駄々っ子ひかりお姉さま
「潮干狩りに行くわよ〜っ!!」
今年も誕生日前にやってきたひかりがこう言った。まあこいつは昔から突拍子もないことを言うのが常だから今更どうのこうのとは言わんが、なぜに今更潮干狩りなんぞせにゃならんのだ? と思うわけだ。まあこいつは10駅向こうの町からやってくるので海岸線とかも通ってくる。途中で潮干狩りしてるやつでも見たんだろうなぁ〜っとは思ったわけだが、昨日から親父に“ひかりの部屋作っておけよ?” と言われていつもの如く20kgのダンベルなんぞを運ばされの(これは鈴夏の特訓用かなんかなんだろうが…)掃除をさせられのしてくたくたに疲れているところへ、鈴夏が勉強教えて…ときて断るといつもの柔道技をかけられて否応なく教える羽目になり、へとへとになって寝る段階で先に俺のベッドに入っていた鈴夏がぐーすか寝ていて俺はどこで寝たらいいんだ状態になって仕方なく1階のソファーをベットがわりに寝ていたわけで…。現在目の下の大きな隈を作っている俺がいる。妹の傍若無人さにもほとほと困っているわけだが、あれでいて怒ると泣きべそをかいてうるるした目の上目遣いと言う女の子の必殺武器を使ってくるのでなかなかに怒るに怒れない。
親父は妹には少し甘いところがあるのか、“お前が我慢しろ!!” と言ってくる。七海に言えば何とかおばさんのほうから注意してくれるんだろうが、こんな家庭内のそれこそどうでもいいような問題を他所様の家庭にまでもって来るのはどうだろうと最近思うようになった。まあ相手は長年の幼馴染みでも…だ。もっとも向こうは気にはしていないだろうが…。そんなわけでもう動けんとばかりに床に突っ伏す俺。行きたいんなら七海でも誘って行ってくれ…。取りあえず俺は今日は休む! とばかりに部屋の床をゴロゴロと転がる。
「七海を連れてけばいいのね〜? よ〜っし、あっ、お〜い、七海ぃ!!」
と窓際に来たんだろう七海を呼ぶひかり。この間から七海には“ひかりが来るぞ〜” と言っておいたので七海も“ひかりちゃん、な〜に?” と言ってくる。ついぞ言ってたことを七海に言うと、“今日はお野菜の収穫に行かなきゃいけないから…” と言っている。“え〜っ? いいじゃん。明日で〜” と言うひかりの言葉にも、“ダメだよ〜。今日収穫しないとお母さん困っちゃうんだから〜” と言って改めて断る七海。“ちぇっ…。でも仕方ないか…。おばさんの用事じゃねぇ〜” と諦めたのかつまらなさそうにぷちぷち鳴るおもちゃを鳴らしているひかり…。だが、ここで諦めないのがこいつの悪いところなのかいいところなのか知らんが、“裕美や多恵や美空がいたわね〜?” などと言いながら階下に降りて行った。確か多恵先輩は自治会で今度催されるイベントの準備でてんやわんやしている頃だろうし、佐倉は佐倉で今年受験生なわけなので俺たちと一緒の大学に通うために塾通いだと聞いている。美空はどうだか知らんが多分バイクでどこぞに行っているんだろうな? などとそんなことをのつそつと考えていると、ぷぴゅ〜っと頬を膨らませながらダンダンダンダンと不機嫌そうな足取りで階段を駆け上がる音が聞こえてくる。ああ、間違いなく全員お断りだろう。そう思いながら自分のベッドに戻ろうと起き上がろうとするとバーンと部屋の扉が開かれる。半泣き状態の従姉がぐぐぐっとこちらを睨んでいた。
「案の定、全員お断りだったわよ!! って言うか今日があたしの誕生日だって言うことさえ忘れてる子さえいたわよ!!」
