畑仕事は大変なり
今日5月20日は俺の幼馴染み兼彼女の近衛七海の誕生日だ。今年大学生になった俺たちではあるが、今年の1月か、入試のときは大変だったよなぁ〜と今更ながらに思うわけだ。まあ勉強のほうは七海先生に時々怒られつつやっていたので何とかついていけたわけだが…。問題なのは受験当日の朝。両方とも朝が弱いのでなかなか起きられないから、厄介ではあるが妹に起こしてもらうことにしたんだが、案の定起きない俺に業を煮やした妹に得意の巴投げを喰らわされて、5メートルも投げ飛ばされて思いっきり背中が痛かった。なおかつ、ぶつぶつ文句を言われる始末で。最悪の起こされ方だ。あの時ほど妹が怖いと思ったことはなかった。で晴れて2人とも同じ大学への進学が決まったわけだが…。まあそういう意味では妹・鈴夏にも感謝しないといけない。まあ卒業旅行には特別に佐倉と一緒に連れて行ってやったが…。あれからもう5か月も経つんだなぁ〜っと思うと非常に感慨深い。
で、今だ。七海が今年はもう少し耕作地を増やしたいというので、その手伝いに借り出されているわけだが、これが非常に体に堪えるわけで…。俺としてはもうその辺でいいんじゃねーのか? と思ってるんだが、俺の彼女はいったん始めだすととことんまでやってしまうたちなもので、こう言うと急に拗ねだす。まあこいつが拗ねたところで俺の夕食が一品減らされるだけだからそんなには困ったことにはならないのだが、問題は我が妹なわけで…。前述の通り柔道家な妹に前に“行かねー” と断ったら一本背負いで3メートル飛ばされて背中を思い切りフローリングの床に打ち付けられて痛かったことが相当あるわけだから、迂闊にも“嫌だ!!” とは言えんわけだ…。で今日も駆り出される予定なのだ。そういや鈴夏は今日は部活は休みだったっけ? …よし、あいつも一緒に連れ出してやろう。そう思い妹の部屋までやってくる。一応妹とはいえ女の子なんだからとノックはするものの…、返事はなし…。まあ普段柔道部の練習で疲れてるんだからしばらく寝かしといてやるか…。そう思い直し階下へ降りる。
親父は今日も学校だ。まあこんな田舎な町にも高校はある。親父は一応高校教師なわけだが、教師と言うより柔道家のほうがぴったりくるんじゃねーのか? と思うわけで…。そんなこんなで七海と一緒にへーこら言いながらいつもの農園に到着する。まあここもあまり変わってねーよな…。そう思いつつ、農機具をリヤカーから降ろす。
「今日はどうするんだ? また耕すのか?」
「うん、そうだよ〜。今年はもう少し広げたいなぁ〜って思ってるから健ちゃんもお手伝いしてね?」
と野菜の苗を手に取りながら俺の顔を見つめてそう言う七海。まあときどきへっぽこ顔になるが、普段はごくごく温和で可愛い顔なのでついつい俺のほうも見とれてしまう。最近は薄く化粧もするようになったが俺はすっぴんでも十分だというかすっぴんのままがいいなと思う。その辺は七海も分かっているのか俺の前ではすっぴんのままだ。さ〜って、作業に入りますかね? そう思い鍬を持って昨日耕したところまで行く。ざっくざっくと土を掘り起こしていく。ミミズや何かがうようよ出てきたが、別に気にせず土を掘り起こしていく。昔、俺がここに来たばかりのころは、ミミズが珍しくて手に乗せてうねうね動く姿を見ていたのだが…、今じゃ田舎暮らしにもすっかり慣れてしまった。と言うかもうこの生活スタイルに慣れちまったんだなと思った。
しかし今年は天気が不安定だな。この前も雹が降って大変だったなぁ〜なんて考えながら畑を耕していると、“わわわわ〜” とぽんこつな声が聞こえてきた。手を止めて、声のしたほうを見てみると、七海が座り込んでいる。ははぁ〜、昨日の夜に仕掛けておいた俺のトラップに引っかかりやがったな? そう思う。実のところ昨日の夕方ちょっとしたイタズラを仕掛けておいた。まあその中にはプレゼントも入れておいたのだが…。さてぽんこつさんはどんな反応を示すのかな? と楽しみに待っていると、ポッと顔を赤らめながらちょっとぷぅ〜っと顔を膨らませてこっちに歩いてくる。
「健ちゃん!! こ、こ、こんな写真いつ撮ったのよぉ〜っ!!」
「お前がこの前うちに泊まりに来たときだな? ちょうど昼寝してるところを撮ってみたんだ。どうだ? 可愛く撮れてるだろ?」
“可愛くないわよぉ〜っ!! だ、だってよだれとか垂らしちゃってるし…” そう言いながらポッと頬を赤らめる七海先生。“まあ怒るな、鈴夏たちには見せてないんだから” と言う俺に、“ほんとに〜?” とばかりな疑いの目を向けてくる。アイコンタクトで“本当だって…” と言うと、ほっと安心したみたいでいつもの笑顔に戻っていた。まあ妹に見つかれば柔道技をかけられて痛い目を見ることは明らかなわけで、このことは当然のことながら秘密なわけだ。と腹がぐぅ〜っと鳴る。そういや、昼飯を食ってから3時間ちょい何も食ってねぇな〜。七海スペシャルはこの間苗を植えたばかりだし…。トマトはさっき植えた。はぁ〜、しょうがねぇ、このまま帰るまで待つか…、と思っていると?
「いやぁ〜、助かった。ちょうど小腹が空いてたんだ」
「どうせ健ちゃんのことだから、こう言うと思ってたんだよ〜? さあまだまだいっぱいあるから食べてね?」
“どうせ俺のことだから…” のところがやけに引っかかる物言いだがこの際どうでもいい。目の前の美味そうなサンドイッチにはかなうまい。そう思ってパクつく俺。いつもながらに美味かった。横では七海が俺のプレゼントを嬉しそうに初夏の太陽にかざして見つめている。2ヶ月くらい前にドライブがてら通りががったガラス細工の店で欲しそうにしてた小物なのだが、そのとき2人とも小遣いが足りなくてあきらめて帰ってきたわけだ。七海の恨めしそうに見つめる目を未だに覚えている。で、この前ちょうどいいことに親父の手伝いに駆り出されてひーこら動いてその礼にもらった臨時収入とバイトでこつこつ貯めた金とで買ってきたのだが…。横でにこにこ顔の七海を見て少々遠かったけど買ってきて本当に良かったと思った。冷えた麦茶を一気に呷ると、ふぅ〜っと小さくため息をつく俺。そんな俺に、“ありがとう健ちゃん。おうちに帰ったら早速飾っておくね?” とにっこり微笑みながら俺の彼女はこう言う。その顔を横目に見ながら、
「さ、さあ! 続きをするぞ〜っ! 休憩ばかりしてるといつまで経っても終わらないんだからな…」
と照れ隠しにそう言う俺。そんな俺にうんと頷くとまた嬉しそうに七海はにっこり微笑む。鍬を持って立ち上がる。さてもう一頑張りしますかねとばかりにザクザクと土を耕す俺。そんな俺を見つめながら自分の仕事に入る今日5月20日は俺の幼馴染み兼彼女、近衛七海の19歳の誕生日だ。
END