選択を誤った?


 現在、5月も31日の午後6時半を少し過ぎた辺り、俺は非常に困った状態に陥っていた。前を見ればぷく〜っと頬をこれでもかと言うくらいに膨らませて上目遣いの怖い目をした? 2人の女の子が無言の涙目で俺の顔を見つめている。右からむむむむむ〜っとどこぞの乳神様のようなべそをかきながら涙目の上目遣いに見つめてくるのは隣りのぽんこつ幼馴染みで彼女な七海。左でカッと目を見開いた非常に恐ろしい表情で睨んでいるのは俺のうるさ型な後輩・佐倉なわけだ。今年は去年の轍は踏むまいと5月の26日に誕生日会を開こうと思っていたわけだが、ちょうどその2日前にひかりから電話がかかってきて、“ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど。鈴夏も一緒に来てくれない?” と言う。
 またしょうもないことを手伝わされるのか? とは思ったが、“お小遣いあげるわよ〜” と言うひかりの甘言に騙されて妹と2人のこのこ行ったのが運の尽き。結果はお察しの通り、部屋の模様替えに駆り出されただけだった。しかも、“来るのが遅い!” と車が混んで大変だったにも関わらず、腕組みしながらむぅ〜っとした顔で家の前で待っていたと言うわけだ。ああもううもなく早速模様替えを手伝わされる。お茶くらい出せんのか? とは思ったが言うと肝心のブツがなくなる可能性だってあるので言えない。それをいいことに俺たちが一生懸命運んでやっと重い荷を下ろしたかと思ったら、“それ、もう少し右なのよねぇ〜” などと言う始末。文句を言うと絶対、“じゃあお小遣いはなしってことで” と俺が唯一楽しみにしているブツをくれない可能性だってある。そんなわけだから一生懸命になって働いたわけだ。何でそのときに誕生日会のことを思い出さなかったのか…、今現在のこの状況を鑑みればあの時の俺自身を殴ってやりたいわけだが、もう終わったことなので何も言えない。
 で、帰りしな、ひかりから小遣いをもらう。早速妹が開けてみる。中には諭吉さんが入っていたわけだ。当然俺もそうだろうと帰ってから開けようと思ってウキウキしながら帰ったわけだが、帰って中身を見てみると肝心の諭吉さんが入ってない。申し訳なさそうに英世さんが一枚入っているだけだった。“な、な、なんじゃこりゃ〜っ?!” と某刑事ドラマの殉職刑事のように叫んで階段を三段越しに駆け下りて、ひかりの家に電話を掛けて文句を言うと、“あんたがぶつぶつ文句言いながらするからよ? 鈴夏を見なさい。文句言わずにやってたじゃないのよっ!” とまるで逆ギレのように言われる。いや、鈴夏も裏で文句はたらたら言ってたぞ? ただ聞こえるところでは言わなかっただけだ! と思うと妹の姑息さがよく分かる。はぁ〜、今回もこき使われるだけだったなぁ〜なんて考えながら妹の部屋をチラ見して自分の部屋に入って咽び泣いたわけだが、何でそのときに七海と佐倉の誕生日のことを思い出さなかったのか、非常に悔やまれてならない。


 で今だ。まあ佐倉は今回は自分の誕生日の辺りで誕生日会を開いてくれることもあってか、カッと目を見開いて睨んでいる佐倉ではあっても内心では嬉しいに違いないだろう。顔を見ているとどことなしか嬉しそうに見えた。まあ毎年の誕生日会を七海の誕生日に一緒に祝っているだけに今年は彼女よりも自分を選んでくれたわけだからな。そんな佐倉よりももっとヤバいのは俺の彼女のほうだろう。現に今も、むぅ〜っと超ご機嫌ナナメですっ! て言うような顔で涙目の上目遣いに見つめてくるわけだから…。こんなときにいて俺をある意味恐怖の存底に叩き落してくれて、ある意味気絶と言うありがたいこと? をしてくれる妹は今年ギリギリ入った俺と同じ大学の柔道部の合宿に行っていないし親父は親父で高校教師を続けているわけで、今ここにいるのは俺とご機嫌ナナメな佐倉と、超ご機嫌ナナメですっ! な感じの七海しかいない。この際佐倉はどうでもいいと言う感じで七海に構う俺。七海は頬をこれでもかと言うくらいに膨らませて…、
「健ちゃんなんか知らないんだから〜っ!」
 と完全に拗ねてしまって部屋の隅っこに陣取って体育座りをして恨めしそうにこっちを見てくるわけで。はぁ〜っとため息を一つつき、歯が浮くような甘い言葉を囁くように言う俺。七海はこう言うセリフに弱いと知っている俺だから言えるんだが、普通だったら絶対に言えない言葉だ。何度か言っていると、“健ちゃんがそこまでわたしのことを思ってくれてるんだったらわたしも考えを改めないとね?” と涙をふきふきいつもの俺の彼女に戻る。ほっと一息つく。と俺の背中をツンツン突いてくるもう一人の厄介者がいたわけだが、そのことに気が付くのは完全に七海の機嫌が直ってからだったことは言うまでもなく…。


