雪希ちゃん、ハイキングに行く
「ふぅ〜、昨日は疲れたねぇ〜…。雪希ちゃんも疲れてるんだったら無茶はしちゃダメだよ?」
日和お姉ちゃんがお兄ちゃんに湿布薬を貼りながらそんなことを言う。今日5月7日は私のお誕生日。だから1日早い昨日私と日和お姉ちゃんとお兄ちゃんとで、ハイキングに行った。まあハイキングとは言っても本格的なものでもない、普通に行ける場所だったんでお姉ちゃんにお弁当を作ってもらっての簡単な日帰り旅行に行ってきたわけだ。日和お姉ちゃんとお兄ちゃんは恋人さん同士。その中に私も入っていいのかなぁ〜なんて思って、“私は留守番しておくよ。お兄ちゃんと日和お姉ちゃんだけで楽しんできて?” って言ったんだけど、“なに遠慮なんかしてるんだ? お前の誕生日祝いも兼ねてるんだぞ?” ってにこって微笑みながらお兄ちゃんは言う。日和お姉ちゃんも“お兄ちゃんの言うとおりだよぉ〜? 雪希ちゃんも遠慮なんてするんじゃないの” ってお兄ちゃんの言うことに相槌を打つようにそう言う。…そうだよね? 別に遠慮なんてすることないんだよね? って言うことで出掛けることにした。
山登りは高校に入ってからは初めてだったけど中学で何回か上ったことがある。それに陸上部としてはこんな山道も登れないようじゃあだめだからね? って言うことでざっざっざっざ…とやや速足で登る。“雪希ちゃ〜ん、あんまり早く行かないで〜? お兄ちゃんがへばってるよ〜?” うしろのほうで日和お姉ちゃんがそう呼んでいる。ふと振り返るとお兄ちゃんがふうふう肩で息をついていた。“も、もう少しペースを落としてくれ〜…” って言うお兄ちゃんは部活にはどこにも所属していない。運動はそこそこ出来るのにもったいないよ〜って言ってるんだけど、それをまともに聞くお兄ちゃんじゃないって言うことも分かってるつもりだ。しようがないなぁ〜ってお兄ちゃんのペースに合わせる私。ゆっくりゆっくり登っていく。途中湧水の出る場所で水を飲んだりする。この分だと3時間くらいかな? そう思いながらお兄ちゃんのペースに合わせて登っていく。実のところこの山は私が中学の頃に陸上部の合宿でよく利用させてもらっていた山なので管理している人とももう知り合いだ。だからか、“久しぶりだねえ。元気にしてたかい?” って声を掛けてもらえるわけで…。高校に入ったって言ったら、“そうかい。それは良かったね? じゃあ入学祝いに…” ってお金をくれそうになる。困ってお兄ちゃんたちのほうを見ると、“もらっておけ” って言う顔をしていたから、“ありがとうございます” ってお礼を言ってもらっておいた。
「しっかし東京にもまだ自然って言うものがあるところにはあるもんなんだなぁ〜?」
と回復したお兄ちゃんは辺りをきょろきょろ見ながらそう言う。日和お姉ちゃんも、“そうだねぇ〜? けんちゃん。でも気持ちがいいねぇ〜” そう言って深呼吸をしている。“そりゃそうだよ〜” だなんて話をしながら、私も深呼吸を1つする。都会の空気じゃない山の空気を胸いっぱい吸って一気に吐く。それを3人で数回繰り返す。何だかちょっと面白く思えてくる。目を瞑って手を広げて胸いっぱいに新鮮な空気を吸っているお兄ちゃんたちを見て私はにこっと微笑んだ。また登る。今度はお兄ちゃんのペースに合わせて登る。なだらか勾配からやや急な勾配へと道も変わってきた。もうすぐ頂上かな? なんて思いながら登る。とちょっと道が開けてきた。頂上だ。お兄ちゃんに言うと“やっとか?” とちょっと疲れた顔でそう言ってくる。日和お姉ちゃんも少し疲れているみたいに、“やっと着いたねぇ〜。ふぅ〜、ふぅ〜…” って息を吐きながらそう言う。ふっと町のほうを見る。空気が澄んでいるのか町中が見渡せた。小さく点々としたところの家々のどこかに私たちの家もあるんだろうね? そう呟きながら見ていると“あの辺じゃないか?” と疲れも癒えたのかお兄ちゃんが私の隣りに立って指を指している。その方向を見る私。そんな私たちの後ろから、“お兄ちゃん、雪希ちゃん、お昼にしようよ〜” と持ってきた鞄からシートを出して広げ、お弁当を取り出してにこにこ顔でそう言う日和お姉ちゃん。とお兄ちゃんと私のお腹の虫がぐぅ〜っとなる。“あっ!” って思って思わず顔を赤くする私に、“行くか、雪希” って言うお兄ちゃん。上目遣いに見ると嬉しそうに微笑んでいた。
