時には構ってほしいのですっ!
今日5月30には私のお誕生日です。今年高校2年生な私は今日も隣り町から自転車をかっ飛ばして高校まで通っています。片道15分。信号とかもあるので実質20分ぐらいかな? 実のところ家の近くにも高校はあるんですけど、私はこちらの高校を選びました。中学までこの町に住んでいた縁もあってか愛着がこちらの高校のほうが強かったのも1つ、友達もこっちの高校のほうが断然多い(と言うか向こうの高校では独りぼっちになっちゃうので)のが2つ、でも最大の原因は私の片思いの人がこっちの高校にいるからですかね。片思いと言う関係で先輩後輩の間柄なんですが私はそれでもいいと思っています。でも、最近はなぜかやたらと忙しそうにしていて、全然かまってくれません。以前なら、“よぉ、佐倉。今日も虚しいバストアップに励んでるのか?” とか、“セクシーさは未然も感じんなぁ〜?” とか私の気にしていることをずけずけ言ってきてはぷぅ〜っと怒るふりをすると途端に謝ってきていたのに、最近は、“佐倉、すまんな?” とか何とか言って全然私にかまってくれません。今まであんなにかまってくれていたのにここ1か月くらいはその気配すら感じません。先輩の彼女さんである七海先輩にも聞いてみたんですけど、“いつも通りだったよ?” と言われてしまいます。
何か私だけ仲間外れにされている? と言う感じが否めないので今日はどんなことがあっても直接先輩に聞こう! と決意してお泊りセットも持参しての登校となります。途中同じクラスの男子が、“何だぁ〜? その荷物。山籠もりでもするつもりか〜?” とにやにや笑いながら尋ねてきましたけど、“私は今それどころじゃないんです!” と、キッ! と睨むとぶるりと一震えに震えてそそくさと学校へ行ってしまいました。もちろん先輩の妹であり私の親友でもある鈴夏ちゃんにも聞いてみたんですが、“えっ? お兄ちゃん? いつも通りだったけど?” と言うばかり。はっ! さてはみんな私のお誕生日を忘れている? と言う考えも浮かんできましたが、以前先輩の家にお邪魔した時に先輩がちょっと用を足しに行ったときカレンダーの5月30日のところに、“佐倉裕美のお誕生日” ってマジックで書きましたからその心配はないはず…。じゃあ何? と思うけどこれと言って迷惑をかけたわけでもないし…。と、とにかく今日は先輩の家に泊まって理由を聞かなくちゃ! と思って始業のチャイムを聞く私がいたのでした。
終業のチャイムが鳴りました。これから帰る友達や部活に行く友達(鈴夏ちゃんがその典型かな?)を見送って私も行動に出ます。鈴夏ちゃんにはお昼に言って了解を取って来たから大丈夫。って言うか今日から中間テストだから部活と言っても荷物を取りに行くだけなんだけどね? と言うことで早速先輩の家に突貫しましょう。自転車に乗ります。漕ぎ始めると5月末のちょっと蒸し暑い空気に海からの涼しい潮風が当たって何とも言えない感じがします。緩やかな勾配の坂道を上ったり下りたり…、途中の自販機でジュースを飲んでると、“あっ、佐倉さん、先帰るねぇ〜” と言いながら鈴夏ちゃんが私を追い越して行ってしまいました。勉強が苦手な鈴夏ちゃん。もちろん私もなんだけど、いつも休み時間に私のところにやって来たり私が行ったりして一緒に勉強しています。さてジュースも飲んでぽいっと籠へ…って、あらららら…、入ってくれません。慌てて缶を取りに行って籠へぽいっと捨てて先輩の家へ…。しばらく自転車を漕いでいると目指す家が見えてきました。何度となく通い詰めた先輩の家、今日も来ました。しかし今日はちょっと怒ってます。最近のあからさまに私を避けている先輩初め七海先輩や鈴夏ちゃん、果ては多恵先輩までどことなしかよそよそしい感じがしてなりません。