「何で先輩たちの見たくもない甘いメロドラマを見なくちゃいけないんです?! 私だって先輩に甘えたいって言うのに〜っ!」
 と今度は佐倉のほうが拗ねてさっきの七海のときと同じようになってしまっていた。さて困った。困った困った困ったよぉ〜っと言えばどこからか現れる七海と声のそっくりなぽんこつ魔法使いの女のような物言いをぼそっと言うと、七海が急に慌て出す。“何か呼ばれたような感じがして…って言うか健ちゃん! またわたしのこと‘ぽんこつ’だって思ってたんでしょ〜っ!!” と俺の顔を見ながらこう言ってぷぅ〜っと頬を膨らませる七海。でも顔を見れば怒ってない顔だった。ふぅ〜ッとため息を一つつき今度は本格的に佐倉の説得を試みるのだが、相手は俺の仲間の中でも1、2を争うくらいのワガママ娘ときたもんで、なかなか落としどころがない。2人で漫才なんかを見せても、“仲がいいんですねっ!!” と言われてしまうのがオチだ。本格的に困ってくる。…と、何やら佐倉が呟いている。何だぁ〜? と思って聞いてみると?…。


「結局今年もこれかよぉ〜っ!!」
 と心の中で絶叫する俺。あの後、佐倉の涙目のお願い(と言うより脅迫だな? あれは…)にうんと縦に首を振るしかなかった俺は、佐倉と七海の体を洗うことになって、当然目隠ししながら洗ったわけだがどこをどう洗っているのかさっぱり分からんかった。ただぽにゅっとした部分やら男が絶対に触れてはいけない部分なんかがあったからそこは女の子の大切な部分なんだろうと思う。佐倉に至っては、“どうですか先輩? 私の豊満な身体は…。うひっ” なんて言いながら自分から積極的に身体を摺り寄せてくるものだから、正直いつぞやかに歌った、“佐倉裕美は淫乱だ〜” と言う歌がぴったり合うんじゃないのか? と思う。何とかクリアーするころにはやつれた俺がいるわけで…。もう付き合いきれん! と思って自分の部屋に向かっている途中でいや〜な雰囲気が部屋から漂ってくる。入りたくないなぁ〜っとは思ったが、自分の部屋に入らないわけにもいかないのでガチャッとドアを開ける俺。案の定と言うか何と言うか七海と佐倉が俺のベッドの両端に陣取っていた。“じゃあそう言うことで…” と扉を閉めて退散しようとすると、ズバッと飛び起きたかと思うとものすごい速さで俺の腕を掴む佐倉。ここまでの時間僅か8秒少々。思わず“うおっ?!” と言う声が出てしまう。
「逃げるんですか? 先輩っ!!」
 と世にも恐ろしげな顔をして三白眼の怖い形相で見つめてくる、いや睨んでくる佐倉の威圧感は熊をも倒すかのような妹のそれと同等かそれ以上かもしれない。びっくりして一瞬力が抜けたのをいいことにずるずる引っ張られてベッドに寝かされてしまい、しかも両脇から柔らかいものをこれでもかと言うくらい押し当てられて漫画の表現方法ではないが、ぶはっと鼻血が飛び出る結果となってしまった今日5月31日。蒸し暑くなってきて寝苦しさも増してくるって言うのにそれ以上の寝苦しさが俺を襲う11日前の俺の彼女・近衛七海と、1日前の俺の天敵になりつつある後輩・佐倉裕美のそれぞれの誕生日だった。ぐふっ……。

END