けんちゃんの嬉しい? 大誤算


 今日8月3日は俺の学校の先輩でしかも彼女な麻美先輩の誕生日だ。だからではないが夏の暑い盛りでのバケーションと言うわけで先輩と2人プールへとやってきた。まあ近場のプール施設では俺の知り合いに出くわして何やらかやら言われる可能性があるので、今回は少し遠出をして山の近くにあるプール施設へとやってきたわけだ。先輩は今春から大学生になった。親元からも離れて1人暮らしなどを始めたりと生活の雰囲気ががらりと変わった。と同時によくお喋りをするようにもなってきた。昔、出会ったころのどことなしか暗く物憂げな表情はもうなくて、それが俺を嬉しい気分にさせてくれる。もっとも話し方は前と同じでゆっくりとした話し方なんだけどな?
 で、その先輩からこの間、成績のあまりよろしくない俺の家庭教師にやって来た先輩にこうお誘いを受けたわけだ。“もしよろしければプールで一緒に過ごしませんか?” と言うお誘いを! “俺やったー! やったぜ俺!!” と自分でも変なテンションになって小躍りしながらOKの返事を出した。その日は舞い上がってしまって勉強どころじゃなかったような気がするんだが、ノートを見るとちゃんととってあるから勉強はしていたんだろう。俺自身は覚えてはいないが…。で、その日の夜、部活から帰って来たマイシスターに少し変な目で見られたがどうってことはない。先輩とプールって言う事実が俺をいやに高揚させていた。ますますはてな顔になるマイシスターがこう尋ねてくる。
「お兄ちゃん、さっきから嬉しそうな顔をしてるけどどうしたの?」
 と…。“いっ? いや〜、お兄ちゃんそんなに嬉しそうな顔してたか?” とすっとぼけるように言うと、マイシスターはうんと頷く。まあ正直なところマイシスター・雪希になら話してもいいかなぁ〜とは思ったが、雪希はウソがつけないタイプだからなぁ〜? もしもあの口から先に生まれてきたような女で、かつ、どう言うわけか俺が好きなのは自分だと勘違いをしている甚だ迷惑な女、進藤にぺろっと喋ってしまう恐れがあるわけで。そうなったら俺の夏休み後半の生活は180度変わってしまうし。最悪の場合、ドロ沼の三角関係云々と言う具合になってしまうかも知れん。と言うか絶対になる。しょうがねえ、ここは適当にごまかしておくか…とも考えたんだが、ついついいつもの癖で喋ってしまうわけで。“何だぁ〜、それでお兄ちゃん嬉しそうにはしゃいでたんだね?” とまるで遠足の前日にはしゃぐ子供を見るような目でマイシスターは俺の顔を見る。って! 俺は子供か? とそんなことを思いながらいつものように料理を作るマイシスターの後ろ姿を見つめていた。
 で。今日がその約束の日。朝、いつもなら10時ぐらいにやっと目が覚める俺なのだが、今日は6時に目が覚めていつもなら絶対に行かないラジオ体操にも行ってきた。と言うより昨日の夜は今日着て来るであろう先輩の水着がどんなのだろうと悶々としてなかなか寝付けず、やっと寝つけたかと思ったら今度は蚊の羽音で目が覚めて蚊取り線香と殺虫剤とのダブル攻撃で何とか仕留められたんだが、それからまた悶々としだして気がついたら朝だった。まあそんなこともあってか相当に眠いわけだが、先輩とプールと言うあまりにご馳走すぎる現実が眠気も何も吹き飛ばしてしまった。9時半に駅で待ち合わせだから、9時に出ればいいか? といつも雪希に迷惑ばかりかけているのでちょっとはお返ししないとなぁ〜っと思って朝食の用意をする俺。と言ってもパンとコーヒー(雪希は紅茶か)とハムエッグと言うまあ誰にでも出来るようなものだが…。俺が朝飯の用意を丁度し終わったころ、トントントントンと階段を下りてくる足音が聞こえてきて、“お、お兄ちゃん? まだ7時前だよ? それに朝ごはんまで?” と少々と言うかすごく驚いた顔の雪希がいるわけだ。まあそりゃそうだろう。前述の通り夏休みとなると急にだらける俺なんだから…。そう思って正直に言うと、
「何だか子供みたいだね? お兄ちゃん。でもその気持ちは私も分かるよ?」
 といつものにこにこ顔で言ってくるマイシスター。そんな雪希のことがいつもよりも数段可愛らしく思えてきて思わず頭をなでなでとどこぞの漫画の中のメイドロボのように撫でてやる。初めは恥ずかしがっていた雪希だが次第に気持ち良さそうに目を細めていたっけか。まあそんなこんなで家を出る。空には夏特有の入道雲が黙々と沸き立って蝉は今日も朝からうるさいくらいに鳴いていた。
 駅前に着く。時計を見ると9時を少し越した時間だった。大時計の前は日影がないので日影のある近くの木の下で待つことにする。そうして10分ほど先輩のイケナイ水着姿などを想像しながら待っていると向こうのほうからオーバーオールに半袖と言う普段着の先輩が手を振りながら近づいてくるわけで…。もうそれだけで俺満足状態なわけだが、これからがメインなわけだ。
「ごめんなさい。お待たせしてしまって…」
 とちょっと汗をぬぐいつつそう言う先輩。いや、2人の時は麻美か…。“俺もさっき来たところだから気にするな…” と言うとうんと頷き可愛い笑顔を見せてくれる。それがいつもよりも数段に可愛らしく見えてしまい、“さ、さあ行きまするか” などと変な語尾をつけてしまうわけで。当然そんな俺の言動がおかしかったのか麻美はくすくす笑っている。まああれだ。俺がどんなに緊張しているのかが分かってしまったわけで、俺としては一刻も早く水に浸かってこの火照った体と言うか考えを冷やしたいと思ったのか麻美の手をむんずと掴むとすたすたバスステーションのほうに向かって行った。プールは停留所を12ほど先に行ったところにあるここら辺ではデカい施設だ。そう言えば雪希はこの間進藤と清香とおまけの日和と一緒に行ったんだっけか? 俺もまあ行きたかったが家庭教師と一緒に勉学に勤しまなければならなかったわけで。まあその家庭教師はむんずと掴んだ手の先の麻美だったことは周知の事実なわけなのだが…。電車に乗る。そう言えばバスに乗り込む前に妙な視線を感じたんだが…。誰だったんだろう? と麻美に聞いてみるが、麻美はそう言うのは感じていなかったのかふるふるふると首を横に振っていた。まあどこぞの南山の野郎如くが羨望の眼差しを向けていたんだろう。そう思い電車に揺られた。
 他愛ないおしゃべりをしつつバスに揺られること1時間弱、ようやく件の停留所に到着した俺たちは早速そのプール施設へと向かう。と言ってももう目と鼻の先で見えていたわけだが…。にしてもでかい施設だな、おい。1日遊んだって遊びきれねー広さだぞ? と横にいた麻美が、“ここは私の大学のお友達のお父さんが経営しているところなんですよ?” と教えてくれる。そう言った麻美の顔はとても嬉しそうだったことは俺だけの秘密だ。じゃあ早速着替えるかと麻美と一端別れて男子更衣室へ…。まあ男なんて言うものはパッと脱いでパッと穿けばいいものなので楽なものだ。着替えて出てくるとサンルーフ越しに夏の太陽がギラギラ輝いていた。麻美は〜っと。まだらしい。まあ女の子の着替えは相当時間がかかるもんだと思い、待っていると遠くの方から、“健二さ〜ん” と俺を呼ぶ声が…。その声は間違いなく麻美の声。“もう少しかかるかと思ってたんだけど、意外と早かったな?” と振り返る俺の目に飛び込んできたもの、それは……。


