初夏の海とラムネ瓶
今日5月30日は、妹・鈴夏の親友で一応俺の彼女の佐倉の誕生日だ。いつも隣町から片道1時間半くらいかけて高校に通ってくる佐倉は、“先輩と離れたくないんですぅ〜っ!!” と言っている。まあ、俺もこいつとは幼馴染みだし、結構可愛いから離れたくないって言うのが正直なところだ。しかし隣町から片道1時間半はきついよなぁ〜っと思う。俺だったらさっさと隣町の高校に編入してしまうところなんだが、よっぽどこの町の高校…、いや、俺への愛着心が強いのか(まあこれは俺の慢心なのかもしれないが)、1時間半かけて登校してくる。うちの高校は部活動は自由だから、下校時はそんなに慌てなくてもいいんだが登校時は部活動とかの折り合いもあるので早めに校門を閉めることになる。俺と七海はいつもぎりぎりのところでセーフなんだけどな?
まあ今日は日曜日だし、こっちから出向いてやるかということになった。“えっ? せ、先輩が私の家に?” 昨日の昼過ぎ電話でそう言ったらわたわた慌ててたっけか。しかし…、お邪魔虫はどこにでもいると言うことで、当然このことは鈴夏に聞かれてしまうこととなり、“お兄ちゃんばっかりずる〜いっ!!” とぷぅ〜っと頬を膨らましたような拗ねた表情で言われ、そのあとどう言う訳か七海にも伝わって、それから今年の春、うちの高校を卒業して佐倉と同じ町の大学に通う多恵先輩にも伝わって、挙句の果てに美空や俺の不倶戴天の敵である、従姉のひかりとおまけの端野にまで伝わってしまっていた。
それもこれも今俺の隣りで上目遣いにきろりと睨む妹・鈴夏の差し金なのは言うまでもない事実なわけだ…。はぁ〜っと深いため息を1つ。普段から何かと俺に対してぶつぶつ文句を言ってはぷぅ〜っと頬を膨らませてくる鈴夏を見ると子供の頃のままだよな? と思ってしまうわけで。昨日もそう思ってしまいぷっと吹き出してしまって、後は想像の通り3メートルも投げられた。でも妹に投げ飛ばされて言うことを聞かなければならない兄って一体? とは思うんだが。うちの妹ほど乱暴な妹はいないと思うわけで…。いや、探せばいるんだろう。けど探そうと思っても日本全国ともなると大変だしな? それにこんな計画がバレた暁には、病院送りになりかねん。はぁ〜っとまた盛大にため息を1つつく。そんなことを知ってか知らずか横の妹は七海と談笑していた。
で、今鈴夏と七海と一緒に隣町へ向かう電車を待っている。先輩やひかりとは隣町で落ち合う予定…ってこれを決めたのも何を隠そう妹の鈴夏なわけで…。って言うか本来なら俺1人で行くところだったんだけどな? 隣町へ向かう電車が入ってくる。ぷしゅ〜っと扉が開くと中に入った。お客はまばらだ。“通勤通学時はいっぱい乗ってきて大変なんですよ〜っ!!” と言う佐倉の言葉はありゃ大げさに言ってるんだな? とまばらなお客を見つつそう思う。それにしても5月も下旬も下旬、明後日から6月に入るんだから暖かいを通り越して暑いのだが今年はなぜか涼しいいわけで。途中で買った缶入りラムネも少し温もっている程度だ。しかし、カシュッとプルタブを開けると炭酸がジュワワワ〜ッと出てきた。慌てて飲む俺を横目にくすくす笑う鈴夏と七海。その顔に異様に腹が立った俺は二人の持っていたラムネをシェイクしてやった。ふふふっ、俺を笑うからだ! 案の定、鈴夏と七海の缶入りラムネは、炭酸がプルタブを開けた瞬間、プシュ〜ッ!! と出てしまい僅かしか残っていなかった。その残りも炭酸が抜けて非常に味気なかったと言う鈴夏の言葉を継ぎ足しておく。でも佐倉の家に着いたらまた思いっきり投げ飛ばされるんだろうな? うううっと涙目になりつつこっちをギロリと睨む妹の目を見てそう確信する俺。
