嫁ぐ日
第十二章 千影
「兄くん、今年も来たよ」
今、私は丘に立つ教会の横にある小さな墓地へと来ていた。そこには私の大好きだった兄くんが静かに眠っている。そうか…。兄くんが天国に召されて、もう3年も経つんだね? そう思った。高台から街の風景が見える。いつも見ている風景なのでさほど変化は見られない。だけど1つだけ変わっていた。
大きなドーム型の屋根…。そう、それは1年前、みんなにはもう見えない兄くんとともに見た、あのプラネタリウムが取り壊されてしまったからだ。もともと市が運営しているものだったのだけど、経費削減ということになり取り壊されてしまった。もう半年も前のことだ。思い出の詰まったプラネタリウム。解体作業を見つめていると私の目に、兄くんとの思い出がよみがえってくる…。
小さい頃にはよく兄くんと一緒に見に来ては、夜、プラネタリウムと同じ星空を見上げていたものだったっけ。懐かしい。…そう言えば1年前も同じだったかな? そう思って花束を十字架の前に置く。何気なく辺りを見回してみる。閑散とした雰囲気はまるで自分だけが別世界へ流されたような感覚だった。急に兄くんとの思い出が脳裏に浮かんでくる。込み上げてくる涙をこらえると、私は静かにこう言った。
「ねえ、兄くん。今日は兄くんに報告があるんだ…。私、結婚するんだよ? ここの教会でね? 式は来週…、私の誕生日だよ」
と…。相手の人は優しい人…。少し兄くんに性格が似ているような感じの人だ。
ステンドグラスが眩しく目に映る今日、3月6日。私の誕生日。私は白いウェディングドレスに身を包みまっすぐ神父様のほうへと歩を進めている。ふと、ヴェール越しに誰も座っていないはずの席を見る。…そこには、兄くんが微笑みを浮かべて座っていた。一瞬、はっ! となった。もう一度見てみる。だけどそこには何も見えなかった。ただ、教会の長椅子があるだけだった。賛美歌の歌声は教会内にこだまのように響いている。だけど私は……。
“見に来てくれたんだね? 兄くん…”
心の中でそう言った。正面に見えるステンドグラスはきらきらと輝いている。その先には、にこやかに微笑んだ優しい彼が私を待っていた。
FIN