自意識過剰と言われるとそうかもしれないですけど、今まで気軽に話しかけてくれていた人たちが急に話しかけてくれなくなるって言うのはどことなしか寂しいもの、と言うか怖いです。何か悪いことをしたのかな? と考えてしまいます。私自身は微塵も悪いことをしたつもりはないんですけど、何か余計なことを喋っちゃったりしちゃったのかな? と思ってしまいます。取りあえず先輩に聞いてみよう。もし私に悪いところがあったら謝って許してもらおう。そう思って先輩の家の前、立つ私。恐る恐るチャイムに手を伸ばして押しました。が、中からの応答はありません。ここに来て不安感が増してきます。チャイムを連打します。“私ですぅ〜、佐倉ですよぉ〜。せんぱ〜い、開けて下さ〜い” と呼んでみましたか応答はありません。もしかして七海先輩のお店に行ってるんじゃ? と思いましたがここに来る前にお店の前を通ってチラッと見ましたけど七海先輩のお母さんがいるだけでしたし…。
入っちゃおうかな? と思ってドアに手をかけてガチャッとノブを回す私。まあ開いているはずはないとは思っているんですけどねぇ〜…って! 開いちゃった?! “は、入っちゃいますよぉ〜? いいんですかぁ〜?” そう怖々言いながら入っちゃう私。それにしてもシーンと静まり返って不気味だなぁ〜なんて思いつつ、玄関前に佇む私。もう一度中に向かって呼びかけてみたのですが、シーンと静まり返ったまま…。靴を脱いで、“お、お邪魔しま〜す” と怖々言いながら失礼ながら上がらせてもらいました。奥の部屋は何だか怖い気がするので2階に続く階段の下から呼びかけてみますが、当然のことながら返答はなし。勇気を振り絞って登っていく私。登ったところでもう1度声を掛けてみましたが静まり返った2階はとても不気味です。鈴夏ちゃんの部屋、先輩の部屋と見てみましたけど誰もいません。先輩の部屋…、何度となくお邪魔はしてるのですけどこうして1人で入るのは初めてです。先輩のベッド、ここでいつも寝てるんだなぁ〜っと思うとちょっとだけ寝てみたい心境に駆られてしまってとんとお尻を置いてそ〜っと寝てみました。ああっ、これだけで幸せ…。とベッドの上をごろごろしながら思いましたが、こんなところを先輩に見つかってしまうと、明日からなんて言われるかたまったものではありません。非常に名残惜しかったのですが、泣く泣く後にしました。
ほかの部屋も見て回りましたが、別段変わったところはありません…、と言うことで残ったのは奥の部屋、最初に怖そうだなぁ〜っと思っていた部屋です。恐る恐る部屋の前までやってきます。ごくっと唾を飲む音も聞こえていますが、エイッとばかりに扉を開けたところ…。
「あのな? 今回はお前を驚かそうと思ってやったことなんだ。だから…、その…許してくれっ!!」
涙目の上目遣いにぷぅ〜っと頬を膨らませて俺の顔を見つめる佐倉。ある意味女の子の最終兵器まで持ってこられてたじたじになる俺。まあ予想していたとは思うのだが佐倉を驚かす目的でみんなにそ知らぬふりをさせていた俺がいたわけで…。佐倉は佐倉でこういう性格なものだから俺の後をこそこそついてくるんだろうなぁ〜っと思っていたわけだが案の定家に上がり込んできたわけで…。って、その顔は止めてくれ…。と未だに恨みがましく俺の顔を見つめてくる佐倉の顔を見ながらそう思う俺。と、そ、そうだ! プレゼント! と思い自分の部屋に上がろうと1階の階段までやってくる俺にがしっと掴む手が一つ。手の先を見るとさっきまで拗ねていた佐倉が慌てたように俺の手を握ってくるではないか? “も、もう機嫌も直りましたから、ほら、にっこり。だ、だから私のそばにいてくださいよ〜っ!” と無理矢理微笑んだ顔をしてそんなことを言いつつますますがしっと手を掴んで離さない。