そうこうしているうちに海沿いに出る。ここから一直線で隣町へ着くのでもうそろそろ降りる準備をしなければならない。鞄は…と、持ったな? 一応鞄の中には今日の主役へのプレゼントが入っている。とは言ってもこれは当の本人と一緒に選んだものなんだけどな? そう思ってふと窓の方を見る。潮騒がきらきら輝いてとてもきれいだった。なるほど、時々遅刻してくるのはそのせいか…。もっともこんなきれいな光景を見れば誰でもほ〜っとなることは分かっている。男の俺でさえほ〜っとなっていたんだ。女の子は余計なんだろうな? そう思って隣りを見ると…、まあ七海は俺と同じようにほ〜っと海を見ていたんだが、問題は我が妹。いつの間にかすかぴゅ〜っと寝てやがる。えらく静かだなとは思っていたんだが案の定だった。って言うか色気も何もねぇな? おい!! とは思ったが後で酷い目に遭うのはいつも俺なので言わないことにする。この間テレビのチャンネル争いになった時に俺が問答の末勝ってやれやれと思っていたところ、むちゃくちゃ悔しがった妹に一本背負いで3メートルも投げられて、しかも投げた後、飛びついて腕ひしぎ逆十字固めを決められて結局テレビ占有権を妹に取られてしまったことは言うまでもない…。嫁の貰い手はあるのか? と心配する毎日だぜ…。ったく…。
と、そんなこんなで隣町の駅に到着する。“ふぁ〜あ、寝た寝た〜っ” と言いながら屈伸運動をする妹に苦笑いする俺。七海も同じように苦笑いを浮かべていた。電車を降りて改札口をくぐると、遠くでなにやらちびっこい体が2つほどぴょんぴょん飛び跳ねてるのが分かる。その横であわあわになりながらも止めようとしている人影も…。俺ははぁ〜っと今日何度目か分からないため息を吐くとその方向へと歩き出した。
「遅かったじゃないの…」
「まあいろいろあってな? ってまた二人とも背が縮んだんじゃねーのか?」
問答無用で腹と背中に鉄拳制裁を受ける。“あんたってやつは〜(キミって人は〜)、どうしてそうデリカシーがないわけ?!” 2人の声が見事にユニゾンしていた。くっ、ジョークも分からねーとは…。と思って多恵先輩のほうを見ると、“いや今のはジョークに見えなかったよ? 友坂君…” そう言って疑いの眼を俺に向けてくる。先輩までもが?! くっ…。そう思いつつ我が従姉の従者たるやつの存在を見かけない俺。“そういや端野はどうした? あいつ、先に行くとか何とか言ってたはずだが…” と思い多恵先輩に聞くところが…、
「ううん。私が来た時にはいなかったけど? って言うより友坂君、端野君と一緒なんだとばかり思ってたけど…」
と無邪気な先輩の声が響き俺はまた先輩を除く女連中から睨まれる羽目になった。ところで閑話休題ではあるが、その渦中の端野は先に来て佐倉の家にほど近い公園で待っていたようだ。今度は俺が先輩を除く女連中を睨み返すことになったんだが、ひかりと美空と鈴夏に非常に怖い目で睨まれて睨み返すような雰囲気ではなかったことをつけたしておこう……。って言うか今回は俺が正しかったのに何で睨まれにゃならんのだ? とほほ…。
今日5月30日は私の誕生日。今年は私が先輩の家に行くんじゃなくて先輩が私の家に来てくれるそうだ。でもみんなも来るんだろうな…。何となくだけどそう感じてお母さんに頼んで豪勢にピザとかお寿司とか取ってもらった。残っちゃったら残っちゃったでお土産として先輩に持って帰ってもらえればいいことだし…。あっ、そうそう、ラムネの瓶を冷蔵庫で冷やしておかなくっちゃ…。そう思って倉庫から10本入りのラムネ瓶を取り出してきて冷蔵庫に並べる。ラムネ瓶。私と先輩を最初に繋いでくれた思い出の品。子供のころのちょっとした出会い。それが今では彼氏彼女の関係になるなんてね? うふっ。そう思って先輩を待つ。
この待ってる時間もとても楽しい。と向こうから何やら見知った声が聞こえてくる。ワイワイ言ってるから、やっぱりね? と思い2階の自分の部屋の窓から見ると、案の定鈴夏ちゃんに手を引かれて歩く先輩の姿が見える。今年もにぎやかになりそうな予感。うふふっ。自然に笑みが零れる私。靴を履き表へ出るとぷぅ〜っと頬を膨らませた鈴夏ちゃんとペコペコ頭を下げながら必死に謝っている先輩の姿が遠目に見える。ぶんぶん手を振ってみたら先輩が気がついたのか手を振り返してくれる。梅雨の走りには程遠い青く澄み切った今日の空。私の心と同じような青空が広がっている。そんな今日、5月30日は私の誕生日…。さ〜て、今日は思いっきり先輩に甘えちゃおうっと…。えへへっ。
END