嫁ぐ日
第二章 春歌
白無垢姿の妹が僕の前に立っている。今日は、僕の妹の結婚式だ。
「兄君さま、今日までありがとうございました……」
涙声の僕の妹の名前は春歌という。妹は帰国子女だ。僕の父さんは外交官なので、あちこち飛び回っている。日本に帰ってくるなんて2年に1回あるかないかだ…。現に今日もヨーロッパのほうに行って留守。必然的に僕が妹の親代わりと言う風になる。
まあ、それはいい。父さんも頑張っているんだしね…。そう思う。妹、春歌はドイツ生まれ。向こうでの教育が厳しかったのかどうかは分からないが、彼女は極度の昔人間だった。
僕のことを“兄君さま”と呼ぶのもその一例だ。彼女はそのほかにも習い事などをこなしている。週のほとんどを習い事に費やされて、正直大丈夫かな?…と思えるほど頑張っていた。
そんな妹が今日嫁ぐ…。少し寂しい気もする。いろいろと僕の面倒などを見てくれた妹…。僕のプレゼントした櫛で嬉しそうに髪をとかしていた妹。そんな妹が今日、嫁ぐ…。
「おめでとう……。春歌…。幸せになるんだよ?」
僕はそう言うとにっこりと微笑んだ。思えば、春歌が日本に帰ってきたころ、僕は彼女のことを避けていた。気恥ずかしさもあった。だけど一番はやっぱり可愛かったんだろね…。今、冷静になって考えるとそう思う。
あれは……、そうそう。僕が御花の稽古場まで迎えに行ったときだったね。
その日はちょうど春歌の17歳の誕生日だった。僕は小さなかんざしと櫛を買ったんだっけ…。その日は5月にしては珍しい雨だったっけ…。電話をして春歌の稽古場まで向かったんだ。
その時の春歌の顔…、今でも鮮明に覚えている…。あんなに喜んだ顔、嬉しそうな顔を見たのは初めてだった。僕の顔を見て…。
「春歌は…、三国一の幸せ者ですわ…。ポポッ…ポッ…」
って言ってたっけ……。そんな妹の顔は本当に幸せそうだったことを…。優しく微笑んでいたことを…。今でも覚えているよ?…。あの時のお前の笑顔を……。かんざしと櫛は今でも大切に使ってくれている。僕にはそれが嬉しい。離れ離れになっても、心は一つなんだ。
僕は妹が残していったアルバムを見ながら、あの時の笑顔を思い出していた……。
妹も今日で22歳になった。挙式の準備が着々と進む…。
「春歌…、お前のあの優しい笑顔はもう見られないんだね…。でも、これからはその笑顔を旦那様に見せるんだよ?…。世界中で、一番好きな人にね…。ねっ?、春歌…」
僕は、そう心の中で呟いた。……5月にしては珍しいい雨が、大地を潤していた…。
END