嫁ぐ日

第十章 花穂


 純白のウェディングドレスを着た妹が僕の前に立っている。
「お兄ちゃま。今日までありがとう…」
 そう言うと涙ぐむ妹は花穂という。僕とは6つ違いの可愛い妹だ。ちなみに父さんたちはここにはいない。ある貿易会社のイタリア担当である父さん。母さんも通訳として父さんとともにイタリアへと赴いていった。1ヶ月も前のことだ。非常に残念そうな顔は1ヶ月経った今でも僕の脳裏に焼きついている。
 だから式には僕一人で臨む。相手の人は有名なサッカー選手。僕は余りスポーツには興味がないので、妹に彼を紹介された時でも“ふぅ〜ん”って顔をしていたんだけど、実は相当にすごい選手なんだって…。
 妹はその人の所属するチームのチアリーディングをやっていて何の縁かその人と知り合ったらしい。昔はドジばかりしていた妹も今では立派になっている。僕にはそれが嬉しい。
 そういえば…、と昔のことを思い出す。あれは14年ぐらい前だろうか…。何かの試合があって僕はそこのチームの一員で出場したんだ。妹はチアリーディングで応援していたんだけど…。応援のかいも虚しく負けちゃったんだよね? その試合で僕は最後だったから負けられないって思ってたんだけど、相手のチームの方が上だったんだ。妹も一生懸命に応援してくれていたんだけど…。待ち合わせの時間になっても現れない妹が心配になって探しに行ったんだ。そしたら…。
 ロッカー室の片隅で妹が泣いていたんだ…。僕が元気付けてあげると、涙を拭いて微笑んでいたっけ…。あれから14年が経ち、妹は今ではあるサッカークラブのチアリーディングの代表として頑張っている。僕にはそれが嬉しい。頑張れば夢は叶うんだ。そう思った…。


 バージンロードを歩く妹。僕の手を離れる時、涙を浮かべて僕の顔を見つめた。ハンカチを取り出し、目元をそっと拭くと僕は言った。
「花穂…、そんな顔しないで。笑っておくれ? お前は泣いた顔より笑った顔のほうが素敵なんだから…。ねっ?」
 1月7日。冬晴れの寒いけど気持ちのいい、そんな妹の結婚式だ…。

END