怒ってるんだからねっ!!
立夏も過ぎて毎日通る並木道の若葉が眩しい今日5月7日は、俺の義妹・片瀬雪希の誕生日だ。しかし何故だか分からんのだが雪希はぷく〜っと頬を膨らませて上目遣いに俺を見遣っていた。そのあまりの眼光の鋭さに、俺何か悪いことしたっけ? と考えるがこれと言って何もしていない…と思うわけなんだが。とにかくマイシスターは俺に対して怒っている。昔はいろいろいたずらやイジワルをしたりして親父にでかいげんこつをもらっていた俺。雪希とは血の繋がっていない兄妹だったので、突然俺に妹が出来たことを素直に認めたくはなかったんだろう。今さながらにそう思う。まあ紆余曲折あって、今じゃ誰もが羨む仲のいい兄妹となっているんだが…。しかし、マイシスターがこんなに不機嫌そうなのも珍しい。そう思って、
「ゆ、雪希?」
と顔色を窺いつつそう言ってみる。が、ふんっ! とばかりにそっぽを向いて後ろを向いてしまう。向いた後ろ姿から頬だけ出っ張って見えているのがやけに面白いわけだが…。相当に俺に対して怒ってるんだなぁ〜っとも考えて昨日と言うかここ1週間の自分のしたことを振り返ってみるのだが、これと言って何かしたかと言われると何もしていない考えに至った。ならば直接…とは思うものの、頬が背中を向いてでも分かるくらい膨れているマイシスターに訊けるはずもない。ならば! と出かける旨を伝え、一旦部屋に戻って服をこ着替えて出掛けようと玄関先に戻ってくると、用意出来ました〜っとばかりな雪希が相変わらずのあのぷく〜っと頬を膨らませた表情のまま、玄関先に立っていたわけで…。“あっ? ええっと…。一緒について行く?” と恐る恐る訊いてみるところがこくん! と首を縦に一振りに振ってまた俺の顔をぷく〜っと見遣ってくる。ほとんど何で怒っているのか理解不能なわけだが、気晴らしにでも外へ出かけるのも悪くはないだろう。そんなことを0.01秒で考えて、“じゃあ行くか” と手を取る俺。一瞬、ほんの一瞬ではあるが、いつものにこにこ顔が見えたわけだが、また元通りのぷぅ〜っとした顔に戻る雪希。こりゃご機嫌が直るまで付き合わなきゃダメかな? と先行きが不安になる俺がいた。
5月ももうすぐ中旬になる。そろそろ半袖の時期かな? とも考えながらぶらぶら散歩をする俺たち。相変わらずマイシスターはむぅ〜っとした顔なんだが、返事には応えてくれるようになった。と、河川敷に出る。ちょっと疲れたな? と思って、“ちょっと休んでいこうや” と言うと、“うん…” と首を縦に振る。連休も最終日だけあって子供があちこちで野球やらサッカーやらやってるなぁ〜っと思いながら草の上に寝転がった。雪希も同じように寝転がる。2人で空を仰ぐ。やや水色がかった空の色が印象的だった。しばらくそうしていたんだが、軽く伸びをして起き上がる。雪希は? と見ると完全に眠りの世界に行ってしまったようで揺すっても起きない。よいしょと背中に雪希を背負って道を戻ろうとすると、ぐに〜っと頬を引っ張られる。な、何だ〜? と思って後ろを見てみると、そこにはちょっとぷくっと頬を膨らませたマイシスターがいるわけで…。
「何で帰ろうとするの? お兄ちゃん…。たまのお休みなんだからもう少しゆっくりしてもいいのに…」
そう言って羽交い絞めにするかのようにぎゅ〜っと抱きついてくる。そこでようやく俺にもマイシスターの不機嫌な理由が分かってきた。最近何かと忙しくて暇になっても男友達と一緒に出掛けることが多かった俺。要は雪希に構ってやれる時間がなかったんだな? それで俺に気付いてほしくてあんな顔を毎日してたんだ…。と、そう考えると何だかちょっと嬉しくなる。“今日はファミレスにでも寄って帰るか? と、その前にお前のプレゼントも買わなくっちゃな?” と言うと、“プレゼントもファミレスもいいよ…。お兄ちゃんがこうして私を負ぶってくれてることが私には何よりのプレゼントなんだから…” そう言うと更にぎゅ〜っと抱きつくマイシスター。やれやれ、大きな赤ちゃんだ。そう思いながら、帰路につく俺たち。影法師が日永な5月の夕暮れに映えていた。
