嫁ぐ日
第一章 鞠絵
純白のウェディングドレスがそこに掛けてあった。
明日、僕の妹が嫁ぐ…。父さんと母さんはもうこの世にはいない。僕が成人した年の8月に事故で他界した。それ以来、僕はずっと妹と一緒に暮らしてきた。
その妹が、明日嫁ぐ……。寂しい気も少しはする。でもせっかく掴んだ幸せだ。僕がどうのこうのとは言えない。いや……、言わないつもりだ。
僕の妹は病弱だった。命が消えそうになることも何度もあった。でも、お医者さんや看護師さんの必死の治療や看護のおかげ…、そして何より妹の頑張りで死の淵を乗り越え、今は元気でいる。僕にはそれが嬉しい。
結婚する相手は、僕の後輩だ。彼は存外いい人なので僕は安心している。彼になら僕の妹を任せられる。そう思い僕は言う。
「ふつつかな妹だけど、よろしく頼むよ…」
「鞠絵さんは必ず僕が幸せにします!! 任せてください、先輩!!」
そう言う彼の顔を見ると、“この子ならきっと鞠絵を幸せにしてくれる”…。…僕はそう思った。
「兄上様…、お食事の準備が出来ましたよ?」
結婚式前日、純白のウェディングドレスを眺めていた僕に鞠絵が最後の夕食を作ってくれた…。いつもと変わらない夕食。でも明日から僕一人になる。何だか寂しかった。
「これが、お前が僕に作ってくれる最後の夕食になるんだね?」
そう言うと、彼女は俯き加減にこう言う。
「ええ…。でも兄上様…、わたくしがいなくなってしまったら、お一人でお食事の準備をしなくてはいけないんですよ? それにお掃除やお洗濯なども…。……わたくし、心配です…」
「ははは…、僕のことなら心配しなくてもいいよ? それより鞠絵。向こうに行っても頑張るんだよ? お前は体が弱いのだから…」
僕は笑いながらそう言った。でも、今まで家事のすべてを鞠絵に任せてきたからだろうか…。彼女の顔は不安の色を隠しきれない。そういう顔だった。ここで僕が不安の色を出してはいけない。そう思った僕は努めて明るくこう言った。
「じゃあ、料理を一つ教えてくれないか? お前の得意な…、あのお味噌汁を……」
「ええ……、じゃあお教え致しますね?」
そう言うと、妹は黙り込んでしまった。僕も黙り込む。テーブルを挟んでお互いの目も見れず、何も話せず……。ただ黙々と食事は進んだ……。あの時、妹は何を言いたかったのだろうか…。
…今はただ、妹の得意料理の作り方を書いた紙が無造作に置いてあるだけだった…。
結婚式…。純白のウェディングドレスに身を包んだ妹が、バージンロードを行く…。僕の手を離れるとき、妹が涙を溜めて僕の顔を見つめた。僕は努めて優しく言う。
「おめでとう…、鞠絵。幸せになるんだよ?……」
と……。チャペルのベルが、“カランカラン…”と鳴った……。
END