モテモテ? 鈴夏ちゃん


「ふっふ〜ん、あたしにだってラブレターくらい来るんだからね〜?」
 妹の得意げな顔が俺の目の前にある。今日8月22日は柔道家の娘でちょっぴり甘えん坊でわがままな俺の妹、鈴夏の誕生日なわけで…。で、どう言う訳か今朝、いつものように新聞を取ろうと思って新聞受けのところを覗きこんでいると見慣れない封筒があった。何だろうこれは? と思って取り出してみるとどうやらラブレターのような感じだ。いったい誰からだと見るが、肝心の名前がない。で、誰宛だ? と見てみると…、今現在、ふっふ〜んと俺の顔を得意げに見遣っている妹の名前が書いてあったわけだ。しかし、こんな凶悪で粗暴で家事も一切ダメな妹を好きになるヤツもいるもんだなぁ〜っと思う。まあ胸だけはでかいし、顔も妹贔屓するわけではないのだが結構可愛い顔をしているからそこそこモテるんだろう。と言うか今までラブレターの1つも来ていないことにもびっくりするわけだが…。
「で? そのラブレターにはなんて書かれてあったんだ?」
 と、未だにラブレターを見せつけて得意げに俺の顔を見遣っている妹の顔を見ながらこう言う。“え〜っとねぇ〜?” と例のラブレターの包みを開けると自慢げに読み上げる。“‘あなたのことをいつも見ていましたが、直接言うほうがいいと思ったので、今日の夕方駅前の噴水の前で待っています。’ だって〜。きゃあ、どうしよう。こんな情熱的な台詞を書いてくるんだから、絶対かっこいい彼氏に違いないよ〜” と言うと頬を赤く染めていやんいやんと首を横に振っている。もう勝手にやってくれ…、とばかりに未だに嬉しそうにラブレターを見つめている妹を見遣りつつため息をつく俺。しかし…、妹に言い寄る男ってどんなヤツだ? と興味もわいてくるわけで…。後でこっそりついて行ってやろうと思った。
「じゃあ行ってくるね〜? うふふふふぅ〜」
 とにこにこ顔で出かける妹。“おう、行って来い” とばかりな笑顔で見送る俺。ドアを閉めてからが勝負だ! そう思って閉まる瞬間まで待つ。3、2、1…。閉まった!! と思うが早いか階段を一気に駆け上がりパパパッと着替えてまた階段を滑るように降りてきた。要した時間、約45秒なり。これがオリンピックの正式種目だったら確実に金メダルを取れていただろう。まあこんなものがオリンピックの正式種目になったらそれこそ世も末な感じがする訳だがな? と、こんなことを考えている暇なんてなかったんだった。急いで後をつけないと見失っちまう。そう思って出かけようと玄関の扉を開けようとした刹那…、
「あれ? 健ちゃん、どこか行くの?」
 俺、ピーンチ。そこに立っていたのは幼馴染みであり俺の彼女であり、この家にはなくてはならない存在である七海だ。“ちょ、ちょちょちょっと急ぎの用が出来てだな?” とごまかしごまかしに言う俺にピーンと感づいたものでもあったんだろう俺の服の袖をギュッと掴んだままむぅ〜っとちょっと怒ったような顔になる七海先生。何度となくその顔を見てきた俺はこの後の展開が分かってきてしまうわけで…。結局七海に全部喋ってしまった。まあところどころ脚色を加えてだが…。怒られるかと思って半ばビリビリしながら言葉を待つ俺に七海先生の言った言葉は意外なものだった。
「わたしも見てみたいなぁ〜。鈴夏ちゃんにラブレターを渡した人…。うふふっ」
 へっ? と一瞬アホな顔になる。“あ、あの〜。七海さん? 普段こういうことはプライバシーだからダメとか仰っていたように思うのですが…” と恐る恐る尋ねると、“今回はいいの。それに健ちゃんだって気になるでしょ? 鈴夏ちゃんのラブレターの相手” とにっこり微笑んでこう言う。まあ気になるからこうして後をつけようと思い立ったわけだが…。まあ七海は鈴夏のお姉ちゃん的存在だからな? そう言う意味で気になるんだろう。そう思い1分で準備しろと言うと、急いで自分の家に駆け込んでいった。
 夏休みも後半に入って宿題やらで大変なのか駅前は閑散としていた。鈴夏はと言うと去年の哲は踏むまいと今年は早めに終わらせたらしく、後は小論文が残っているだけだとか…。まあ本人が申告しただけなのではっきりとしたことは俺には分からんのだが…。しかし、夏休みの初めにカリカリ夜中までペンを走らせる音が聞こえていたからあながちウソではないのだろう。そう思い木陰の一番奥の鈴夏には死角で見えないところからこっそりとみている。隣りの幼馴染みは真剣そのものの目でじ〜っと鈴夏のほうを見つめていた。だが、まだ現れる気配はなし。時間を見ると約束の時間を10分経過している。やっぱりからかわられただけか…。と思いつつ、何となく妹が可哀想になってきて、帰ったら一つ盛大に祝ってやろうかと思っていた刹那、向こうのほうから正装に身を包んだ紳士と、これまた身なりのいい男の子が来るではないか?
「わわわ、健ちゃん。あの人かも…」
 横のちょっぴりぽんこつさんもこう言って息を呑んでいる。俺もつられて息を呑む。鈴夏の前に来た紳士と少年。何か話をしているようだが遠くからでは声が聞こえん。何か少年のほうが真剣に話しているようだが、声が聞こえないので何を言っているのかさっぱり分からんわけで…。変装でもして聞きに行くかとは思ったが、もしバレて後で怒った妹に柔道技を全部かけられるということになっては身の破滅だ。そう思い行くのはやめた。と、しばらく話していた少年と鈴夏ではあったが、何やら鈴夏のほうがぺこりと頭を下げて、紳士と少年はその場を去っていった。去り際、少年は泣いていたんだろう。紳士に優しく介抱されている光景が印象的だった。その光景を見ていた鈴夏も申し訳なさそうな顔だった。何となくだがあの手紙の真実が分かったような気がした。七海も俺と同じように思ったんだろう、“鈴夏ちゃんが元気になるような献立にするから健ちゃんも手伝ってね?” とちょっとだけ寂しく微笑んでいる。まあ今日は盛り上げてやるか…。そう思い鈴夏より一足早く家路につく俺たちだったわけだが…。


