ゆっくりのんびり誕生日?


 今日8月3日は俺の1つ年上の先輩で大切な彼女・神津麻美の誕生日だ。だからではないがどこか遊びにでもと思っていたわけだが、彼女の大学の講義の都合や俺の大学の都合等諸々あって、今年は俺の家でのんびり過ごそうと言うことになった。俺は今年大学生になった。普段勉強などしていない俺だったが麻美の大学生活を聞いているうちに大学で何か学ぶのも悪くないかも…、とも思えるようになって高校2年の秋に急遽就職から大学進学へ切り替えて、そこから寝る間も惜しんで勉強し、ようやく今年の春晴れて大学の門を叩くことが出来た。もちろんそんな俺の家庭教師になってくれたのは彼女なわけだ。まあ同じ大学と言うのは到底無理な話だったのだが、それでも大学同士が姉妹校提携しているらしく、ちょくちょく講内で会ったりしてそれなりに楽しんでいる。
 で今日、夏休みも兼ねてどこか遊びにでも行こうかということだったのだが、前述の通り彼女は大学でどうしても聴いておきたい講義と言うものがあり、俺は俺でこの間出したレポートに少々不備が見つかったらしく追加でレポートを書かないといけなくなり、夕方俺の家でゆっくりまったりしようや…、と言うことになった。マイシスター・雪希は、“私、お邪魔だね?” と笑顔で言うと何やら進藤に連絡してそそくさと荷物をまとめて出掛けていった。この間わずか3分少々。どれだけ察しがいいんだ? とマイシスターの察しの良さと気遣いに感謝しつつ、彼女の来るのを待つ俺。大雑把に掃除なんかをしつつ待つ。しかし掃除は雪希にやってもらっているせいか、あまり汚れたところはない。ドキドキしながら麻美の来るのを待つ俺。って! 俺は小学生のガキかっ?! などと1人でツッコミを入れたりしながらひたすら待つ。そういや誕生日のプレゼントなんかがあったっけか? などと仕舞っておいた誕生日プレゼントを出してきた。この間海に行った際にちょっと立ち寄ったガラス工芸の店で見つけた可愛らしい置物なんだが…。と、部屋とリビングを行ったり来たりしながら、途中床で滑って尻に青あざが出来たんじゃないだろうかと思うくらいの痛さと格闘しつつ、待つこと30分。ピンポーンとチャイムの音が鳴った。はいはいよ〜、今出ますよ〜。と小気味よく尻の痛さも忘れるくらいのスキップを踏んで玄関の戸を開けると、いつもながらにデニムのオーバーオールに半袖シャツと言う格好の麻美がちょっと照れくさそうに立っていた。“まあここじゃ何だし上がんなよ?” と言うとこくっと頷き靴を脱いで揃えて上がる。やっぱりそう言う細やかなところの気遣いが出来ると言うところはいいもんだ。マイシスター・雪希や腐れ縁のデカリボン・清香もそうなんだが…。逆に進藤なんかは脱いだら、“先輩、片付けておいてくださいよ〜” などと言ってそそくさと行ってしまうわけだがら呼び止めて靴を自分で直させてから上がらせるようにしている。“細かいですねっ! 先輩は〜っ!!” などと言って頬を膨らませる進藤ではあるが、なぜにお前の靴を並べにゃならんのだ? と思うわけで…。これを言うと幼馴染みのぽんこつにも言えることなんだけどな?
 まあそんなこんなで麻美をリビングに通す俺。当の麻美は物珍しそうにリビングの端に立ったままきょろきょろと辺りを見回している。はは〜、雪希がいないことに驚いているのかな? そう思って、“雪希なら進藤と出かけるって言って出ていったぜ?” とそう言う俺。“どおりで静かだなって思いました…。でも雪希さんとも一緒にお話ししたかったです…” と少々残念そうな麻美。まあこればっかりは仕方がないだろう。それにたまには麻美とゆっくり話もしたいしな? そう思い換気扇をつけて近頃美味いと評判の京都の餅屋から取り寄せで購入した餅を七輪で焼きながらあれやこれや喋りながら焼く俺。麻美はゆっくりながらも会話についてきてくれる。それが嬉しくてぺらりぺらり下らない話を喋っていた俺ではあったのだが、ふっと何かに見られている気がして窓のほうを見るが誰もいない。何だったんだ? 首を傾げつつまた向き直って麻美と喋る俺。とまた嫌な視線が俺の背中に…。今度は振り返らずにガラス越しから見てやろう。そう思いガラス越しに外の様子を覗き込む俺だったのだが…。


「酷いです、先輩!! 私たちだって神津先輩のお誕生日のお祝いしたいなぁ〜って思ってたのに〜っ!!」
 そう言いながら地団駄を踏む進藤を見つつ、ふぅ〜っとため息をつく俺。まあおおよそこう言う展開になるとは考えていたわけだから、雪希に足止め役を任せていたのだが、やっぱり進藤のパワーの前にはさすがのマイシスターでも敵わなかったわけで…。両手足をどこぞのアニメの主人公みたくわさわさ動かしながら俺に抗議の声を上げている進藤の横、済まなそうに上目遣いに見遣っている雪希の顔を見つつ、ちょっと困ったように微笑む俺。これにぽんこつとちびっ娘健康優良児がいたらと思うと、とんでもなく嫌な光景が目に浮かぶわけだが、まあ進藤だけなら何とか出来るだろうと思ったのもつかの間で、“ああ、早坂先輩と小野崎先輩にも言っておきましたからね。どうです? この手際の良さ。先輩も私の良さを実感したでしょう? いえいえ、お礼なんて言わなくていいです。私は当たり前のことをしたまでですから…” と横に置いておいた俺の餅を食いながら進藤はこう言う。な、なぬっ? って言うことは、もうすぐ…。とピンポーンとチャイムの音。
 麻美のほうを見るとちょっとだけぷぅ〜っと頬を膨らませていらっしゃる。多分お邪魔虫が増えて嫌なんだろうなぁ〜っと勝手ながら思っていたわけだが、麻美自身は、“何でみんなにも言っておかなかったのですか?” と言うことで俺に対してちょっと怒って頬をぷく〜っと膨らませていたと言うことらしい。後で聞いた話なんだけども…。と、とにもかくにも玄関へ向かいガチャッと扉を開けると、やけに笑顔でこめかみをぴくぴく言わせている清香と、全泣き状態で俺の顔をう〜っと上目遣いに睨んでくるいつものぽんこつ顔の日和がいたわけで…。その後のことは想像に任せるが、麻美はぷんすかぷんすかと言う擬音も出て来そうなくらいに怒って最早恒例となっている俺の最も苦手な“めっ!!” をされてしまったことは言うまでもなく。挙句の果てには誕生日会が終わるまで普段なら絶対にしないような胸を腕に押し付けてくるようなことをして、非常に困った事態になってしまったことは言うまでもない。たまには2人だけで過ごしたいと思っていたのはどうやら俺1人の独りよがりだったことは言う間でもなく、“今度からはみんなを呼ぶから許して下さい” と言うとやっとお怒りも解けたのかにっこりとしたいつもの優しい顔に戻って、“やっぱりお誕生日はいっぱいの人からお祝いされるほうが嬉しいです…” そう言って優しく微笑む今日8月3日は俺の1つ年上の可愛い彼女、神津麻美の誕生日だ。

END