ケーキ屋さん前の攻防戦


「お前、まだ歯が治ってないって言うのにまた虫歯の素を購入するつもりかっ?!」
 夕方のごった返す商店街にこんな怒号が響き渡ったの。前を見ると怒った顔の幼馴染みで今同棲中のけんちゃんがいるんだけど…。今日4月23日はわたしのお誕生日。なのにどうしてわたしが怒られてるのかと言うと…。そう、虫歯。いっつもこの時期になると必ずって言って良いほどに虫歯になるわたし。虫歯になりやすい人となりにくい人って言う言葉をテレビだったかなぁ〜? 見たことがあるんだけど、わたしは典型的な前者のほうだそうで、この間いやいやけんちゃんに手を引っ張られて雪希ちゃんの歯医者さんに行ったところが、“お姉ちゃん、また虫歯があるよ〜?” なんて言われて猿轡みたいな機械を付けられてガリガリやられたんだよぉ〜。逃げようにもけんちゃんと雪希ちゃんが体と足を押さえつけてるし、それにも増して雪希ちゃんのわたしを見る目が怖すぎて、逃げるに逃げられなかったんだぁ。
 で今日もそんな感じで虫歯をガリガリ削ったりなんかして帰りしなに、ふっと今日ってわたしのお誕生日じゃないの? って思い出したわけで…。けんちゃんはそんなわたしのことなんて全然気付くはずもなく首根っこを引っ掴んでずりずり引っ張っていこうとしてるし! 一生懸命掴んだ手を振り解いて、近くにあったケーキ屋さんのカレンダーの今日の日付を指さして涙目で訴えるわたし。ぐぐぐぐぅ〜って怖い目をしてけんちゃんの顔を睨みつけるんだけど、“お前がそんな顔したって全然迫力がねーや。あはは…” なんて言いながら今度は手を引っ掴んですたすた歩き始めるけんちゃん。ひょ、ひょっとしてだけど今日がわたしのお誕生日だって言うこと忘れてる? そう思って、“ねえけんちゃん、今日って何の日か分かる?” ってずりずり引っ張られながら聞いてみると何だかニヤニヤした顔でこう言うんだよ?
「今日か? う〜ん。三国干渉があった日か? 日清戦争後にロシア・ドイツ・フランスが下関条約で日本領有となった遼東半島の清への返還を勧告した日かな?」
 な、何だよぉ〜。三国干渉って!! って言うか日清戦争のことは覚えていてわたしのお誕生日は忘れるってどう言うことなのよぉ〜! もう怒ったんだからぁ〜。思い出してくれるまでこのケーキ屋さんの前でず〜っとこうしてるんだからねぇ〜!! とけんちゃんと腕を引っ張りあいこをするわたし。買い物客のお客さんがわらわら寄ってくるけど関係ないんだよぉ〜って言う感じで腕をぎゅっと掴んで引っ張るわたしに対して、けんちゃんは顔を赤くする。ふんぬぅ〜って引っ張りあいこをしていたけんちゃんのほうの力が抜けてまだまだフルパワーで引っ張っているわたしのほうに力のベクトルが強くなるわけでそのままけんちゃんのほうから倒れてきちゃって、わたしのおっぱいのところにむにゅって手が当たっちゃう。もみもみってわたしのおっぱいを触るけんちゃん。一瞬へっ? てな顔になってたけんちゃんだったんだけど、ようやく状況を理解したのか、“あわ、あわ、あわわわわ〜、くぁせdrftgyふじこlp!!” って声にならない声を発してその場に倒れ込んじゃった。わわわわわぁ〜、ど、どうしよう。っておろろおろあたふたしてるとケーキ屋さんのご主人が出て来て中でちょっと休んでいきなさいって言うものだから、休ませてもらうことにしたわけだけど…。


