食い気より色気?
「ふっふ〜ん、あたしだって男の子の1人や2人くらい出来るんだからねぇ〜? まあ彼氏じゃないけどね…」
と最近妙に色気づいてきた? 妹がでかい胸を張ってこう言う。今日8月22日はいつも俺を投げ飛ばしている妹・鈴夏の誕生日なんだが、妹はどこかに出かけるみたいで隣りの俺の彼女である七海に化粧の仕方を教えてもらったのか、薄い化粧をして洋服もいつものだらしないパンツルックではなく小綺麗な淡い薄桃色のスカートにこれまた淡い緑色のブラウスに白い夏用のジャケットと言うどこぞのご令嬢が着るようないで立ちで俺の顔をややも嬉しそうに見つめていた。
そのいで立ちにぎょっ! となる俺。あの妹に彼氏? ともなるのだが、これでいてなかなかに可愛らしい顔立ちとでかい胸が特徴の妹だから、普通なら彼氏がいても何の不思議でもないんだ。ただ妹の場合、柔道黒帯の実力者なため、それを知っている者は絶対に近づけないと言うわけで。騙されてるんじゃないのか? と一瞬思うのだが、この笑顔の前では何も言えない。ますますもって怪しいのだが、口に出して言うと絶対反発して、“そりゃあお兄ちゃんは七海お姉ちゃんって言う椋来のお嫁さんがいるんだからいいよねっ!!” とぷぅ〜っと頬を膨らませてこう言うに決まっている。しかし、あからさまに怪しい感じがするわけで。ジョ○ョ風に言うところの、“ゲロ以下の臭いがプンプンするぜ” と言うところか…。
まあちょうど七海に妹のプレゼント選びに付き合ってもらう約束も兼ねて、この怪しすぎるお相手と言うものを見に行こうと思っている。もちろん妹には内緒だ。言うと絶対反発してくるに違いないので出かけた後にこそっと後をつけてみようと思った。もしチャラいやつで妹に破廉恥な行為をしようものならその場で殴り倒してやる。そういう覚悟の下、ひそかに準備をする俺。七海にも前に、“鈴夏が変なやつと付き合いだした” と言っているので、七海のほうにも携帯アプリで伝えておく。“すぐ用意するね?” と言う返事が返ってきた。
表へ出ると七海はもう準備万端整えて裏のガレージで待っていた。“健ちゃん来るの遅〜い” とさっきの鈴夏のような顔をしているのでどこと無しかデジャヴ感がするんだが、まあいいだろう。今回の目的は怪しい妹の彼氏? の存在を確認してもしいかがわしい行為に及ぶようであれば俺が直々に鉄拳制裁を加えるつもりだ。
そうそう、七海は最近バイクの免許を取った。とは言え大型のドゥガディとかではなく普通のバイクの免許なんだが、ぽんこつなのによく取れたな? と感心する。本人曰く、“健ちゃんと一緒にツーリングするのが夢だったからねぇ〜” と言ってはいつものにっこり顔。まあ来夏の初め辺りに近場のツーリングコースでも走ってみるかな? そう思う。でも今はあからさまに怪しい妹の彼氏? の身辺調査のほうが先だ! と言うわけで今回は2台のバイクで追跡する。メットも普段つけているものとは違うフルフェイス型の物を妹に悟られずに購入して装着。バイクは親父のバイクを直す傍らバイトで貯めた金で中古の250tのバイクを購入した。さて、準備万端整った。行くかと七海に向かいジェスチャーをするとうんと大きく首を縦に振る。2つの影が妹の後を追った。
“確かこの辺だよねぇ〜、鈴夏ちゃんと彼氏さん? の会うところって…” とメットの中からややくぐもった声が聞こえる。もちろん声の主は俺の彼女の七海だ。“そうだよなぁ〜…” と俺も辺りをきょろきょろしているとターゲットを発見する。やや時計を気にする仕草をしているので相手が遅れているのかと思う。…やがてそれらしいチャラい男が登場となるも妹の隣りのケバい水商売系の姉ちゃんのところへ行く。違ったか…、と思ってまた待った。5分くらい経ったか、俺と同じ背格好のきちっとした男が走ってくる。どうやらこいつが妹の彼氏? らしく、妹のところまでやって来ては二言三言話した後行動に移った。
