鍬とバイクと海辺の道


 今日5月20日は俺の幼馴染みでお隣りさんでおまけに彼女でもある近衛七海の誕生日だ。誕生日だから何か欲しいもんはないのか? ととある先日の帰り道で聞いてみたところが、“ちょっと畑を耕すのに使ってた鍬がダメになっちゃったからそれが欲しいかな〜?” などと言ってくる。こいつの家は半分農家みたいなところだからか、本人がちょっとぽんこつだからかこう言う微妙にずれた答えをしてくるのだが、今回もまた同じような答えをしてくるわけだ。“それは畑のと言うか仕事用のものだろ? 俺が聞いているのはもっとこう七海自身のものだぞ?” と言うところが、うむぅ〜っと真剣そうな顔で考えている七海先生。とそうこうして学校に到着。まあ誕生日までには時間もあるし、ゆっくり考えるこったな? そう思い教室に向かう俺たちがいたわけだ。
 その夜、いつものようにおんぼろバイクを弄っていると表のほうから鈴夏と七海がやってくる。“おう、何だ? 2人して…” と言うと、妹が“七海お姉ちゃんがお兄ちゃんにお願いがあるんだって” と言うと無駄にでかい乳を揺らしながら嬉しそうに帰っていく。まだまだお子ちゃまな妹の仕草に少々頭を抱えながらもう1人のほうを見てみると、なぜか恥ずかしそうに身を隠しながらちょろちょろこっちを見遣っていた。いつもながらにお願いとかする時はこう言うふうになるよな? などと考えつつ、ふぅ〜っと息を吐きながらこう言う。
「確か先日の貸し借りのほう、俺のほうが借り100になってたよな? だから命令権はそっちにあるんだぞ?」
 と。貸し借り…。俺と七海とで決めた2人だけの決め事。当然のことながら俺のほうに借りのほうが多いわけで必然的にこっちのほうが言うことを聞くことが多くなっている。昔はそれがすごく嫌なわけだったんだが今では何と言うかそう言うこともいいんじゃないかと思えるようになった。だからと言って手を抜いたりとかはしているわけでもないのだが…。と言うか幼馴染みと言う間柄か俺の行動規範を熟知している七海に完敗しているのが常だったりする。とそ〜っと顔を覗かせて微妙に体をもじもじさせてながら、七海はこう言う。
「け、健ちゃん。お誕生日の日にうちに泊まりに来てほしいの…」
 何だ? そう言うことか。いつも何やらかやらで泊まりにも行ってるだろ? 何を今更…と思いつつ、OKの返事を返しておく。七海先生はと言うとほへっ? と一瞬アホな顔になっていたが途端に嬉しさいっぱいみたいな顔になってスキップしながらこっちにやって来ては、“お料理は健ちゃんの大好物のモノにするね?” だの、“健ちゃん、たくさん食べるからいっぱい作らなきゃね?” とか、まるで俺の誕生日みたくこんなことをのたまう。その異様な物言いに何か違和感みたいなものがあったのですこ〜し脅し気味に、“七海、何かあるだろ?” と口をタコ口に摘まんで質問してみたところが…。


「あ、あたしはお兄ちゃんと七海お姉ちゃんが早くくっついてくれることを願ってやったことなのに〜! う、う、うわぁぁぁ〜ん」
 まったく、うちの妹は…。とんでもねーことを考えやがるよな。いつもいつも…。いくら恋人同士だからって兄に安易に性犯罪者になれと言うことなのか? ええっ? と、そう言うことを幼馴染みのちょっぴりぽんこつな彼女に吹き込んだわけで…。七海も七海だ! 何でそこで真に受けてやろうとするんだ? まったく!! と今度は七海のほうを睨むと、うるうると涙を浮かばせて俺のほうを上目遣いに見遣っていた。まあ幼馴染みと同じところで一緒に寝るなんてことはガキの頃だけだしな? 懐かしかったんだろう、なんて考えつつも、睨む目は止めん俺。親父は今日は学校の宿直でいないので友坂家の最高権力者は俺と言うことになる。だからどうのこうのする気もないわけだが…。取りあえず鈴夏は明日親父と多恵先輩に言ってうんと叱ってもらうこととして…。問題は七海だよな? こいつの誕生日ももうすぐなわけだし、俺のほうも何かの形で祝いたいわけだし…。と考えて、ふといい案が浮かぶ。
 まあ学校のほうは1日ズル休みと言う形になるわけだがこれはおばさんにでも頼んで親父の怒りを半減させるように持っていってもらおう。そう思って1人うんうん頷いていると七海が、“健ちゃん、健ちゃん! す、鈴夏ちゃんが大変なことに〜っ!!” と恐々とした目でそんなことを言うので妹のほうを見てみると何かは知らんが白くなりかけていた。いつもなら怒るか拗ねるか投げ飛ばして来るかの3択なので、この反応には少しばかりと言うか大いに驚かされた。ぺしぺしと頬を軽く叩いたりしてみたりしたのだが元には戻らず、最後はおばさんに頼んで何とか元に戻してもらったわけだが…。っていうかおばさん、鈴夏の耳元で非常に怪しい文言を言っていたような気が…。まあ妹は元に戻ったので良しとしよう。そう考えつつ、“妹よ。俺にはお前の考えがさっぱり分からんぞ?” などと、ぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いに俺の顔を見遣っている妹に心の中で言う俺がいた。妹は、“お兄ちゃんが悪いんだからね? いつもいつもいつも…。ぶつぶつぶつ…” と妹の特権みたいにぶつぶつ文句を言いながらぷぅ〜っとまた頬を膨らませながら妹はまた拗ねているわけで…。で、また母親代わりのおばさんに、“そんなことを言ってはいけませんよ?” と窘められてちょっとしゅんってなる妹に少しばかり可哀想な気がして、“久しぶりに3人で一緒に寝るか? 今日は…” と提案する俺。それが間違いだったことは言う間でもなく。その日は3人川の字で寝たわけだが、当然寝相の悪い七海には抱き枕状態にされ、もっと寝相の悪い妹には柔道の寝技みたいなものをかけられて(縦四方固めか?)ぽよんぽよんぷにゅぷにゅとした感触が体の隅々にまで当たって嬉しいやら恥ずかしいやら痛いやらでその晩は一睡も出来なかったことは言うまでもなかった。


 で、今日、七海の誕生日になる。雲間から初夏の太陽が顔を覗かせていた。バイクのほうはちょっと改造を加えてサイドカー仕様にしてある。妹と幼馴染みの彼女が休みになると乗せて〜っと言ってくるのは当然と言えば当然なのかもな? そう思い今日も車庫の前まで来るとちょっとオシャレな服にオーバーオールのズボンと言う出で立ちの彼女が手持ちのピクニック用のバックを持ってにこにこ顔で待っていた。“遅いよぉ〜、健ちゃん” と俺の顔を見るや否や甘えたように少々拗ねたような顔をする。その顔は昔のままの見慣れたあの顔だ。“へいへい、すみませんでしたねぇ〜” と受け流して、バイクのエンジンをブルンと一吹きにかける。まあ幼馴染みだからか、そこは知れたものでもう機嫌も直って、“どこに行こうかなぁ〜? まず隣町の大きなホームセンターに寄って〜” などとスケジュールを立てていた。ホームセンターで鍬を買うことはこいつの中では既に決定していることなので、素直に従うことにしてその後はどこに行くか…。まあ風任せで行くとするかな? そう思いつつバイクに跨る今日5月20日は俺の隣りの家の幼馴染みでちょっぴりぽんこつな彼女・近衛七海の誕生日だ。

END