キャンディーを作ろう


 明日2月2日は俺の1つ年上の先輩で彼女な石和多恵の誕生日だ。昨年の3月に学校を卒業した俺の彼女は、今は近くにある(と言っても電車で2時間ほどかかるのだが)大学で介護について学んでいる。俺は今春卒業する。進路も大体決まっている…と言うか彼女と同じ大学を受験した。まあ結果はもうすぐ分かるわけだが、手ごたえはいい感じにあったことだし、多恵もよく俺の勉強を見てくれていたし、隣の幼馴染みのぽんこつとも勉強を見せ合いっこしていたので多分大丈夫だろうと俺自身は思っている。
 で、最近何かとお菓子の話になる。そういや多恵も鈴夏や七海、佐倉如何甘いもの好きだよなぁ〜っと思う。約一名からいもの&甘いもの好きな女がいるわけだが、あいつの場合味の好みが両極端なのでここではからいもの好きとしておこう。とにかく一般的に女の子は甘い物好きな感じがするのだが。まあ多恵の好きなものはある程度分かっているので、楽だよなぁ〜っと思っていたんだが、最近多恵はキャンディーにハマっているらしい。てっきり和菓子かと思っていた俺にとっては予想外のことで一瞬ぽかーんとした顔になったわけなんだが…。多恵はそんな俺のほうを怪訝そうに見ながら…、
「何? 友坂くん。わたしがキャンディー好きなのがそんなにおかしい?」
 いや、別におかしくはないんだが…、と少々しどろもどろになりつつそう言う俺。多恵はと見れば上目遣いに顔を窺うと案の定ぷく〜っと頬を膨らませていらっしゃる。いやいや、いつもはみたらし団子か桜餅か、和菓子系が多かっただろ? と言うと、“最近洋菓子も美味しいなぁ〜て思っちゃってて…” と不機嫌そうにそう言って怒ったような拗ねたような顔で上目遣いに見つめてくる。まあ味覚と言うものは常々変わるものだと一般的には言われているし、俺も昔好きだった甘いもんが最近じゃあまり入らなくなった。多恵もその口なんだろう。そう思い素直に謝ろうと思って彼女のほうを見るとまだぷく〜っと頬を膨らませている。その顔が何だか子供っぽくて思わず、“ぷぷっ…” と笑ってしまったのが悪かったのか、本格的に拗ね始めてしまう。さっぱりしているようで実はうじうじしている彼女はぶつぶつ文句を言い始めるわけで。いや文句と言うか駄々っ子が駄々をこねてるようだな? と彼女の物言いを聞く俺。と、今までぷんすか怒っていた彼女が意味深に笑う。こう言うときには何か無理難題を思いついた顔だなぁ〜? と思ってると、
「もうすぐわたしのお誕生日なんだから、友坂くんにはキャンディーを作って来てもらおうっと! いいよねぇ〜? あっ、もちろん七海ちゃんに手伝ってもらうって言うのはなしだよぉ〜?」
 と案の定無理難題を吹っかけてくる。そう言ったときの多恵の得意満面の顔に少しばかり腹も立ったが、まあいつも面倒事を持ち込んでは何がしら解決策を見つけてくれているので、文句は言えない。もし文句を言おうものなら、それこそぽんこつ幼馴染みに何を言われるか分からん。それだけならまだしもうちには鬼より怖い妹がいるのだ。この前もちょっとした言い争いから、“鈴夏ちゃんに言う!!” と言って妹に危うく極楽への道へ行かされそうになったくらいだ。なのでここは素直に従っておこう。そう思ってうんと首を縦に振る俺がいたのだった。
 さて、放課後になる。いつもならヤッホー! と言う気分になるわけだが今日はそんな余裕はなく。でも多恵も何も料理下手な俺に作らせなくてもなぁ〜…と思うわけだがもともとの原因は俺であるのでため息をつきつつ、材料を買いに行く。って言うかキャンディーの材料ってなんだ? と思ってあれやこれや考え込んでいると、“キャンディーは砂糖とお水が原材料なんだよ〜” と言う声が背後を通り過ぎていく。ってちょっと待て? 何で多恵の声が? と辺りを見回すがもういない。…多分心配になってついてきたんだろうなぁ〜。と言うか、そんなに心配なら一緒に作ればいいじゃないか? とも思うんだが、得てしてこう言うことには頑固と言うか信念を曲げない俺の彼女なので、ここは頑張って作ってやりますか…。と簡単なキャンディーの作り方の本を買って、家へと帰る俺がいたのだった。
 家へと帰ると早速キャンディー作りの材料を取り出す。と言っても砂糖と水だけなんだが…。とあと、入れたら美味しくなるだろうと思って購入した水飴〜っと…。前に七海が本屋で買って、そのまま置き忘れていたキャンディーの作り方の本も出して読んでみるものの全く要領を得ない。いっそこのまま七海にでも頼もうかとも考えたが、案外こう言うことをぽろっと口にしてしまう七海には言えるわけもない。妹・鈴夏は、食べる専門だからなぁ〜。やるしかないのか…。そう思い本のページを開く。何かこう小難しいものではなくてシンプルなものがいいよな? いわゆるシンプル・イズ・ベストだ。と思ってぱらぱらページをめくっていると、これだ! と思うものに出くわした。多恵の言っていた砂糖と水とで作れるキャンディーが。早速作り方の行程を見ていくと、まず砂糖と水を鍋に入れ中火くらいの火にかけ沸騰させる。沸騰してくると、砂糖水が外側から色が変わってくるので色が変わったら火を止めかき混ぜる。かき混ぜているとさらに色が変わってくるので、それをアルミホイルなどに流しあとは待つだけと…。ただし、固まってしまうと取るのに大変なんで固めている間に、鍋にお湯や水を入れ温め、そうして形を整える。と…。まあ水飴はこのレシピの中には入ってないがせっかく買ったんだし入れてみよう。と思い作り始める。砂糖水を煮つませるといい塩梅になってきた。水飴を加えるとさらになめらかになってくる。焦げないように気を付けてアルミの皿に乗せていく。そんなこんなで10分程度で完成したキャンディー。と妹が帰って来たので毒見に食べさせてみたところが、めちゃくちゃ美味しかったらしく、もっともっととせがまれてしまって非常に往生したことは言う間でもない。


