俺こと、片瀬健二は今、猛烈に困っていた。
「あっ、だめ! さつき!! それはあたしのよっ!」
「え〜っ? いいじゃないのよぅ〜。少しくらい分けてくれても…。う〜っ! ケチッ!!」
「おもち…。食べたいです…」
「お兄ちゃーん!! 日和お姉ちゃんがわたしのおやつとったー!」
「うわぁ〜ん。わたしじゃないよぉ〜。さつきちゃんだよぉ〜。雪希ちゃんのおやつとったのぉ〜。うわぁ〜ん」
 それはここにいる幼稚園児たちのせいで…。


健ちゃんパパの騒動記


 はぁ…、と俺は一つ大きなため息をつく。ここ片瀬家は今、幼稚園と化していた。たまたま俺が南山のところへ出かけている時に日和たちが遊びに来たんだろう…。
 俺が南山のところへ出かける前に、雪希に連れられてきたからな…。また雪希が俺の親しいヤツに声でも掛けたんだろうな。そう思った。俺は、高校3年になった。といっても、俺たち3年生は、もうすぐ卒業だ。学校の授業そのものは終わっている。
 だから後は卒業式に出ればいいだけだ。先輩は大学生になった。単位もすでに得ているので、今は気楽なものだ。俺たちはそうは行かなかったが…。センター入試がこの前あった。まあ、人並みに頑張ったつもりだがこればかりはどうなることも出来まい…。神のみぞ知るって言うやつだ…。
 えらく話が脱線しているようなので話を戻そう…。俺が南山のところへ用事で出かけて約2時間。2時間くらい経って戻ってきたらこの有様だった…。
「な、な、な…」
「ながみっつ〜」
 ボカチンッ!! と、そんなことを言ってきた進藤に軽くげんこつを食らわしてやった。途端に頭を押さえて涙目になりながら上目遣いで俺の顔を睨む進藤。そんな進藤が可愛いと思ったのは秘密だ!! しかし何でこんなことになったのか…。それを聞かんと始まらんな…。そう思った俺は、雪希に聞いてみることにした。
「なあ、雪希。原因はなんなんだ?」
「う〜ん。わたし、わからないよ〜? それよりも、ねえ、お兄ちゃん。わたしとあそんでー!!」
 精神的にも子供に戻ってしまったのか、雪希は目を輝かせながら俺の顔を見ていた。そんな雪希の顔は、幼かった頃の雪希そのものだった。他のやつにも聞いてみる。が、誰も分からないらしく、みんなふるふると首を横に振っていた。…と、お菓子の箱に目が止まる。
「雪希ちゃ〜ん!! 一人占めはいけないんだよぉ〜!!」
 日和がぷぅ〜っと頬を膨らませながら雪希にそんなことを言う。怒った顔もぽんこつだな…。雪希の顔をぐぐっと睨む日和の顔を見ながら俺はそう思った。雪希と日和を両足に、さらに進藤を背中に、清香を胸に、先輩を左手に引きながらお菓子の箱を手に取る。
 どこのメーカーのお菓子だ? 菓子箱を見てみるがメーカー名がない。中も見てみるが、やっぱりメーカー名らしき名前は書いてはいなかった。中を覗く。怪しげな…、しかし美味そうなクッキーがいっぱい残っていた。今さっき南山のところでカップラーメンを食べた俺は腹がいっぱいで食えない。まあ、今日の夜食にでも食うことにしよう。そう思って菓子箱のふたを閉める。
 菓子箱のふたを閉めると俺はここにいるお子ちゃまたちにこう聞いた。
「誰だ? こんな美味そうな…、いや違う! こんな怪しげなお菓子を持ってきたヤツはっ!?」
 とは言うものの、大体誰がこんなものを持ってきたのかはおおよそ見当はついている。こういうことを嬉しそうに持ってくるヤツなんて、こいつくらいしかいないわな…。そう、俺の背中でこそこそ隠れているヤツ。マシンガンな喋りの野郎…。
「わたし、野郎じゃないよ…。ちゃんとした女の子だよっ!! 酷い!! 酷いんだよ〜!! 健二お兄ちゃん!! う、う、うわぁぁぁ〜ん!!」
 進藤はそんなことをのたまうと、わんわん泣いてしまった。一瞬にして悪者になる俺…。というか、健二お兄ちゃんってなんだ? みんなの視線が猛烈に痛い…。って、何で分かったんだ? 俺の考えてることが…。
「だって健二お兄ちゃん…、声に出してたよ?」
 先輩が無邪気な顔でそう言う。先輩が俺より年下だなんてな…。はぁ、俺の年を取ったと言う事か…。18歳にして5人の妹、下手すりゃ子持ち(?)状態にも見えるだろう…。ふっ、ふふふふふ…。世も末じゃ……。ここにいるお子ちゃまたちに睨まれながら、俺はこれから起こる不幸を悟った。


