子供の頃の夢は?
「わぁ〜、懐かしいね? このおままごとセット、日和お姉ちゃんと使ったやつだよ?」
「うん! そうだねぇ〜、雪希ちゃん。これなんか今も使えるよぉ〜」
のほほ〜んとした声が2つ、我が家の倉庫の前から聞こえている。今日5月7日は俺の義妹・片瀬雪希の誕生日だ。で俺は今、倉庫の掃除をしているわけで…。しかしこの時期になってくると倉庫の中は暑い。ほとんど蒸し風呂状態だ。だが雪希のたっての願いから掃除をすることになった。しかしなぜ掃除をすることになったのかと言うと…。フリーマーケット…。家で不要となったものを持ち寄って売るイベントなんだが、どう言う訳か雪希が勝手に応募してしまい(しかも俺の名義で)その手伝いと言うか、不用品を探していると言うわけだ。
「何でこのクソ暑い中をこんな不用品探しに駆り出されにゃならんのだ? って言うか日和! お前もちょっとはこっちに来い!!」
「ええ〜っ!! そ、そんなぁ〜。むちゃくちゃだよ〜。ううう〜っ」
「ごめんね? お兄ちゃん。せっかくの週末にこんなことを手伝わせちゃって…。後で冷たいジュースでも汲んできてあげるから、それで許して?…」
そう言うと義妹はにっこり微笑む。もっとも今回の大本の原因だろうぽんこつへっぽこ幼馴染みこと早坂日和は品定めとあと値段貼りとで今はそれどころではないみたいだった。だけど、う〜んと考え込む顔は何ともぽんこつだよな? と思ってしまう。でも、こいつと幼馴染みで本当によかったなぁ〜っと内心そう思う俺がいるわけで…。滴り落ちる汗もそこそこに更に中のほうを見る俺。まあ、よくこんな昔のものを溜め込んだもんだと言うくらいがらくたやら、昔、俺たちが書いた作文やらが置いてある。親父ももう少し整理すりゃいいのによ…。ぶつぶつ言いながら整理する俺。と、小学校時代の頃の義妹の作文集みたいなものが出てくる。隣りにあった俺のものと比較してみると義妹の方がよっぽどかきれいだった。まあ、俺は作文が大の苦手だったし(と言うかこれは今でもか)、勉強はどれもこれも嫌いだが、義妹は作文がうまかったよなぁ〜。などと考えてその作文集を取り上げてみる。10年ぐらい前のものみたいでところどころ紙が破けてるところもあるが文字自体は正確に読めるみたいだった。
「ちょっと休憩にしようよぉ〜」
と幼馴染みの声。ふぅ〜、やっと休憩か…。そう思ってその作文集と一緒に使えそうなガラクタを数点持って表へ出る。と、狭い庭ながら簡易テーブルと椅子を組んでさながらオープンカフェのような感じなものが出来上がっていた。うふふふふぅ〜っと微笑むぽんこつさん。“わたしが用意したんだよぉ〜。るんららぁ〜” とでも言いそうな、いかにも自慢げなその顔に少々腹は立ったが何分暑苦しい場所にいたために最早文句を言う気にもなれず、テーブルに突っ伏す俺。と、そこへ天の助けか冷たい炭酸飲料を持ってくる雪希。
「ご苦労さま、お兄ちゃん。はい。日和お姉ちゃんも、はい」
コトッとテーブルにコップを置くと、すぐに俺の荷物のほうが気になったのか、“懐かしい…。まだあったんだ…” と言うと例の作文集に手を伸ばす。取り上げてテーブルの上に置くと読み始める雪希。ごくごくと一気に飲み干すと俺はがらくたの片付け、日和は値段貼りへと戻る。まあこれは俺と日和の暗黙の了解と言うやつだ。雪希は血は繋がらないが俺の大切な妹。これは日和にとっても同じことだろう。にっこり微笑む幼馴染みの顔を見つめてそう思った。昔から同じ関係を続けて来て、でも俺と日和は一般的に言う恋人同士になった訳なんだが、これからも雪希は大切な妹であることは間違いない。そういうことで俺たちはうんと頷きあって席を離れた。そこに何が書かれてあるのか…。内容のほうは分からないものの少なからず俺はその意味を知っている。日和も知っているんだろう…。普段の日和なら見せて〜っと言いそうなのに言わないものだから、多分内容のほうも知ってるんだろうな? そう思った。
今日5月7日は私のお誕生日。今度の日曜日に街でフリーマーケットがあるのでそれに応募してみた。とは言っても直接応募したのはお兄ちゃんの彼女の日和お姉ちゃんなんだけどね? でも、私の昔に書いた作文集が出てくるなんてね? と、驚き半分、懐かしさ半分と言うのが正直なところかな? そう思い作文集を広げる。お兄ちゃんと日和お姉ちゃんはそれぞれの作業場所に戻っていく。多分私のこの作文集に書かれてある事柄に気がついたんだろうね? そう思った。そう、昔…。あれは小学校2年生くらいの時だったかな? 将来のことって言う題で作文を書いたの。将来のこと…、みんなはお医者さんとか宇宙飛行士さんとかお花屋さんとか書いていたけど、私は“お兄ちゃんのおよめさん” って書いたんだよね? 今読んでいる内容はその部分。最初はイジワルだったお兄ちゃんだったけどある日を境に優しくなった。
そうそれはある日の夜、私が寂しくて泣いていた時、コンコンと壁を叩く音が聞こえて、それがお兄ちゃんだって気づいて…。普段イジワルばっかりしてくるお兄ちゃんがほんとはとっても優しいんだって気づいた時…、私はお兄ちゃんのことが好きになったんだよ…。だから将来の夢は“お兄ちゃんのおよめさん”って…。今はもうそんなことは出来ないって分かってるし、それにお兄ちゃんには“日和お姉ちゃん” って言う彼女もいるからもうその夢は夢のまま、心の一番大切な場所にそっと仕舞い込んでいる。そしてそれはこれからもずっと私の心の中に仕舞い込むことになるだろう。将来お兄ちゃんがお姉ちゃんと結婚して、私が他の男の人と一緒になってもね? でも昔のことなのに何だか涙が溢れてきちゃった。ごしごしと服の袖で涙を拭う私。お兄ちゃんたちは相変わらずバタバタと荷物の整理に追われてる。よし! 休憩も終わったし私もまた作業に戻ろうっと…。その前に飲んだグラスと私の作文集も片付けなくっちゃ…。そう思い家の中へ入る。と…、グラスを洗う前に先に直しちゃおうっと…。そう思って、大切な思い出のいっぱい詰まった作文集を私の机の引き出しの中の一番奥、そっと仕舞った。
5月の爽やかな風が吹き抜ける。使えそうなものとほんとの不用品とに分けてみるとまあすごい量になった。よくこれだけのものがあんな小さい倉庫の中に入ってたんだなぁ〜っと思うとちょっとびっくりする俺。雪希も日和もびっくりしたようにお互いの顔を見合わせていた。雪希がこっちのほうを見てこう言う。
「お兄ちゃん、今日はありがとう。それからお疲れ様…」
ってな? 日和も日和で同じことを言ってくる。でも、にっこり笑う義妹の顔が一瞬寂しく見えたのは俺の気のせいだろうか。とそんなことを考えてしまう今日5月7日、俺の大切な義妹・片瀬雪希の誕生日だ。
END