 さて今日2月2日、彼女の誕生日当日となる。支度をして階下に降りていつものように鈴夏の焦げ焦げ目玉焼きなんかを食べて登校する。まあ1つ変わっているところがあるとするならば、鞄の中のキャンディーくらいなものだろう。まあ高校3年の俺にとってはもう自由登校となっているわけで別に登校しなくてもいいんだが。現にぽんこつ幼馴染みは置いてきているわけだ。さて自治会長室の前までやってくる。昨日少しばかり怒らせてしまった手前入りづらいなぁ〜なんて考えてると、つんと背中を突っつかれる。うひゃおう!! と飛び跳ねながら振り返ると彼女がぷぅ〜っと頬を膨らませて立っている。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない。もう!」
 とご機嫌ナナメな様子。“さあ友坂くん、お仕事今日もいっぱいあるんだから…” と俺の手を取って部屋の中に連れて入る。まあそれなりに自治会の仕事をして休み時間になる。“ちょっと疲れたね〜” と彼女が言うので、渡すのは今しかない!! と思い、すっとラッピングした袋を彼女の前に出す。最初ははてな顔になっていた彼女も気づいたのか、うふふっと微笑んで、“健ちゃんのキャンディー、どんな味なのかなぁ〜?” と普段滅多に使わない“健ちゃん” なんて言う言葉も出てくる。元々垂れ目なのがもっと垂れ目になるくらい美味しそうに俺の一夜漬け? キャンディーを頬張る彼女が何だか可愛い。1つ食べ終わっての感想は、“これ本当に手作り?” と言う感想だった。まあ疑われても仕方がないのだがこれは正真正銘の手作りなのでそう言うと、“そうなんだぁ〜” とやけに感心したように言う多恵。こんな飴1つで、怒った顔も笑顔に変わるんだから女の子は可愛いもんだな? そう思う今日2月2日、俺の1つ年上の先輩で彼女な石和多恵の19歳の誕生日だ。

END