嫁ぐ日

第九章 咲耶


 今年もまたあの日がやって来る。愛するお兄様が私の身代わりとなって、逝ってしまった日が……。あれから5年が過ぎ、私は22歳になっていた。今日、また1つ年を取る。でも私の時間はあの日から止まったままだ。そう…、愛するお兄様を失った日から…。
 お父様、お母様は、今、お兄様と同じところで眠っている。私は今、その場所へ向かってる。あんなに楽しかった家庭はお兄様が天国に召された日から一変してしまった。お母様はショックで寝込むようになり、そのまま…。もともと心臓の弱かったお母様には相当な負担が掛かったんだろう。お父様はお母様が天国へ召された翌年、不慮の事故で…。
 それ以来私は独りぼっちだ。こういうのを天涯孤独というのだろう。今年もまた私はお兄様やお父様たちが眠る場所へとやってくる。この日もとても寒い。歩いているとちらちらと雪も舞ってくる。まるで5年前と同じだわ…。そう思いながら歩を進めた。お兄様たちのところまでやってくる頃には、深々と降り積もる雪へと変わっていた。
「もう5年になるのね……。お兄様…。お父様やお母様とは出会えたかしら…。私も今日で23歳になったわ…。でも、私の時間はあの時で止まってる。お兄様と一緒に映画を見たときの…、あの時で……。バカみたいよね? いつまでもこんなこと引き摺って…。でも、でも…。私にとっての一番はやっぱりお兄様だったのよ?」
 十字架の前、深々と降り積もる雪の中で私はお兄様に言った。でも、十字架からは何も聞こえてはこない。それでも私は言い続ける。最後は涙声に変わっていた。どれくらい経っただろう。急に眠くなってきたみたい……。
 ダメだ。寝ちゃ…。こんなに寒いんだもの…。寝てしまったらおそらくは…。と思ったけど、私の意に反して瞼は下がってくる。と同時に懐かしい声も聞こえてくる。体が軽くなったような感じがした…。


 12月21日。昨日の雪が嘘のように晴れ渡った東京の空の下。いつもの朝の見回り時、私はある墓の横で倒れている女性の遺骸を見つけた。いや、女性というよりは少女のような感じだろうか…。警察もくるが、
“おそらく自然死、しかも凍死ですね…。これは…。可哀想に……”
 そう言いながら手を合わせている。そう言えば…、と考えた。そうしてあることを思い出す。そうだ…、そう言えば5年前…。そのことを警察のほうに言うと、納得したのか帰っていった。人を呼び講堂へ彼女の遺骸を運ぶ。顔を見れば疲れきった表情で、でもどことなく微笑んでいるような表情の彼女は、まるで眠っているかのようだった…。
「大好きなお兄さんに出会えたんだね…。良かったね…」
 そう、ぽつり独り言のように言うと、私は心の中で静かに十字を切った。天国へと召されていった彼女の幸福を祈って……。

FIN