嫁ぐ日
第六章 可憐
妹がピアノを弾いている。これが、僕に聞かせてくれる最後の日だ…。
妹の名前は可憐という。名前から分かるように優しくて思いやりのある子だ。でもちょっぴり甘えん坊さんかな? あはは…。
そんな妹が、明日嫁ぐ。少しは寂しい気もする。でも、せっかく掴んだ幸せだ。僕がどうのこうのとは言えない。いや…、言わないつもりだ……。
父さんはあるNGOの代表をしていた。母さんも父さんの補佐として一緒になって働いていたが一昨年のテロで…。それ以来僕は妹と二人で暮らしている。相手の彼はバイオリン奏者で、日本では有名な奏者だ。ちなみに彼は僕の友人なので、そんなには心配はしていない。
演奏が終わる。僕は拍手をした。静かな部屋に僕の拍手だけが木霊する。妹が言う。
「お兄ちゃん、何かリクエストはないですか?」
僕はあるポピュラー曲をリクエストした。途端に妹の顔が涙顔に変わる。それでも彼女は弾き始める。旋律が聞こえてくる。僕はそれにあわせてギターを弾き始めた。リクエストした曲はずいぶんと昔の歌だ。“妹”っていう曲だったっけ…。父さんがよく口ずさんでいた曲だ。
ピアノとギターが美しい旋律となって聞こえてくる。昔、妹の発表会に行ったときも、誕生日だったっけ…。司会の友達のお姉さんに、“花束贈呈してみない?”って言われてステージに上がったんだけど、そのときの妹のびっくりした顔と、後に見せた嬉しそうな顔は今でも心に残っている。
そう懐古しながら、僕は妹と最後の演奏会をした…。
バージンロードを歩く僕の妹。手を離すと途端に妹の目から涙が溢れてくる。僕はそっと涙を拭いてやる。こう言った……。
「可憐。笑っておくれ…。お前は泣いた顔より笑った顔のほうが可愛いんだからね? ねっ、可憐……」
と…。涙を拭き拭き笑顔を見せる僕の妹。空を見れば、秋の日差しが暖かい今日9月23日だった…。
END