可愛いお茶碗の探し方


「おっ? 新しい茶碗買ったのか? う〜ん、なかなかに可愛らしいもんだ」
 と大きめの茶碗を手に取って眺めながら彼が言う。今日1月14日は私の誕生日。今年で22歳になる。彼とは2年前に出会った。とは言え最初の出会いは最悪だったな…、なんて自分でも思う。確かバスでの出来事が一番最初の出会いだったな。それから彼の義妹さんに頼まれて家庭教師になって、そこからの付き合い。人付き合いなんてしたことがなかった私。それは昔のつらい出来事に起因する。そう、それは両親の離婚だ。愛し合っていたのにどうして別れなくっちゃいけないの? と子供心にそう思っていたわけだけど、今になって思うのは別れる原因があって別れたと言うことだろう。そう思う。その両親の離婚と言う要因があって、他人を信用できなくなって中学、高校とほぼ友達らしい友達は出来なかった。いや、自分から壁を作っていたのだろう。そう思う。大学に入っても相変わらず1人…。そんな冬のとある日、私の運命を変えてくれる彼と出会った。
 今は笑顔も明るさも取り戻し、笑ったり怒ったり泣いたりしながらごくごく普通の暮らしをしている。喜怒哀楽がはっきりしてきたね? と彼や彼の義妹さんや私の知り合いなんかにも最近…と言うか約1年前からよく言われるようになってきた。自分ではそうそう変わっていないように思うのだけど、そう言えば素直に笑みが出るようになったとは思う。これも、彼のおかげなのかな? と今、私の隣りで買ってきた茶碗を手に取って触り心地とかをチェックしている彼を見ている。
 茶碗が私専用とお客様用の小さいもの2つしかなかったものだから今回新しく奮発して買ってきたんだけど、男の人の茶碗なんて今まで買ったこともない私だからちょっとと言うか相当に悩んでしまう。彼はよく食べるほうだから大きいほうがいいよね? なんて考えつつ男の人用の茶碗のほうへ行く。結構いろんな種類の茶碗があるんだ…、そう思いながらどれにしようかとしばらく熟考。このどんぶり茶碗にしたらどう言うだろうか。“俺は関取じゃねえ!!” って言うんだろうな? なんて1人クスクス笑いながら選んでいく。端から見るとちょっとと言うか相当に怪しい人に見えるかも…、なんて思って辺りを見渡す私。誰も気づいている様子はない。ふぅ〜っとため息が出る。こんな余計な心配を掛けさせた彼にはちょこっとお仕置きしないとね? そう思っておかずを一品減らすことも視野に入れる。でもまあ私の誕生日だし、今日だけは許してあげよう。そう思った。いろいろと食器を見ていく。中にはこれが食器? と思えるほどの装飾を施したものもあった。見ていて飽きないなと考えながら、肝心のお茶碗のコーナーに来る。えっと…と、茶碗を手に取って探しているとちょうどいい感じの茶碗が見つかる。
 大きさもこれなら申し分ないだろう。そう思ってその茶碗を手に取ってみる。私には大きすぎるけど彼にはちょうどいいかな? そう思ってついでだから私の茶碗も新調しようかな? とあれやこれや見る。どうせなら同じタイプの茶碗がいいな…と思って探してはみるんだけど、見つからない。ちょうどいた店員に聞いてみるんだけど、“いや、この大きさのタイプはこれだけですので…” と持ってる茶碗を見ながら言う。はあ〜、仕方がないか。私のは諦めよう…。そう思って会計のほうに行きかけた刹那、“お客様!” と呼ぶ声が聞こえる。なに? と振り返る私に店員がにこにこ微笑みながら、“これなんて如何です?” と大小お揃いの夫婦茶碗を見せてくる。しかも面白可愛いイラスト付きな茶碗だ。普段はこう言うものは絶対に買わない私だけど、描かれたイラストがあまりに可愛かったものだからついつい買ってしまった。彼が見たら何て言うだろう。大きな不安とちょっぴりの期待も込めて家路に着く私がいた。


「茶碗が変わると何て言うか気持ちも変わるもんなんだな? いつもよりも数倍美味しく感じるぜ。それにこのイラストが何とも言えないくらい面白いや。ははは…」
 と言いながら茶碗を私のほうに傾けておかわりの催促をしてくる彼。確かに私もそう感じる。それはただ単に好きな相手と一緒にいるからなのかも知れないけど、少なくとも食器を変えると料理の見栄えが変わってくると思うわけだ。ぐつぐつ煮えた鍋の横の電子ジャーのふたを開けると、美味しそうなご飯の香りがなお一層食欲をそそる。ご飯を茶碗によそってはいっと手渡すとまた美味しそうにモリモリ食べ始める彼。そんな彼の顔を見遣りつつ私もまた食べ始める。彼が今日あった出来事なんかを話して、ふんふんと私が聞いて彼が話し終えると今度は私が話し出して彼が聞き役に徹する。ありふれた日常に心が躍る私がいる。それはこの茶碗にしたって言えることなのかも知れないね? と彼の顔と描かれたひょうきんなウサギの絵が同じなような感じがして、何とも可愛らしく思えてくる今日1月14日、私はまた1つ階段を昇った。

END