 夕方、飯を作れない俺はみんなを連れてファミレスへと向かう。もうすっかり保護者気分だった。ちなみに日和たちの家族には俺が連絡しておいた。ちょっとだけ嘘を吐きつつ、泊まりの許可を貰う。それほど警戒もなく日和たちみんなの家族から了承を得た。
 特に清香の母さんには、”ふつつかな娘ですけど、どうかよろしくお願いしますね?”と、言われてしまった…。みんな、この状況がわかってないんだ…。うううっ…。
 てくてくとみんなの手を引きながらファミレスへと向かう。途中、奥様連中が俺の方を見てこそこそ何か話していたが、気にしないで行くことにする。家から約500メートル離れたところ…、やっとファミレス“シーライク”に到着する。途中、警察屋さんのお兄さんに職務質問などを数回…。
 くそぅ! 何で俺がこんなに怪しまれなきゃいけないんだっ? 最近流行りの幼児誘拐か? 空いていた席に着いて独り言をぶつぶつ言ってると…、
「「ねえ。お兄ちゃん…。どれでも好きなの頼んでいいの?」」
 マシンガンとデカリボンがそんなことを言ってくる。ふと進藤と清香の方を見ると、純粋な瞳で俺のほうを見つめてくる。見た目がお子ちゃまな清香はまあまあ可愛い。進藤もくりくりした目でこっちを見つめている。
 でも、公衆の面前でお兄ちゃんはねえだろうがよ…。くそぅ!! こいつらは…。俺がどういう状況か分かって言ってるのか?…。いや…、分かってねえんだろうなぁ…。そう思うと、目の前が真っ暗になった。
 大きな溜め息を吐くと今度は雪希たちの方を見る。進藤と清香に比べると、非常に大人しいので正直助かった。しばらくメニューを見ていた雪希が遠慮がちに言う。
「お兄ちゃん…、わたし、これでいいよ?」
 雪希が選んだのは定番の“お子様ランチ”だった……。何故だ? うちじゃあ、もっと食べるのに…。不審に思った俺は雪希に聞く…。
「なあ、雪希…。お前こんなので足りるのか? もっと食べてもいいんだぞ?」
「ううん、お兄ちゃん…。わたしはこれでいいよ…」
 あっ! そうか…。雪希は子供に戻ってるんだ…。これくらいが妥当か…。ここの食事2回分くらいの余力は残してあるのでそんなに心配はない。でも、俺の顔を上目遣いで見つめてくるそんな雪希がとても可愛く思えた。
 日和と先輩の方を見ると、う〜んと悩んでいるところだった。これは当分時間が掛かりそうだな…。そう思うと俺は雪希の顔を見て優しく言った。
「雪希。いいんだぜ? 好きなの選んでも…。金ならあるからさ…」
「え〜っ? 何を頼んでもいいのっ? それじゃあ、これ!!」
 そう言う進藤の選んだものは…。松坂牛のビーフステーキ。しかも100g1400円…。おい…、進藤さんや。あんたわざとやってねえか?……。腹が立った俺は、またさっきみたくげんこつを食らわしてやろうかとも思ったが、さすがにヤヴァイのでデコピンを食らわしてやった。
 ビシッ!! といい音がする。途端におでこに手をやる進藤。
「痛ぁ〜い! もう、何するの? お兄ちゃん!!」
「お前が下らねえことばっかり言うからだっ!! って言うか、その“お兄ちゃん”って言うのは止めろっ!! お兄ちゃんは雪希だけで十分だ!!」
「ううう……」
 おでこを摩りながら、涙目で俺の顔を見つめる進藤…。子供に戻っているせいか、いつものこまっしゃくれた様子じゃない、可愛い進藤がそこにいた。
 “さつきちゃん”と呼んでも不思議じゃないくらいの可愛さだった。言動は、いつもと変わらなかったが…。いや…、いつもよりも更にわがままになってるなと、俺は思った。その進藤に輪をかけて厄介なのが清香だった。
「う、う、うわぁぁぁ〜〜〜ん。お兄ちゃんが清香とさつきをいじめるぅ〜!!」
 こ、こいつぅぅぅぅ〜!! 俺に恥をかかせるつもりか? とは思ったが、子供に戻ってしまっているのできつく言うことも出来ず…、結局デザートに1万円も使ってしまう羽目になってしまった。とほほ……。