さあ正体を現せ! とばかりに後を追う俺と七海。話しながらぶらぶら辺りを散策する2人を見遣るメット姿の2人組。見る限りではこっちのほうが怪しすぎるのではないか? と思うのだが、そこは当事者の間では分からない。あくまで第3者間の見方を言ったまでだ。とそこである重大な事柄を見落としていたわけだが、気付くのは帰ってから鈴夏に指摘されるまで気づかんかった。とにもかくにも今はこの野郎が妹に不埒なことをせんかどうか見遣るまでと思い、こっそり後をつける俺たちがいた。
夕方になる。あれからあちこちとつけて回ってみたのだが至って普通な感じにウィンドウショッピングを楽しんだりしていて、まあ不測の事態にはならなかった。が、最後の最後でどういう行動に出るかまだ分からん。七海には先に帰らせておいた。考えてもみろ、2人で一緒に帰って来て妹に見つかって怪しまれるのがオチだし、見つからなかったら見つからなかったで夕飯がおばさんのところになるわけでそこで妹に勘繰られるわけだし、どっちに転んでも俺が痛い目を見るのは明らかなのでどうせなら彼女の飯を食ったほうがいいだろう。そう思ったからだ。
で、肝心の妹のほうはと言うと、いたって普通にあちこち回っていたわけで。何だか心配して損した形になったわけだが、まあ凡そ彼氏にしては何だか違うような感じだなぁ〜っと直感で思う。鈴夏がそう思い込んでるだけで相手さんは至って普通の女友達の感覚なのかも知れないな? と言うのが正直なところか…。と言うか彼氏の顔を遠目に見て誰かに似てるなぁ〜っとは思うんだが、名前が出てこない。誰だっけ? とか考えているうちに家に着く。ガレージにバイクを入れている途中で妹が帰ってきたみたいで、“ただいま〜” と言う声が聞こえていた。ここで気付くべきだったんだ。今日は親父がいることに…。
そのまま点検をして異常なしと言うことで家に帰ると、虎のオーラを纏った妹が腕組みしながら待っていて、“ねぇ〜。お兄ちゃん。今日あたしが出掛けた後、急に慌てて出て行ったってお父さんから聞いたんだけど〜。まさかとは思うけどあたしの後をつけてたんじゃないよねぇ〜?” と恐ろしいほどの笑顔でこう言う。“ななな、何で俺がお前のしょうもない彼氏の監視に付き合わにゃならんのだ?” と俺。早速ボロが出る。目ざとく俺の言動を見越した妹が言う。
「あれぇ〜、あたし、“彼氏” だなんて一言も言ってないよぉ〜? な・に・を、勘違いしたのかなぁ〜?」
と言うが早いか、妹の十八番の巴投げを食らって今までの最長記録を悠に超える10メートルは投げ飛ばされて裏の庭まで行ったことは言うまでもなく。それならまだいいが今度は極め技まで極められて、“ノォォォォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜〜ッ!!” と言わざるを得なかった。さすがは柔道黒帯の実力か抜け出そうにも抜け出せん。それよりも妹の豊満な部分がふにふにと体に押し当てられていて恥ずかしいやら気持ちいいやら訳が分からなくなって、結局いつものように意識の闇に堕ちていく俺がいたのだった。
「お兄ちゃんも七海お姉ちゃんも考えが突飛しすぎ!! 大体あたしにはまだ彼氏なんて出来てないんだから…。まったく、羨ましいにもほどがありすぎるんだからねっ!」
と夜も更けたころに、腕組み足組みした妹の前、正座させられて妹のお説教を受ける羽目になった俺と七海。普段の夏とは全く逆の展開になってしまった。鈴夏にしてみればその展開が面白いのか妙にご機嫌な様子で俺たちの顔を怒っていても内心じゃあにこにこ顔で大喜びいるんじゃないのか? と思うほど声が弾んでいた。…にしてもあの男は誰だったのかと言うことだがどうやら端野の弟だったらしく(まあ端野の弟なんて見たことも聞いたこともないわけだが)、その弟の彼女のプレゼント選びにちょうど暇を持て余していた妹にそのお鉢が巡ってきたんだとか…。だからか、彼氏彼女の割には距離があるなぁ〜っとは思っていたわけだが、これで謎は全て解けたわけだ。いうなれば俺の早とちりがこの騒動の根本的な間違いだったわけで…。いつものように妹の愚痴と言うかワガママと言うかそう言うものを聞かされる羽目になった今年の8月22日、俺の柔道黒帯のやんちゃ娘であり、またそこが可愛い? 妹・鈴夏の17歳の誕生日だ。
END