これは何か裏がありそうだ…。そう思った俺は強引に行こうかとも考えたが、もし強引に行って後々酷い目に遭うのは俺な気がするので油断させて隙をついて2階に駆け上がる計画を練る。まあこいつが何かしたのは間違いはないだろう。2階に上がって降りてくるまですごく時間がかかっていたからな? ひょっとして秘蔵コレクションを見つけられたか? とは思ったがあれはそうそうたやすく見つけられん場所に隠してあるので大丈夫なはずだ。そう思いつつ前を行く佐倉の隙を窺う俺。と佐倉が椅子に手をかけた瞬間の一瞬の隙を見計らってダッシュして階段のところまで戻り2段越しに階段を駆け上がり俺の部屋に転がり込む。とそこには、明らかに寝乱れた布団と枕が置いてあったわけで…。なあ佐倉さんや、あんたここで一体何をしてたんだ。もしかして俺の布団に潜り込んで…、い、いかがわしいことをやってたんじゃ? なんて考えてると、どたどた足を鳴らしながら佐倉がやってくる。“なあ、佐倉さんや。俺のベッドで何かした?” とさっき思っていたことを口に出す。と逆ギレしたようにまるで片瀬のところの進藤のような口調でこう言う佐倉。
「ええ、先輩のお布団で寝ましたけどそれが何か? と言うか先輩が私のお誕生日に何も言ってくれないから私がこうしてわざわざ先輩の家までやって来たんですからね? でもいたらお返事くらい返してくれてもよかったんじゃないんですか〜。そう言うことをしないから魔が差してしまって…。と、とにかく先輩が悪いんですからねっ?!」
くわっと目を見開いて言う佐倉に気圧されする俺。むむむむむ〜、このままでは俺のほうが悪くなっちまう。ふんっとそっぽを向いてぶつぶつ文句を言う佐倉。聞いてみるとこの前はああだった、あの時はこうだった…、と前に事例を出しながら文句を言っている。果てには子供のころのことまで持ち出され、ぷぅ〜っと頬を膨らませる始末。さすがにここまで言われると腹も立ってくるわけで。でも一応こいつの誕生日だからと怒りは鎮めた。が言われっぱなしはむしゃくしゃするので、某・テレビアニメの中で言っていた文言と言うか歌を歌う俺。
“♪〜 佐倉裕美は淫乱だぁ〜♪ 男のベッドで身悶えるぅ〜♪”
途端に顔を真っ赤にしながら、“なっ? 何てことを歌ってるんですか? こんなところで〜っ!!” とぴょ〜んと俺の背中にしがみついて口を塞ぐ佐倉。柔らかいものが背中に当たる感触が気持ちがいいんだが、七海や多恵先輩に見つかるとそれこそ大目玉だしうちには鬼のように怖い妹もいるんだから離れてくれ〜と懇願すると、“じゃあ私が先輩の部屋で寝ていたって言うこともみんなには内緒って言う交換条件なら黙っておいてあげますよ〜” と後ろ手に言う佐倉のにんまり笑う顔に何故だか敗北感を感じてしまう今日5月30日、俺の学校のうるさ型な後輩・佐倉裕美の誕生日だ。
END
おまけ
余談だがその後1階に残っていた連中から疑惑の目で見られたことは言う間でもなく、いつしか楽しい誕生日パーティーのはずが、中世の異端審問のようなおどろおどろしい感じになったことは言う間でもなく…。佐倉は佐倉で俺を弁護してくれるのかと思いきや、さっき俺が歌った歌を持ち出して文句をぶつぶつ言ってるしっ!! 妹は今にも飛び掛からんとするような体勢に入っているし、先輩も七海もぷぅ〜っと頬を膨らませて怒った表情を見せている。俺には味方はいないのかぁ〜っ!! って言うか裏切ったなぁ〜。“も、もう絶対お前の誕生日なんか祝ってやんね〜っ!!” と思った何かを間違えた感のある妹の親友で俺の学校の後輩のちょっぴりぽんこつな佐倉裕美の誕生日。でその後、妹には案の定と言うか何と言うか、柔道の投げ技・極め技を掛けられた挙句、3時間みっちりと先輩と七海からお説教を受けて、佐倉は佐倉で今までの鬱憤なのか何だか分からんのだが、ぶつくさ文句のオンパレードでお説教が終わるころには体が白くなっていた俺がいたのだった。がくり…。
TRUE END?