と俺に八つ当たりのように言う。“そりゃご愁傷さまなこった。俺はこれから寝かしてもらうから…。じゃ、お休み…” と布団をかぶろうとするのだが、ぬっと突き出された手に遮られる。遮られたほうを見てみると案の定、もう全泣き寸前のひかり。ぼふっと俺の被ろうとしていた布団に体を預けて、“誰もあたしのお誕生日を祝ってくれないよ〜。うわぁぁぁぁぁぁ〜ん” と手足をどこぞのアニメでやっていたキャラクターのようにわさわささせている。だ〜っ! もううるせーっ!! とばかりにバッと布団をかぶる俺。しばらくドタバタしていたのだが、それも収まったかと思いほっとして本格的に寝に入ろうとすると何だか背中に柔らかい感触が…。何だ? と思って布団をバッとひっぺ返すと下着姿の従姉が怒スジを浮かべながらもポッと頬を赤らめてこっちを何とも言えない表情で見遣っていた。ベッドの上でどたばたやっていたのはこのせいだったのかと思って、“服を着ろ!” と言うところがどこぞのお嬢様よろしく、ふるふるふるっ!! とぶんぶん首を横に振ると再び俺の体にむぎゅ〜っと抱きついてくる。小ぶりではあるものの形のいいものが当たる感触は非常に心地がいいもんだ…じゃない! こんなところを七海や多恵先輩に見られた日にゃ俺の春休みが潰れてしまう。それだけならいいんだが、俺の家には鬼くらい怖い鈴夏って言う妹もいるんだ。多分俺は1、2か月あいたたこいたた言いながら過ごさなきゃならんだろう。そう思うとまだこいつに付き合うほうが何百倍もましなように思える。そう思い、“わ、分かった。分かったから、付き合ってやるから! だから下着姿でぐいぐい抱きつくのはやめてくれっ!! 小ぶりながら形のいい柔らかいものが背中に当たってるしっ!!” と白旗を上げた。“ふっふ〜ん、お姉ちゃんのあたしに勝とうなんて百年早いのよ。全く。……ぐすっ” と泣きべそをかきつつもにこにこ顔になるひかり。その従姉の顔に今年も敗北した俺がいたわけで。子供のころは何とか勝ったこともあったのだがここのところ全戦全敗。…で、今年もまた負けちまった俺はしぶしぶひかりのお願いを聞いてやることにしたわけなのだが…。
「わぁ〜、今日は貝づくしだ〜。これもそれもあれもどれも美味しそうだなぁ〜」
夜。親父たちが帰って来てのひかりの誕生日パーティーの席上、“こそあど言葉”でそんなことを言っては無邪気に喜ぶ妹。これだけ獲るのにどれだけ苦労したと思ってるんだ? しかもひかりが、“あたしが料理する!!” とか何とか言いだしてそこでまた一悶着があって結局おばさんに今年も厄介になったわけなのだが。というか味覚破壊者のひかりに味付けさせるなんて言うことはある意味死に値することなので今年もおばさんの厄介になったわけなのだが、七海は俺のほうを恨めしそうに見ていた。多分以前俺がひかりの激辛料理をおばさんに食べさせた(実際にはおばさん自身が食べたんだが…)ことを未だに根に持っているんだろう。って言うかもう昔のことだろ? と思って睨み返してやると途端にべそをかいている。なんてぽんこつなんだ? 七海…。と、ホカホカ湯気を出している貝づくし料理を早速頂こうと思って箸をアサリの酒蒸しのほうに持っていこうとすると、バシッと手を叩かれた。叩かれたほうを見ると案の定ひかりだ。何なんだ? おめでとうはさっき言っただろ? などと考えてると、口を大きく開けやがる。俺に食わせろって言うことなのか? と思って、付き合いきれん!! と思って美味そうなアサリを口に運ぼうとすると横からぱくっと食らいつく顔が見える。ああっ! 俺のアサリ! と食らいついた顔を見れば実に美味そうな顔をしたひかりがいる。はぁ〜、多恵先輩と言いいひかりと言い俺は年上には勝てんのかねぇ〜っと思いつつ、そういや鈴夏や佐倉のワガママにも勝てたためしがないなぁ〜と思う、唯一どっこいどっこいで七海といい勝負なんだがこれもあとどれくらい持つのか…、と思うととんでもなく不安になる今日3月20日は春分の日であって傍若無人なトラブルメーカーの一人でありちょっとだけ、ほんのちょっとだけ可愛い俺の従姉・仲里ひかりの誕生日だ。
END