線香花火と夏の夜
今日8月3日は俺の学校の先輩で、俺の彼女でもある神津麻美の誕生日だ。普段勉強とかで何かとお世話になってる麻美だから、誕生日ぐらいは俺がリードしようと思ってあれやこれやと小旅行のプランなどを計画してきたのだが、この間の試験の結果…、補習を受けなくてはならなくなってしまい、否応なく大学のキャンパスを右往左往する羽目になってしまった。
高校を卒業して約半年が経つ。日和は清香と一緒に俺とは別の大学に行ってしまっているし、雪希と進藤はもう一年高校生だ。進藤曰く、“先輩ももう一年一緒に高校生活楽しみましょうよ〜” とか何とか言っていたが、“それだったら俺は高校留年じゃねーかよ?!” と言うと、“ええ〜っ? いいじゃないですか〜っ!! こ〜んな可愛い妹分が二人も一緒にいるんですよ?” と一方の手を雪希の肩を持っていってもう一方の手を自分の顔に指差してそんなことを言う進藤。毎回思うんだが、何で俺がお前みたいなやかましい口から生まれた女と一緒に勉強せにゃならんのだ? と言うより俺は留年決定か、この女〜!! そう思っていつものように延髄チョップをかましてしまい、後で復活した進藤が清香や日和や麻美にまで言いまくって、みんなから怒られたことは言うまでもない…。
で、今日。補習も何とか午前中で終わったので麻美を誘って、午後からどこか出かけようかと思って携帯電話のほうにかけてみると、向こうも研究会での用事があるみたいで夕方と言うことになった。まあ用事があるなら仕方ない。しかし夕方からだとすると、どこにも行けんしなぁ〜。そう思いつつ家路に着こうと電車を待つ俺。一応車の免許は持っていたりはするんだが肝心の車を持ってないので宝の持ち腐れ状態なんだが、こればかりは言っても仕方がない。バイトで貯めて買ってやろうと思い今必死でバイト中な訳だ。幸い大学の方は家から近いため(と言っても、最寄の駅から2駅ほど掛かるが…。)下宿住まいなどはしなくてもいいわけで…。そう言う意味ではよかったと思っている。まあ悪いと言えば家で課題をしていると時たま進藤が邪魔してくるので、それが厄介といえば厄介なわけだが…。
にしても暑い。まあ真夏だからしようがない部分もあるんだろうが暑い。こんな日にはプールで思いっきり泳ぎたい気分なんだが、生憎と水着を持ってきていないし、カップルや家族連れや友達仲間の多い中、一人泳ぐのは詰まらんし。そう思ってちょうど入って来た電車に乗り込む。車内は思いのほか静かだった。もう少し込んでいてもよさそうなものなのに…。とは思ったが、まあこれだけ暑いと外に出るのも嫌になるんだろうな? そう思った。駅に着く。電車の扉が開くとムアッと暑苦しい空気が体を覆う。あ〜、早く帰ってクーラーつけて冷えた麦茶でも飲みてぇ〜。そう思い炎天下の中家に向かい歩き出す俺。一応プレゼントは買って家のほうに置いてあるので、あとはそれを渡せばいいだけだが、なんだかそれも味気ないなぁ〜と思いつつ、ふと駄菓子屋の前を通りかかると…。
暑さの中にもちょっと涼しさを感じる夜。浴衣に身を包んだ麻美と二人、こうして線香花火なんぞを楽しんでいるわけだ。言うのを忘れていたが雪希は進藤と一緒に昨日から思い出作りの旅行に行って3日間ほどいない。清香と日和はどう言う訳かキャンセルしてきやがった。電話口からぽんこつな声で“うふふふふふぅ〜” と意味深に笑う日和に少々と言うか大いに腹が立ったわけだが…。まあ麻美の浴衣姿が見られただけでも良かったと思うのでこれはこれで許してやろうと思う。でも何で浴衣なんだろう。と思って麻美に聞くと、“風情があると思いまして…” そう言うとポッと頬を赤らめる。確かに夏の夜にこう言う浴衣の女性を見るとすごくいいなぁ〜っと思うしな? 長い髪をアップにして上げているから、うなじがすごく色っぽく見える。“すごく色っぽいぜ? 麻美。ますます惚れちまいそうだ” と言うと今まで以上にポッと顔を赤らめる麻美。表情も明るくなってきて友達も増えた俺の彼女。今では自分から積極的に話をすることが多くなったようだ。それが彼である俺にとっては一番嬉しい。と、麻美が俺の顔を嬉しそうに見つめてこう言う。
「喉が渇きませんか? 健二さん…」
「そう言えば…、ちょっとだけ渇いたかな?」
そう言う俺。彼女はいそいそと冷蔵庫に向かい、冷凍庫からカップのかき氷を出してくる。家に来る前に買って来たものなんだそうだがこう言うところはしっかりしてるなぁ〜っと思う。6個ある中の2つを取り出してくる。もちろん6個はみんなの分なんだが今回は俺と2人だけということで…。冷たそうに少し涙目になりながら“はい。健二さん” と手渡してくれる。俺の横にちょこんと座るとにっこり笑顔の麻美。って俺のヘラはどこだ? と思って探していると、“ヘ、ヘラは1つですよ? き、今日はわたしが食べさせてあげます…” と普段の麻美なら卒倒しそうことをやってくる。それは麻美自身がよく分かっていることなので、今も顔を真っ赤にしながらそう言ってきているわけで…。そう思うと俺も何だかとても嬉しい気持ちになって、
「じゃ、じゃあ食べさせてもらおうかな?」
と甘えてみることにした。電気のついた部屋を背に大好きな俺の彼女に食べさせてもらう喜びは一言では言い表せないものがある。でも、これだけは言える。今、最高に嬉しい気分だ…、と。花火はまだ半分残っている。これを食べ終えてからまた一緒にしよう? と耳元で囁くように言うと真っ赤になってた顔を更に真っ赤にして、こくんと頷く今日8月3日は俺の可愛い彼女・神津麻美の誕生日だ。
END