嫁ぐ日
第七章 衛
「はぁ…、はぁ…、はぁ…。もうちょっと運動しとくべきだったのかな?」
僕は今走っている。遠くで妹が手を振っていた。緩い勾配の坂道を駆け上がる。
「もうっ! だらしないなぁ〜。あにぃは…」
そう言って、坂道を駆け上がってふぅふぅと息をついている僕に優しく微笑みながら手を差し伸べてくるのは、僕の妹の衛。妹は明日で22歳になる。ついでを言うと明日は妹の結婚式だ。
昔はちょっとかわいい男の子という感じの妹だったが、今は一般の女性みたく料理とかもしてくれるようになった。ちなみに結婚する彼は同じ大学の陸上の選手だったらしい。よくは知らないが日本でも有数のスプリンターなんだそうだ。
「ねえ、あにぃ」
芝生の上、休憩とばかりに寝っ転がっている僕に、座ったままの姿勢で遠い目をしながら衛は言う。
「お父さん、お母さんが生きてたら、何て言うだろうね?」
そう、僕たちの親はもうこの世にはいない。正義感の強かった父さんは警察官だった。ある事件の捜査をしている時、不意をつかれて…。母さんはもともと体が丈夫なほうじゃなく、父さんが天国へ旅立った翌年…。
それ以来僕は妹と暮らしている。その妹も明日からいなくなる。何だか心の中にぽっかり穴が開いたようだ……。ははっ、いけないな。僕は妹に見つからないように涙を拭うと立ち上がる。大きな声を出して言った。
「休憩は終わり!! さあ走るよ? 衛…」
妹の手を握り締めて、僕は走り出す。寂しいけどせっかく妹が掴んだ幸せなんだ。明日はにっこり笑顔で送り出してあげよう…。そう心に決めた…。
バージンロードを行く妹。繋いでいた手を離すと妹が涙を浮かべていた。そっと出したハンカチで拭いてやる。こう言った……。
「おめでとう…、幸せになるんだよ? 衛…」
と……。秋風が心地よく頬を流れる、そんな今日10月18日だった……。
END