「これもそれもあれもどれも全部美味しいよ〜っ!!」
 と夜、半ばやけ食いみたく七海の作った料理を食べている妹。まあやけ食いしたい気持ちは痛いほど分かるわけなのだが、そんなリスのようにいっぱい頬に詰めんでも…とも思う。が、そんな俺の考えをよそに妹はこそあど言葉を使いながら一心不乱に七海の作った料理を食べていた。まあやけになる気持ちも分からんでもない。小学一年生に告白されたのだから…。昼にちょっと考えていた通り、身なりのいい紳士はその小学一年生の彼の近所の小説家志望のお兄さんだったんだそうだ。ちなみに手紙を書いたのもそのお兄さんらしい。どおりで文章が上手いと思ったわけだ。妹はあの紳士の方かと思ってドキドキしていたんだそうだが、まさか10歳近くも歳の離れた少年のほうから告白されるとは思ってなかったんだろう。
 半ば放心状態で帰ってきて、“あたしって、ショ○コンの気があるのかなぁ〜?” と魚の死んだような目になってぽつり呟くと目にいいっぱい涙を浮かべて俺の元へ駆け寄ってきて、胴が千切れんばかりに抱きしめる。“ぐぇっ!” となりそうではあったのだが、服が濡れていることに気がついた俺は我慢してやろうと思った。まあ恋って言うものはこう言うほろ苦いこともあるんだ。それが将来いい経験になるんだから、いいを経験したな? と心の中でそう思った。
 で、今…。食べまくる妹を見ていると、“ねえ、そういえば何であたしがお兄ちゃんに抱きついたときに逃げなかったの? いっつも‘胴が千切れる〜っ!!’とか何とか言って逃げようとするのに…” と実に疑わしい目で俺のほうを見る。“そ、それはだな…” としどろもどろになりながら言い淀む俺。七海に目で“助けてくれ〜” と言う俺。そんな俺に何を勘違いしたのか、このちょっぴりぽんこつさんに俺が後をつけていたことを洗いざらい喋られてしまったわけで…。
「ふぅ〜ん、お兄ちゃんってばあたしの後をこそこそついてきてたんだぁ〜…。ふぅ〜〜〜ん」
 いつしか虎が獲物を狙う目の如く俺の顔をギロリと睨む我が妹。ああ、それでこそ我が妹だと思うが早いか、もはや恒例となった巴投げを喰らわされた挙句、極め技までしっかり極められて危うくばあちゃんの手を振ったところが見えたことは言うまでもない。でも、それが…、いいや、それでこそ我が妹だよな? と思わされる今日8月22日、ちょっぴり甘えん坊でワガママですぐに柔道技を仕掛けてくる、でも俺にとってはかけがえのない妹、鈴夏の17歳の誕生日だ。

END