 家に帰ると夜は9時…。もうそろそろ子供は寝る時間だ。日和はもう眠たそうに瞼を擦ってるし、先輩も眠たそうだ。雪希なんか完全に眠ってしまっている。約2名を除いては…。
「う〜ん……。眠たいよぉ〜。けんちゃんお兄ちゃ〜ん…」
「むにゅむにゅ……」
「すーすー……」
 寝巻きを用意する。一応、服のまま縮んでしまっているので、寝巻きは別段用意しなくても良かったんだが、このまま寝るのもどうかとも思い、押入れを物色した。押入れを調べると雪希が昔着ていた寝巻きがちょうど5着あった…。雪希たちを起こし、着替えさせる。
 その間に、応接間にお客様用の布団(何でこんなのがうちにあるんだ?)をひいた。ひき終わって一段落着いたところへ雪希たちが戻ってきた。眠たそうに目を擦っていた。
「けんちゃんお兄ちゃ〜ん…。お休みだよぉ〜。ぐぅ…、ぐぅ…」
「お兄ちゃ〜ん。おやすみ〜。むにゅ…」
「お休み〜。お兄ちゃん…。ふぁぁぁぁあ〜。むにゅ…」
「ああ、お休み…」
 日和と雪希と先輩を寝かせる。応接室の扉を閉めるところで…、あっ! っと、思い出す。風呂だ…。まあいいか…。わざわざ起こすのも気が引けるし、一日入らなかったところで死ぬこともない。まあ、気持ち悪かったら明日の朝、入ればすむことだ…。
 そう思った俺は寝かせることにした。布団をそっとかけてやる。耳には心地いい寝息が聞こえていた。
「進藤! 清香! お前たちは風呂に入ってから寝ろ!!」
 応接室の扉を閉めてリビングの方へ来た俺は、テレビを見ていた進藤と清香に言った。が、しかし…。
「わはは。おもしろいねぇ〜。きよかちゃん」
「うん、そうだねぇ。さつき」
 全く聞いちゃいねぇ〜。腹が立った俺は、置いてあったリモコンを持つとテレビの電源に向けて…、ピッ…。と電源を切った。途端にこっちの方を上目遣いで睨んでぷぅ〜っと頬を膨らませる進藤と清香…。
「うぅ〜っ! もう少し見せてくれてもいいでしょ?! お兄ちゃん!!」
「ダメだっ!! 子供は9時に寝る、これが鉄則なんだぞ?!」
「分かったわよぅ〜。お兄ちゃんのケチッ!!」
「フンだっ!! 一緒に行こっ! きよかちゃん…。あっかんべぇ〜っ、だっ!!」
 進藤と清香は俺にあかんべーをすると手を繋いでそそくさとリビングルームを出て行った…。しばらく経って、応接室から扉を開閉する音が聞こえた。
 ふぅ〜っと、ため息を吐く。今日一日で人生の半分を使ったような感じがした。しばらくそのままボケ〜っとしていた。……そういや小腹がすいたな…。そう思い、昼間のクッキーのことを思い出す俺。早速菓子箱を開けて一つつまむ。
「結構美味いじゃないか…」
 そう思った。ほんのり甘いのであまり甘いのが苦手な俺でも食べられる。パクパクと口の中へ放り込む。おっ? イケるぞ? これ…。そう思いつつ結局全部やっつけてしまった。またしばらくそのままボケ〜っとする。そろそろ風呂にでも入って今日の疲れを癒そうか…。そう思い立ち風呂へと向かった。
 と、風呂の方から何かしらの声が聞こえてくる。何だぁ? 賊でも入ってきたのか? と思い風呂場の方へと行ってみると?……。
「♪るるるるんるる〜るるん、るるるるんるる〜るるん♪……」
「しーっ! お兄ちゃんに聞こえるわっ! あまり大きな声で歌わないの!!」
「はーい…。……ちぇっ……
 ほほう…。進藤と清香はちゃんと俺の言いつけを守ったか…。感心感心。でも、あまり大きな声で歌わないでくれよ?…、進藤……。こっちは知られると非常にヤヴァイんだからな…。


