冬佳さんの料理事情


 “女子たる者料理が上手くなくては話にならん” と言うことをどこかのテレビ番組かラジオか雑誌とかで見聞したことがある。まあ昔から言われていることなんだろう。うちの母もついこの間、そんなことを言っていた。かく言う私はと言うと料理はあまりしない。これは大学が忙しいのと、最近は出来上がりのものを買って食べたほうが返って安上がりだからだと思うわけで。第一そんなことに時間をかけるよりももっと有意義に時間を割いた方がよほど効率的だと思っていた。いた…と言う過去形なのは私に彼氏が出来たため。その彼に喜んでもらうために今更ながらではあるんだけど、料理と言うものに興味を持ち始めた。とは言えど、今まで料理のスキルなんて言うものは取得したことなんてない私なのでまずは基本中の基本である玉子焼きの作り方なんかをマスターしようと思ってるんだけど…。
 これがなかなか難しい。卵を割ることなんて簡単にできると思っていた私はその考えが大いに間違ったものだと理解したのは1個卵を掴んだ時だった。そのままぐしゃっと潰してしまう。それで1パックダメにしてしまった。力加減が問題なのかな? と思いそっと持つ。今度はうまく掴めた。今度は割る体勢に入る。縁で殻を叩いて、ぐしゃっ…。とまあ焼くだけで5パックはダメにしてしまった。母の苦労が身に染みて分かった。これじゃあダメだ。と思い、小学生向けの料理の基本が書かれてある本を買ってくる。失敗した卵の割り方や包丁の持ち方なんかが絵と一緒に詳しく書かれてある。何度となく読んでみて試してみた。刃物なんて持ったこともないしこれからも持つことはないだろうと思っていた私がこうやって持ってる時点で不思議な感じだ。
 でもだんだんと慣れてくると面白くなってくるもので、普段ならしたいとも思わなかった手捏ねハンバーグやそれの応用でロールキャベツなんかも作ってみた。味付けはまだまだだけどまあまあ美味しい。これなら彼も…、と思ってふるふる首を横に振る。義妹さんが美味しい料理を作っている。ちなみに義妹さんが“義妹” であることは彼と付き合いだして間無しの頃に教えてもらった。でも私には本当の兄妹のようで羨ましかったことを思い出す。まあ妹さんには変わりはないのだからと私自身で納得した。そうこうして、大分料理の体裁もつく頃になって、義妹さんから、“私、3日間くらい部活で家を空けますので、その間だけ冬佳さんにお兄ちゃんのご飯を作って頂けないでしょうか? お兄ちゃん、私がいないとカップラーメンばかり食べるので…” とお願いされる。確かに彼は義妹さんがいないとカップラーメンばかり食べるような口だろう。それは容易に理解できる。でも、なぜ私? ほかにも神津さんとか小野崎さんとか料理の出来る人がいっぱいいるでしょうに…。とは思ったけど、彼女にしてみれば、私=彼女と言う設定がもう出来上がっているのかもね? と思い直して、一応OKの返事はしておいたんだけど…。
 はぁ〜っと湯船の中で深いため息を1つつく。自分では美味しく出来てると思ってもそれが必ずしも美味しいとは限らないもの。彼の好みはもちろん事前に把握済みだけど、その味は保証しかねる。美味しくないなんて言われたら…などと最悪なことも考えた。でも、義妹さんは私を信用していってくれたんだからその信用には応えないといけない。彼からもらった人を信じる心。それを大切にしないとと思い直す。勇気を振り絞って明日に臨もう。そう思いお風呂から出る。時刻をセットして眠りに落ちた。
 勝負の日を迎える。バチッと目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまう。“まったく…、小学生じゃないんだから…” と1人鏡の前で言う。鏡の中の私はにっこり微笑んだりしかめっ面をしたりと忙しい。バシャバシャっと1月の冷たい水で顔を洗うとスッキリする。昼は学食で食べるから晩かな? と思って早めの朝食を取った。大学も2回生の後半で単位はもう取得済みだから行ってもあまり意味はないんだけど、彼と会えることが楽しくて行く。そんな私を友人は、“冬佳、変わったね?” と嬉しそうに言われる。そう、彼と付き合い始めてから私は変わった。具体的にどこが変わったのかは分からない。だけど気分的には楽になったと思うし友人たちにも、“付き合いやすくなった” とよく言われる。昔はどれだけ付き合いにくかったのかと思うと友人たちには申し訳なく思った。帰る時刻になる。そろそろ彼も来てる頃だろう。そう思って待ち合わせ場所に行く私。着くと彼はまだ来ていなかった。まあちょっと待つか…。そう思い待つこと30分。ようやく彼のご登場だ。いつも待たされる私だけど、今回は随分と待たされたかな? そう思いちょっと困らせてやろう。とイタズラ心が頭をもたげてくる。ぷぅ〜っと態とに頬を膨らませてみせる。彼は何て言うだろうか。まあ、“こんな可愛くしたって素が素じゃあなあ?” って言われるんだろうけどね。でもいつも待たされる私の身にもなって? とも思うんだけどね…。


「うん、美味い。この家庭的な料理は雪希に匹敵するよ。おかわり!」
 と私の二回り大きな茶碗を差し出してくる彼。膨れっ面で待ってる私に案の定、“こんな可愛くしたって素が素じゃあなあ?” って一言一句思ってた通りのことを言われる。はぁ〜、こんな時だけ妙に当たるんだから…。と普段のくじ運のなさを痛感する。で、私を待たせた罰として、買い物に付き合わせちゃったんだけど彼も彼で満更って言うほど嫌じゃない顔をしていたので、一緒にスーパーの中を見て回った。“雪希に毎回付き合わされてるんだぞ?!” って言うだけあって買い物の心得はしっかりしてるなぁ〜っと思った。帰りは帰りで荷物を持ってくれたしね? これはかえってちょっと気合を入れるかぁ〜っと思う私。…で今、案の定美味しそうに食べる彼の顔を真正面に見る私がいるわけで…。ご飯粒を頬につけている様は何とも可愛らしい。お約束と言うべきだろうか、私は頬についてたご飯粒を取って自分の口へと運ぶ。まあこんなことが素でできるようになったのは彼のおかげかな? そう思うと彼への愛しさが込み上げてくる今日1月14日、私の21回目のお誕生日…。

END