拗ねてるわけは?


「なによぉ〜。こういう時だけ素直になっちゃって〜。健ちゃんなんて知らないんだから〜。ぶぅ〜」
「お兄ちゃん! また七海お姉ちゃん泣かして〜!! この間もひかりお姉ちゃんのお誕生日も忘れて散々怒られたって言うのにさ。全く〜。ぶつぶつ…」
 今日5月20日はわたしのお誕生日。普通お誕生日は嬉しいイベントなんだけど、でもわたしは今、怒っていると言うか拗ねているわけで。現在夜の8時半。いつもならお風呂に入って一心地ついた頃なんだけど、今日はわたしのお誕生日だからって鈴夏ちゃんに呼ばれてルンルン気分で健ちゃんちに来たって言うのに…。ぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いに健ちゃんを見つめる。
「い、いや、忘れたわけじゃねえって。た、ただ、覚えてなかったと言うか何と言うか…」
 余計に悪いじゃないのよ〜っ!! 膨らませた頬をさらに膨らませるわたし。鈴夏ちゃんはと言うと目をギロリと健ちゃんの方に向けていつでも健ちゃんを攻撃出来るような態勢に入っている。いつもの鈴夏ちゃんの十八番でもある巴投げでもするつもりなんじゃないかな? って考えてそこまでしちゃうのは可哀想かなぁ〜って思っちゃう。この前も鈴夏ちゃんが、“またあたしのお菓子を食べられたよ〜っ!!” って言いながら問答無用に健ちゃん投げ飛ばしてたし…。まあ食べちゃった健ちゃんも健ちゃんだ〜って思ったんだけどね? その後ぶりぶり怒ってる鈴夏ちゃんを宥めるのに3時間ほど掛かっちゃったわけで。まあいっつもこんな感じだからもう慣れっこと言えば慣れっこなんだけど。でもわたしのお誕生日を忘れた健ちゃんには罰と言うか何かしてほしいし…。としばらく考える。その間に健ちゃんは鈴夏ちゃんに極め技をかけられていた。“鈴夏ちゃん、もういいよ?” って言おうと思ってたんだけど、健ちゃんに技をかけてる鈴夏ちゃんの目がまるで虎が獲物を襲うような目のように思えて怖かったから何も言えなかったけど…。健ちゃん、ごめんね?
 でもそうだなぁ〜。お誕生日を忘れてた健ちゃんには何か罰を与えないとね? ちょうど“貸し借り”のほうもわたしのほうが一つ上になっちゃってるわけだから、どうしようかなぁ〜? しばらく考えてあっ! といいアイデアが浮かぶ。今日は健ちゃんのお父さんでわたしたちの学校の先生でもあるおじさんは宿直でいないわけだし、それにお母さんも健ちゃんたちと久しぶりにゆっくり話がしたいって言ってたからね? うんうん。と一人合点したように頷いていると、
「おい、鈴夏。七海のやつ、ついに壊れたんじゃないのか? さっき怒ったかと思えば笑ったりうんうん頷いたりしてるぞ?…」
「七海お姉ちゃんは考えてるのっ! もう、お兄ちゃんは〜っ! そんな適当なこと言ってあたしから逃げようとか思ってたんでしょ〜? そうは行かないんだからねっ!!」
 “七海〜っ!! 鈴夏がいじめてくる〜っ!!” と言いながら考え込んでたわたしを楯にする健ちゃん。ほへっとした顔で前を見るとぷぅ〜っとこれでもかと言わないばかりに頬を膨らませて、“お兄ちゃんは〜っ!! そうやってすぐに七海お姉ちゃんの後ろに隠れるんだから〜っ!!” そう言ってくる。状況が分からない私は前でぷぅ〜っと頬を極限まで膨らませていた鈴夏ちゃんに状況を聞いてみることにした。もちろん健ちゃんも逃がさないようにガシッと手を繋いで…。