 次の日の朝…、いつものように目を覚ます。ふあぁぁ〜っとでかい欠伸を一回かますとベットから降りようとする。と、妙にベッドが大きいような感覚に襲われる。何でだぁ〜? と思って手を頭の方向に持っていこうとした瞬間、
 んっ? と違和感に襲われた。手の先を見てみる。パジャマの袖が大きいのか手が隠れて見えない。んんっ? 布団をはぐってみた。足が縮んだかのようにズボンがぞろびく。まるで忠臣蔵の浅野内匠頭のようだ…。
 ひょっとして!! 眠気が一気に吹っ飛んだ。慌てて姿見のところまで来ると恐る恐る中を覗きこむ……。ああっ!! 神よ!! 俺は信仰も何もしていないのに思わず十字を切ってしまった。と、同時にこんな姿を奴らには見せられないとも思った。
 急いで、部屋に戻ろうとするが…、
「うう〜ん…。昨日は楽しかったなぁ〜」
 げっ!! 日和が起きてきたじゃないかぁ? 慌てて隠れようとする…、が、隠れるところがねえ!! 近くなる声…。ああ、神も仏もねえと言うのはこのことか? 思わずうずくまってしまった…。…相手はぽんこつ日和だ。
 清香や進藤ならまだしも日和は分からんだろう…。何せパンツがお子様パンツだしよ…。そう思い、俺はうずくまったままじーっとしていた。たったったった…、と、ぽんこつな声がこっちに向かってくる。
「んっ? あっ! けんちゃん。おはよ〜。昨日は楽しかったねぇ〜。るんららぁ〜」
 ああっ! 何てこった。ぽんこつにこうも容易く見つかってしまうとは…。相変わらずのへっぽこ顔で俺を見つめてくる日和…。んんっ? 今、変な事を言わなかったか? 俺は日和に聞いてみる。が…、
「えっ? わ、わ、わたし知らないよぉ〜? るんららぁ〜」
 相変わらず嘘をつくのが下手なヤツだ…。俺はそう思いながらじーっと日和の顔を見る。困った顔もやっぱりへっぽこだった。少し攻め方を変えよう。そう思い俺はこう切り出す。
「日和…、お前って意外と大胆なヤツだな…。男一人に女五人とは…。ふっ…」
「えっ? お、お、男一人に、女五人って?…」
 日和の顔を見ると火が点いたように真っ赤になる。そして…、
「お、おろおろ〜、あたふたぁ〜」
 へっぽこ特有…、“おろおろあたふた”が出だした。そんな慌てふためく日和を見て、俺は思わず“ぷっ!”とふきだしてしまう…。途端に怒った表情になる日和…。怒った顔もぽんこつなのはご愛嬌…。
「けんちゃ〜ん!! またわたしのこと、“ぽんこつ”だの“へっぽこ”だのって思ってたんだねぇ〜!! わたしはぽんこつでもへっぽこでもないんだよぉ〜。ひどいよぉ〜。げんぢゃ〜ん。うわぁぁぁ〜ん」
「だーっ! 分かった、分かったから泣き止め〜っ!!」
 何で俺の考えてることはこうも分かっちまうんだ? 不思議だ……。