日和お姉ちゃん特製のお弁当を食べる。どれもこれもいつもよりももっと美味しく感じられる。“山で食べるお弁当は殊更美味いな” ってお兄ちゃんは言うけどその通りだね? って私も思った。ご飯を食べて一息つく。お兄ちゃんはごろんとお昼寝状態だ。日和お姉ちゃんは食べたものの後片付けと、ちょっと小さめのケースを取り出してる。何かな? って思いながら不思議そうに見つめる私に気付いたのか、日和お姉ちゃんはいつものあの笑顔で、“1日早いけど雪希ちゃんのバースデーケーキだよぉ〜” って言って、ケースの包みをほどく。ロールケーキにクリームをトッピングして板チョコの上には、“雪希ちゃんお誕生日おめでとう” って言う文字が…。日和お姉ちゃんの手作りだろうか市販品にはない手作り感がすごくあった。急に涙がぽろぽろ零れる私。もちろんそれは嬉しすぎて涙が溢れてくるいわゆる“嬉し泣き” と言うところだろう。嬉しすぎて泣くのはどうなのかな? って思うところもあるんだけど実際にこう言うことをされちゃうと泣かないほうがおかしいって思う。日和お姉ちゃんに抱きついて、“ありがとう” って言う私に、“いいや、お礼を言うのは俺たちのほうだよ? なあ、日和…” と起き上がってお兄ちゃんは昔みたいに頭を優しく撫でてくれる。“お兄ちゃんの言う通りだね?” そう言うと日和お姉ちゃんもぎゅっと私を抱きしめてお兄ちゃんと同じように優しく撫でてくれた。何だか幼ないころに帰ったようにお兄ちゃんたちに甘える私がいた。それから3人で切り分けられたケーキを食べる。山の上から見える風景と誕生日ケーキとが何だか少しだけミスマッチのように思うけど、私にはそれがとても嬉しくて、美味しかった。
「よいしょっと…。雪希も大きくなったのに感動症のところは変わってないなぁ〜」
夕方日和に荷物を持ってもらい俺は義妹を負ぶって山を下りる。初夏の夕暮れがやけに眩しく感じられた。しかし、いつの間に大きくなっていたんだろうな? と思いながら、緩やかな勾配の坂道を駅のほうに向かい下りる俺たち。実のところもう1つプレゼントがあるんだが今日はもう疲れているだろうから明日の誕生日当日に渡せばいいか…などと日和とそんな話をしながら下りる。雪希は知らないかもしれない。もちろん俺も知らなかったのだが、昔、義妹の本当の両親と俺の親と日和の両親とで一緒にハイキングに来ていたらしい写真をこの前ふと探し物をしていたときに見つけた。まあ俺たちはその頃まだ赤ん坊だったんで覚えていないのも無理はないだろう。でもきっとこのハイキングは山が呼んだんだろうな? そう思いすぅすぅと可愛らしい寝息を耳にしながら駅へと向かう道。日永な夕日に照らされた坂道の先に見える寂れた駅を目指し歩く今日5月6日、俺の可愛い義妹・片瀬雪希の1日早い誕生日会だ。
END
おまけ
夜も遅く日和と2人でそ〜っと雪希の部屋の前まで来る。何か昔親がしてくれたクリスマスプレゼントを渡すような感じなのだが、今日はあれから帰って、“お兄ちゃん、私重かったでしょ?” とちょっと恥ずかしそうにそんなことを言って、肩をタントンと叩いてくれる義妹に妙に嬉しかったりしていた。日和も日和で、“今日は頑張ったもんねぇ〜?” と言って足を揉んでくれる。そんなこんなで渡せなかったプレゼントを渡そうとそ〜っと部屋の戸を開けて中へと入る俺たち。枕元にプレゼントを置いてにこっと日和と微笑みあって、またそ〜っと戸を閉める。明日の朝どんな顔をしてくるのか楽しみだな? と思いながら俺も日和と別れて部屋へと入るのだが、日頃の運動不足が祟ったのか、また中途半端にマッサージを受けたのかは知らんが、体の節々が痛くなってしまい寝不足状態で雪希の誕生日を迎える俺だった。ぐふっ…。
TRUE END?