「…で、こんな時間になっちゃったわけだね?」
 とマイシスターの拗ねたような怒ったような目が俺の間抜け面を居貫く。今日がぽんこつさんの誕生日だって言うことは前々から分かっていたんだが、ケーキを欲しがるなんてことは考えもしなかったわけだ。もう20歳も越えているしそもそもケーキなんて虫歯の出来る基本食材じゃないのか? それに何だかんだ言ってまだこのぽんこつの虫歯は治っていないわけだから…って! ななな、何だ? そのバカでかい誕生日ケーキは? と言う俺。そんな俺にふっふ〜んと胸を突き出して日和は言う。
「お砂糖を全く使ってない誕生日ケーキだよぉ〜? 雪希ちゃんが作ってくれたんだぁ〜。これなら雪希ちゃんも安心だって言ってくれたもんねぇ〜?」
 曰く、砂糖の代わりにキシリトールを入れた歯に優しいケーキなんだとか。そんなケーキ作れるのか? と最初のうちは思っていたわけだが、“日和お姉ちゃんのためだもん。私も本気にならなきゃ!” と言う雪希に気圧されして何も言えんかったわけだが。と言うか完成してたのか。それが…。前に作ってみようかなぁ〜? なんて言っていたわけだが、具体的な作り方が分からずに断念していたんだが、その製法をマスターしたと言うのか? そう思いつつ席に着く。家に帰るまでのぐよぐよ泣いていたぽんこつとは打って変わってニコニコ顔だ。こう言う変化に富んだ表情を見せてくれるところがこいつのいいところであり、俺の好きなところでもある。ロウソクに火をつけて定番の歌を歌う俺たち。ふぅ〜っとそロウソクの灯を消して儀式は終わる。マイシスターの上手い料理に舌鼓を打つ。もちろん酒も飲んだ。この年にして分かったんだが日和はアルコールには滅法強い。蟒蛇のさらに上を行くくらいだ。だから当然俺と雪希のほうが酔いつぶれてしまって後はどうなったか分からんかったわけで…。これがとんでもない騒動に発展してしまうわけだが…。


 翌朝起きてみると下着姿でくか〜くか〜っと鼾なんぞを掻いて寝てるぽんこつさんがいる。まったく同棲してるからってここまでさらけ出すことはないだろうに…。そう思ってこいつがここまで起きないのは相当量飲んだんだろうなぁ〜っと見てみるとジンやらウォッカやらスピリタスやらの瓶が散乱しいていたわけだ。と言うかそんな酒うちで買ったのか? と言うことだが、まあこいつが買ったんだろうなぁ〜? とむにょむにょ何やら寝言を言っているぽんこつさんの顔を見ながらそう思った。ケーキも食べつくしていたようでほとんど残っていなかったわけだ。片付けるか…、と思い布団をめくるとマイシスターが俺の傍らで丸まって寝ている。やれやれ甘えん坊がもう1人出来たか…。と思って布団を掛け直しているとマイシスターが起きたのか、“おはようお兄ちゃん” といつもの顔で言う。俺も“おはよう、雪希” と言う。さて片付け開始か、とばかりに作業を開始する俺。そんな俺の行動を見ていたのか雪希も手伝ってくれた。とケーキのところをみた雪希が一瞬“えっ?” てな顔になる。
「えっ? お、お姉ちゃん、1人であのケーキ全部食べちゃったの?」
 って言うものだから何か悪かったのか? と言うと詳しく教えてくれた。曰く、キシリトールは食べ過ぎるとお腹のほうがちょっとばかりゆる〜くなるんだとか。だから小出しにしてちょっとずつ食べようかと思っていたんだそうだ。それがこの超蟒蛇に押し切られる形で飲んでしまって…、結果現在に至ると言うう感じで…。こりゃしばらくはトイレがこのぽんこつさんの部屋になるなぁ〜と思った昨日4月23日は俺のぽんこつ幼馴染で彼女な早坂日和の21歳の誕生日だ。

END

おまけ

「う〜ん、う〜ん、お腹が〜、お腹がゆるくなっちゃったよぉ〜。大学に行ってもすぐにおトイレに駆け込んじゃうし〜…。家でもこうだし〜…。雪希ちゃんもそんな効能があるんなら食べる前に一言言ってよ〜。うわぁぁぁぁ〜ん。ぐよぐよぐよ〜」
 今日も今日とてそんな間抜けな声がトイレから呪詛のように聞こえてくる。雪希は雪希で、“言ったよ〜。言ったのに食べちゃうお姉ちゃんが悪いんじゃない。もう…” と言いながらもトイレの前で心配そうにしている。そんな2人の珍問答を聞くのがここ最近の俺の日課になりつつあるようで…。まあ余談だがその後、俺が思っていた通り半月ばかりはトイレが日和専用の個室になったことは言うまでもなく、新たに簡易トイレを購入・設置する羽目になったことは言うまでもなかったわけだ。これから日和は酒は禁止だな? と思う今日である。がくり…。

TRUE END?