今日は私のお誕生日。今年で19歳になる。でもお兄ちゃんは何も言ってくれないし…。去年は、“誕生日おめでとう。雪希” っていう言葉と可愛いネックレスのプレゼントとかもあったわけだけど今年はそんなことも一切なくて…。まあ大学の講義が難しいのも分かるんだけど、それでも何か一言、“おめでとう” っていう言葉も出てくるかな? て今朝も期待していたのに、何も言ってくれなくて…。言葉だけでもかけてほしいわけだけど、私から言うのも何だか嫌だし…。だから気づいてくれるまでこうやってぷぅ〜っと頬を膨らませてお兄ちゃんの顔を上目遣いに見遣ってる私がいるわけで…。大好きだから、拗ねてしまうし怒っちゃう。自分でも嫌になるんだけど、今日も私は拗ねているってわけ。でもそんな私のことをいつもの笑顔で見つめてるお兄ちゃん。出掛けると言うので私も一緒に行くんだ〜っとばかりに用意をして待ってるとお兄ちゃん、びっくりしてたけどね?
散歩をする。相変わらずぷぅ〜っと頬を膨らませた私だけどもう怒ってはいない。逆にイジワルをしたくなってくる気分。ふとお兄ちゃんが河川敷の草の上に寝転がる。私も同じように寝転がる。30分くらいかな? 2人、何もせずに草むらの上で寝ていた。もちろん私は目を瞑ったままで起きていたわけだけど、お兄ちゃんがどうだったのかは私には分からない。30分くらい経ってお兄ちゃんが急に起き上がる。とお兄ちゃんが私を負ぶって帰ろうとする。もう帰っちゃうの? って思ってお兄ちゃんの頬をぐに〜っと引っ張る私がいたわけだけど…。
いつもの夕食、いつもの雪希の笑顔。ここのところそんな当たり前な光景を見ていなかったせいか何だか嬉しくてたまらない。マイシスターも少なからず俺と同じ気持ちだったんだろう。いつものときの数倍よく話してくる。俺もうんうんと頷いたり俺が話すと雪希が逆にうんうんと聞いてきたりして楽しい夕食だった。サプライズに昨日ケーキ屋でケーキを注文していたのも、楽しい夕食に華を添えていたな? と思う。そんな今日もあと10分少々で終わりを迎える。血の繋がりは全くないけど、俺にとっては最も身近で最も可愛い妹だ…と思いながら瞼を閉じようとして、コンコンと部屋の扉をノックする音に気がつく。雪希か…、どうした? 部屋の扉を開けに行くと、“今日はお兄ちゃんと一緒に寝たいな…” と上目遣いに見遣ってくる。全くすっかり甘えん坊になって…と思うが今日は誕生日だしな? と思い直し、“今日だけだからな?” と部屋に入れる俺。“ここのところず〜っと拗ねちゃってごめんね? お兄ちゃん” そう言って俺の顔を見遣ってくるマイシスター。俺も、“構ってやれなくてごめんな?” と謝る。お互いぺこぺこと頭を下げたりなんかしていたわけだが、この光景を他のやつらが見たら何て言うだろうか…、などと考えると、妙におかしくなってきて思わずぷっと失笑してしまう。前を見ると俺と同じことを考えていたんだろうか、雪希も同じように笑っていた。
「じゃあ電気消すぞ〜?」
カチッと部屋の電気を消す俺。真っ暗な中、ベッドに潜り込むとぎゅっと義妹が抱きついてきた。“私が寝るまでお話してて?” と言う義妹の声は子供のころから何度となく聞いた声であり、またどことなく嬉しくもあり寂しくもあるような声だった。面白そうな話をいくつか聞かせてやる。と、すぅ〜っ、すぅ〜っと気持ち良さそうな寝息が聞こえてきた。まあまだまだ俺も頼りにされてるってことかな? そう思いながら瞼を閉じる今日5月7日、優しくて何事にも一生懸命に頑張る俺の自慢のマイシスター・片瀬雪希の19歳の誕生日だ。
END