななのかなと考えるけど普通に食べているし…。まさかとは思うけど、弟くんは女の子が苦手? なんじゃないかな…。そう考えた私は、いいことを思いつく。早速弟くんを呼んでこう言った。
「私と映画でも行かないかい?」
って…。うーんと考えること数秒。即座にOKが出る。“私はいろいろしなくちゃいけないから先に行って待ってて?” と言うと素直にうんと頷く。その顔に少しばかり良心が疼いた。昔から私にべったりだった弟くん。そんな弟くんに過保護すぎた私。父くんと母くんは外交官で私が15歳のときに日本を離れてしまっている。会えるのは年に2、3回くらいだ。だからかどうかは知らないけど、弟くんは私に母くんの像を重ねているのかもしれない。そう思った。だから私は今日変わる。普段はかないようなミニスカートをはいて可愛いシャツに手を通す。シニヨンの髪も解いて長い髪。姿見のところで見ると自分が自分でないようだ。声も変えてみる。普段はダウなー系の声だが、この前やっていたナレーションの女の人の声を真似てみた。結構いい感じだ。これなら私だって言うことは分からないはず。後はどう誘うかだが、まあ私は“千影”の友達で、彼女が急な用事でこれなくなったから代わりに来たということにでもしておこう。そう思って家を出た私だったのだが…。
「姉さん、心配しなくてもいいんだよ? 彼女はそのうち見つけるから…。今はこうやって姉さんと一緒にお茶出来ることのほうが嬉しいよ。それよか姉さんのほうが心配だよ。僕は…」
「こら! 話を摩り替えるんじゃない…」
映画館から出た後、喫茶店による。紅茶を一口口にすると、弟くんがそう言ってくるものだから私は弟くんの額にデコピンを1つお見舞いした。おでこを擦りながら、いたずらっ子っぽく微笑む弟くん。私のこの完璧な作戦にも弟くんには通用せず…。普段だったら絶対見せることはしない足と言うか肌をさらけ出してしまう私。なおかつ弟くんの可愛い笑顔にメロメロにさせられてしまう今日3月6日は、私の20歳の誕生日だ。
END