「“ぽんこつだから壊れたか?” とか思ってたんだ〜。って言うか健ちゃん!! 何度も言うけどわたしはぽんこつじゃないんだよ〜。お母さんからも何か言ってよ〜っ!! ぷんぷんっ!!」
「おばさんからこってり怒られちゃえばいいんだよっ! お兄ちゃんは〜っ…。ぶぅ〜っ!!」
 七海…。お前、自分がぽんこつだって言う自覚はあったんだな? と口には出さずに心の奥底でそう思う。口に出してしまえばある意味親父より怖い妹の十八番が待っているわけだ…。はぁ〜っとため息を一つ。あれから七海んちへ連れてこさされた俺はこうやって七海と鈴夏に俺の普段の生活態度を俺の母親代わりであるおばさんにチクられているわけで…。当のおばさんはと言うといつも通りの優しい微笑みで七海や鈴夏の言うことを聞いているわけだ。って言うか鈴夏? お兄ちゃんを更にピンチにさせる物言いはやめてくれないかなぁ〜っと、俺の秘蔵のコレクションの話を持ち出してあれやこれや身振り手振りで話す鈴夏にちょっと恐怖を感じる。と言うか何で知ってるんだ? 端野が喋ったのか? と言うことだがそうじゃないらしい。言うなれば女の勘なのだそうだ。恐るべし女の勘!! とこれからの置き場所を考えなきゃな〜なんてぶつくさ言う二人を尻目に俺は秘蔵コレクションの置き場のことで手一杯な感じなわけで。
 そうこうしているうちに七海と鈴夏が言い終わる。ちょうど真ん中に座らされている俺は両方の手を幼馴染みと妹にしっかりと押さえられているので身動きが出来ない。いや、幼馴染のほうだけだったら何とか動けるのだが熊をも倒しそうな妹が一緒だから動けば投げ飛ばされるのがオチなわけで…。何でうちの妹はこう育ってしまったのかと、親父の妹に向けるあのにこやかな笑顔を思い出しながらそう考えているわけで。ああっ、困った困った、困ったよ〜っとこの前やっていたアニメの主人公のような物言いのように呟くとびくっと右隣で今まで俺の顔をぶすっとした顔で上目遣いに睨んでいた七海が急にそわそわしだす。
「どうしたの? 七海お姉ちゃん。トイレだったら我慢しないで行ったほうがいいよ?」
「いや、そう言うわけじゃないんだけど…。一瞬誰かに呼ばれた気がしただけだから…。気にしなくてもいいんだよ? 鈴夏ちゃん」
 こいつも実のところ魔法が使えるんじゃないだろうか? と一瞬そう思ったのは俺だけか…。でもほんと俺の妹と幼馴染みは仲がいいんだからな? と思いながらぷぅ〜っと膨れている2人を上目遣いに見遣っているとおばさんから裁定が下る。一体どんな裁定だったかと言うことなのだが…。


「むぐぐぐぐっ、は、離れてくれ〜。暑苦しいし痛い〜っ!」
 と言う具合に昔のように3人仲良く川の字になって寝なさいと言うことになったわけだ。七海と鈴夏、最初は大人しく寝ていたわけだが当然寝相の悪い二人だから俺は今抱き枕状態にさせられているわけで…。まあ七海の方は抱きついてくるだけだからまだいいんだが、問題なのは我が妹。寝ながら腕ひじき逆十字固めは如何なものかと思うが妹は柔道家の端くれで一番胸もでかいわけで…。左手にかかる感触はなかなかのものなわけだが、生憎と左手の感覚は麻痺しているため、ぽにゅぽにゅしたあの独特の感覚は拝めないでいる。まあ右手の七海は寝返りを打つたびに柔らかい感触が体に当たってこれはこれでいいものかも知れんわけだが…。とにかく暑苦しいことこの上ないことは事実だな? はぁ〜っと一つため息を吐く。まあそんなこんなで今日も終わる。明日は学校の友達でも誘ってどこか行くかな? と考える今日5月20日、俺の幼馴染みで彼女な近衛七海の誕生日だ。

END