ともだち


 にゃ〜。
 と言う声とともに私は目を覚ます。目を擦って天井を見る。もう夕方だ…。昨日徹夜をして、レポートを書いた。終わった時間が午前四時。それから寝ていたから十時間は寝ていたと思う。
 駄目だな…、私…。洗面所の鏡で自分の写すと“めっ!”と言う。そして、にっこり微笑む。
 ……この春、大学生になって一人暮らしを始めた私は一匹の猫を飼い始めた。猫の名前は“みー”と言う。私の大好きな健二さんと一緒に考えてつけた名前だ…。
 ふと、昔のことを思い出した……。


 昔、私は同じ名前の猫を親に内緒で飼っていたことがあった…。
 私は引っ込み思案な性格で、なかなか友達が出来ない。おまけにとても運動音痴だった。だからいつも一人でブランコや滑り台などで遊んでいた。
 私が公園で遊んでいると男の子達がサッカーを始める。
“いっしょに遊ぼう?……”
 どうしても、その一言が言えなかった…。そんな私に初めての友達が出来たのは、私が小学校6年生の頃だ。私の友達…、それは小さな捨て猫だった…。
 私の家は、動物を飼うことは禁止…。お母さんが動物が苦手だった…。だから私はお母さんに秘密で飼うことにした。
 ぺろぺろと舌をじょうずに使い、ミルクを飲んでいる子猫を見て私にもやっと友達が出来たんだって思った。嬉しかった。……そうだ! 名前をつけてあげよう…。そう思った。
 一生懸命考える。子猫は私の指にじゃれ付いて“みー、みー”と鳴く。
 鳴き声を聞いて、ふと漫画でやっていたキャラクターを思い出す。主人公と一緒に旅をする子猫だ。この子の名前は「みーちゃん」にしよう…。そう思った。幸せだった……。
 でも、そんな幸せも長くは続かなかった。みーちゃんがお母さんに見つかってしまったのだ。お母さんは言う。
「捨ててきなさい……」
 私は必死に哀願した。この子は私の友達なんだって…。でもそんな私の言葉は聞き入れてもらえなかった。
 みーちゃんを抱き、元の拾った場所に向かう。みーちゃんを拾った場所に置くと、私は駆け出した。一生懸命走った。みーちゃんが後をつけてこないように…。
 夜…、雨が降ってきた。みーちゃんのことが気になる。いてもたってもいられず…、みーちゃんを探しに出かけた。公園、道端、あらゆるところを探した。一生懸命探した。
 だけど…、結局みーちゃんは見つからなかった。私は友達をなくした…。
 また…、独りぼっちになってしまった…。雨は私の頬を濡らしている。そして…、雨とは違う何かが頬に流れて落ちた…。
 それから高校三年生になるまで、私は、心を閉ざした…。猫は…、見たくなかった…。そう…、私の大好きな人…、健二さんに出会うまでは……。


「よお、先輩。先輩一人で買い物か? あっ、それみーちゃんの餌か何かだな? 重いだろ? 俺が持つぜ」
「あっ、はい。ありがとうございます…。でも奇遇ですね? こんなところで……」
「ああ、そうだな。さあ、日も暮れてきたし…。そろそろ帰るかな…。あっ、先輩。アパートまで送ってくよ……。先輩一人だと危ないしな……」
 そう言って私の荷物を持ってスーパーを出ていく健二さん。私はその後ろから彼を追いかける。
 夕焼けは私たちの背を照らし、長い影法師を作っていた。私は彼の腕に自分の腕を絡める…。彼は何も言わず微笑むと私の歩調に合わせてくれた。
 そんな梅雨時のつかの間の晴れ間の…、夕方だった……。

END