「だぁ〜っ!! 進藤か? 進藤なんだな? 俺の麻美にこんなイヤラセクシーな水着を着せたやつは!!」
 健二さんが頭を掻きむしりながらそんなことを言っています。今年はちょっと大胆に攻めてみようと思い水着売り場であれでもないこれでもないと選んでいたのですが、ふと横のほうを見ると進藤さんがう〜んと悩みながら私と同じように水着を選んでいました。声を掛けると気づいたように、“あっ、神津先輩もお買い物ですか? しかも水着って言うことは健二先輩とプールなんかに行く予定とか?” と、いつものようにお喋りしてます。私は進藤さんみたいにあまり早くお喋りできませんから、ふるふるとかこくこくとか私の大学のお友達のように首を上下左右に振って答えてました。“神津先輩ならこう言う大胆な水着が似合うかも?” と手を引っ張られて連れてこられたのは一種異様な感じのする水着売り場。ほとんと布地のない紐のような水着がずらりと並んでいます。
 時に女の子は大胆にならなければならないと言うことをどこかの雑誌で読んだことがありますが、こんな大胆なほとんど紐のような水着は恥ずかしすぎますっ! そう思って首をふるふる高速回転のように振ってると勝手に選んでいた進藤さんが、“これなんか如何です? これを着て健二先輩の腕なんかに取りつこうものなら健二先輩、神津先輩に惚れ直すかもですよ?” とV字にカットされた紐に胸と大事な部分を隠すような布がついている普段の私からしたら絶対に買わないようなものを取って手渡してくれます。何と言うか私には似合なさすぎるとは思いましたが、“惚れ直すかも…” と言う言葉にノセられて買ってしまいそれを今、着ているわけなのですが…。他の男の人たちの私を見る視線が凄くて恥ずかしさ倍増なんですけど…。
 でも健二さんも怒ってはいるものの私を見る目はまんざらでもないような顔をしていますし、それはそれでよかったのかも知れませんね? さすがに泳ぐのはかなり恥ずかしかったので、施設で借りれる普通のビキニを借りましたが…。こう言うことには慣れていない私でしたから、いい経験です。泳いだり水の掛け合いをしたり、お昼には私特製のおはぎなんかも食べて。普段の嫌なことなんてどこかに飛んでっちゃうくらいに楽しみました。でもさすがにあの紐水着はもう着たくはありませんけど…。そんなことを帰りのバスの中、日頃の疲れからか今日の疲れからか私の肩を枕替わりにして眠っている彼を見ながらそんなことを思う今日8月3日は私の19歳のお誕生日です。うふふっ…。

END