「お兄ちゃん……。ごめんなさい。別に悪気はなかったの…。ただみんな子供に戻ったら、お兄ちゃん、どんな対応するのかなって…」
「で? 昨日はみんなで今日は俺か?……」
 あんまりな理不尽な考えに俺の怒りは頂点に達しようとしていた。しかし、そんな薬があるとはな…。どこで手に入れたんだ? そう聞くと先輩がおそるおそる…、
「実は……わたしの大学の友達に魔術に詳しい人がいて…。それで……」
 先輩はその人から薬を調合してもらったと言った。ついでを言うとクッキーに混ぜ込んだそうだ。それで雪希たちや俺の体が縮んだんだな? そう思った。いかにもすまなそうに俺の方を上目遣いで見る先輩。そんな先輩が何だか可哀想になってきた。俺は言う。
「もういいよ…。先輩…。明日には元に戻るんだろ? なら問題なしだ…。それよりも……」
 そう言って俺は悪の元凶の方をギロリと睨む。そう、みんなを子供に戻させて俺を困らせ、挙句の果てに俺をこんなお子ちゃまな体にした元凶を……。
「わ、私たちは関係ないですよ? ねーっ、小野崎先輩?」
 俺は清香の顔を殺意を込めた目で睨む。“早く吐いて楽になれや…。命までは取らねえからよ…” と…。そういう目で清香を睨む。俺が目で言っていることが分かったのか、清香は土下座してこう言った。
「ごめん! 健二! あたしが悪かったわ…。度を越してるわよね…、これって…。許してくれなんて言わないわ…。だから今日一日健二のお世話をさせてちょうだい…」
 なっ? き、き、清香?! ななな、何てことを言い出すんだっ? そう思い清香の方を見ると少し潤んだ目で俺の顔を見ている。び、びび、病気か? とは思ったが、こいつはヤツみたく根性は捻じ曲がっていない。何より長く付き合ってきた俺がよく分かっている。俺は、清香の肩に手を置くと…。
「ま、今回はお前も素直に謝ったんだ…。それに今日一日だけなんだろ? じゃあ問題ねえ。ってことで、許してやることにする…。って、お、おい!!」
 そう言うが早いか、清香は俺の体を抱きしめた。よほど悪いと思ったんだろうな…。清香の頭を撫でながら、俺は悪の元凶の方へ目をやった。悪の元凶・進藤は…。
「ず、するい! ずるいですよーっ!! 小野崎先輩!! これじゃ私が諸悪の根源みたいじゃないですかーっ!! た、確かにみんなで子供になって健二先輩を困らせちゃおうとか、健二先輩を子供にして抱きしめちゃおうとか、…っていうことは私が立案しましたけど?……」
 吐いた…。吐いちまったな…。そこまで俺を愚弄するとはいい度胸だ……。怒りは頂点に達している…。だが、俺は笑ってしまった。…が、本当に怒ると人は笑ってしまうといったことをどこかで聞いたことがある。俺が今まさにそんな状態だ。
 こみ上げてくる怒りを押さえて俺は進藤に尋ねる…。“このバカらしい作戦はお前の立案か?” と…。いかにも優しそうに微笑みを浮かべて…。雪希たちはもう避難していない。あのぽんこつな日和だって遠くで俺と進藤を見ている。が、当の進藤とくれば…。
「あははははーっ。先輩、何笑ってるんですかーっ? おもしろい顔。ぷぷぷっ…」
 全く分かっていないらしい…。ふっ、ふふふふふっ…。いいだろう。後ろに回りこむと、延髄に怒りのチョップをお見舞いする。が、ヤツには効いていない! 不気味な笑みを浮かべているだけだっ! 進藤は俺の顔を不敵に見つめるとこう言った。
「痛いですね…。先輩。ふふっ…。ねえ先輩?…。今、自分の体をご覧になってそんなことをしてるんですか? いい度胸ですね…。ふふふふふふふっ……」
 俺の体? ふと見てみる……。はっ! と、気付いた。俺の体はこいつのおかげで子供に戻っていたんだ…。“俺様のバカぁ〜” …と心の中で叫んでみるが仕方ない。今はそんな悠長なことは言ってられん!! そう思い進藤から離れようとする…、が……、
 ガシッ!! と腕を掴まれる。ぎぎぎぎっと後ろを振り返ると進藤が怪しく笑っていた…。


「痛て…。痛ててててて…。尻が、尻が痛くて座れねぇ〜……。うううっ」
「お兄ちゃんがいっつも進藤さんを邪魔者扱いするからだよ? ほら、座れる?」
 あの後、俺は進藤に…。くそっ! あの屈辱的な光景が目に蘇ってくる…。まるで悪ガキが母さんにお尻ぺんぺんされるかの如く、俺の尻は腫れ上がっていた。あの時雪希が…、
“お兄ちゃん直伝!! 延髄チョーップ!!”
 とやってくれなかったら、今頃は…。もっと腫れ上がって、二・三日は動けなかっただろう。雪希に延髄チョップを教えておいて、本当に良かったと思う、冬のある寒い日だった……。

おわり

おまけ

 くっそー!! おのれ進藤!! 許すまじ許すまじ許すまじ許すまじぃぃぃぃ〜!! あーんなことやこーんなことや人には言えないことなんかをた〜っぷりやってやるからなーっ!! 覚えてろーっ!!
 3日後…。元に戻るとされた期限を過ぎても俺の体は子供のままだった。進藤は不敵に笑うと…、俺の頭を撫でながら…、
「先輩、あれは1枚で1日分の効果なんですよ〜? それを全部一気に食べちゃった先輩は…。ふふふふふっ…。まあ、そんなことは元に戻ってから言ってくださいねー。せーんぱいっ!! じゃなかった。け・ん・ちゃ・ん(はぁと)」
 と、こんなことをのたまう…。あのクッキーは一体何枚残っていたんだろうか…。お、思い出せん……。って言うか、一体いつになったら元に戻るんだ? 薬を作った人…。そう思いながら俺は、この小悪魔の顔を恨みをこめて見つめるのだった……。悔しいぃぃぃぃぃ〜!!

ほんとにおわり