わたしをどこかに連れてってよぉ〜


 今日4月23日は俺の家の幼馴染み兼ぽんこつ居候兼マイシスターのお姉ちゃん的役割兼俺の彼女な早坂日和の誕生日だ。この時期になるといつも虫歯が出来る日和ではあるのだが、今年はそんなこともなくほっと息をついている。まあこいつの歯医者嫌いは折り紙つきなもんで毎年あれやこれや騒動を起こしているわけだが、昨年は本当に酷かった。あれで俺が気付かなかったら俺が雪希に怒られてるところだ。まあ無事に見つかってずるずる首根っこ引っ掴んで歯医者に連れて行ったわけだが、歯科衛生士になった義妹にこってり叱られてたっけか…。まあどっちが姉か妹かと思うわけだが、雪希が風邪を引いたときなんかはお姉さんになるわけで。と言うか本当に年上なんだから当たり前と言うと当たり前なんだがな? ついでを言うと俺が8月だから日和のほうが4ヶ月ほど年上なんだけどなぁ〜。まあここでは関係のない話なんだが、そんなわけなので最近は歯磨きもちゃんとしているみたいで俺としてはほっとしている。
 で、今だ。大学のほうも休講日と言うこともあって久しぶりにのんびりできるなぁ〜なんて思っていたわけだが、“ねえ、お兄ちゃん。今日は久しぶりにお休みなんだし、わたしのお誕生日なんだからどこかに連れてってよぉ〜” といつにも増してのぽんこつ声で日和はそう言ってくる。たまの休みぐらいゆっくり休養を取りたい俺は、“俺は休む! 行きたいんだったらお前1人で行けっ!” と言った。とにかく最近は講義が難しややこしってな感じで聴くだけで骨が折れてしまう。休校日ぐらい家でゆっくり休養を取らせてほしい。そう思ったわけなのだが…。俺がそう言うと途端に、“うわぁぁぁぁぁ〜ん。ぐよぐよぐよ〜” と泣き出すぽんこつさん。言うに“お兄ちゃんがわたしの言うこと聞いてくれないよ〜” だの、“雪希ちゃんや進藤さんや清香ちゃんや麻美先輩に言っちゃうんだから〜” だのとそんな脅しをかけてくるわけで…。まあ雪希や清香はなんとか話せば分かってくれるだろうし、麻美先輩も伝家の宝刀“めっ!” はあるものの雪希や清香同様話せば分かってもらえるだろう。が、問題なのは進藤だよな? あいつは何かにつけて俺に対してだけぶつぶつ言ってくるしなぁ〜。そう思って日和の顔を見るとぷぅ〜っと頬を膨らませての涙目の上目遣いと言う女の子特有の拗ねた表情で俺の顔を睨んでいる。が元がへっぽこ顔なもんだからそんな顔をしても全然怖くはない。と言うか余計にイジワルしたくなってくる。まあ今日は誕生日だからイジワルは止めておくが…。そうこうしてるうちに俺のベットに上ってきて揺り動かすように“ねぇ〜、どこかに連れてってよぉ〜” と駄々をこね始める。こいつが駄々をこね始めると際限なくこねてくるので後が悪いんだが、今日は動きたくねーっ! ってな具合に無視して寝に入る俺。“もうお兄ちゃんは〜っ! ようし、こうなったら最後の手段だよぉ〜っ!!” とか何とか言って何か知らんがもぞもぞ動く音が聞こえてくる。な、何だ〜っ? と思い薄目を開けて見てみると、下着姿になった日和がもぞもぞ俺の布団の中へ入ってくるところだった。“なっ? なななっ? なななななななにをやっておじゃりましゅるか?” などと気が動転したのか平安貴族みたいな口調になってそう言う俺に、
「お兄ちゃんがわたしの言うこと聞いてくれないから、こうやって迫ってみたら言うこと聞いてくれるんじゃないかなって思ってねぇ〜?」
 うふふと微笑みながらそう言うとまたもぞもぞ俺の布団の中に入ってこようとする日和先生。下着とは言えその下は…、と考えるとどうにもこうにもイケない妄想が頭の中を駆け巡る。い、いかん。鼻の奥から強烈な鉄の匂いがしてきた。“ふ、ふふふ、服を着ろ! 服をっ!!” と叱りつけるように言ってもむぅ〜っとした顔なんだろうぽんこつさんは、“お兄ちゃんが起きてくれるまでず〜っとこうやってるんだからぁ〜!!” とそんなことを言うとすっぽり俺の布団に入って来てぎゅ〜っと体を押し付けてくる。ぽにゅぽにゅした感触は非常に気持ちがいいのではあるがこれはさすがに危ないのではありませぬか? と思う。後ろ目に日和の顔を見ると、“う〜っ、う〜っ” とでも言わんばかりな非難の目を向けている。はぁ〜、さすがにこれでは寝るに寝られんわけで仕方なく起きる。“くそぅくそぅ” と以前どこぞのテレビアニメでやっていた台詞を思い出してそう心の中で呟く俺。そんな俺に対してへっぽこはもうニコニコ顔で、“るるる〜んるるるるる〜ん♪” と言う鼻唄まで出しながら脱いでいた服を着直していた。全く女っつうもんは目的のためなら手段を選ばんもんだとは進藤や清香で知っていた俺だったがまさか日和先生までもがそうやってくるとは…。多分進藤辺りにあれやこれや言いくるめられて感化されたんだろうなぁ〜。昔は素直でいい子だったのにどこでどう間違ってしまったのか…。しかしこれ以上は間違いを起こしてはならぬ! と日和のおじさんたちの顔を思い浮かべつつ、そう心に誓う俺。ババババッと支度を済ませた。まあ男の支度なんざ着替えとあと身だしなみのチェックだけだ。パッと脱いでパッと着て鏡でチェックすれば済むわけなんだが、女の着替えは時間がかかるんだなぁ〜。これが…。ぽんこつへっぽこ幼馴染みの場合は特にだからか、ちょっとコーヒーでも淹れて眠気を覚ましておこう。そう思って淹れて飲む。10分ほど経って、階段を下りてくる音が聞こえる。おっ、ようやく下りてきたか…。そう思いその方向に目を遣る。ハーフパンツに膝上まである靴下、春色のトレーナーにデニムのジャケットと言ういつもの日和とは違う格好に少々戸惑う。“どうかな? 清香ちゃんに‘日和もいっつもスカートばかりじゃマンネリ化するんじゃない?’ って言われて思い切ってこんな格好にしてみたんだけど〜…” そう言って上目遣いに俺の顔を恥ずかしそうに見遣っている日和。おまけにポニーテールと来たもんだ。可愛い。何となくだがいつものぽんこつじゃないみたいだ。しばらくぼ〜っと日和のほうを眺めていた俺。そんな俺の顔を見て…、
「わわわっ、お兄ちゃんがおかしくなっちゃったよぉ〜っ! どうしよう〜」
 などと言いながらおろおろあたふたしだす。前言撤回!! やっぱりぽんこつはぽんこつだ。そう思い、“まあなんだ…。やっぱりそんな格好しても中身がお前じゃ割に合わんよなぁ〜?” などと言うと、“またお兄ちゃんがイジワル言うよぉ〜。今日はわたしのお誕生日なのにぃ〜。ぐっすん。しくしくしく…。ぐよぐよぐよ〜っ” と言ってぐよぐよ泣き出す日和先生。こんなことが日常茶飯事のように起こる家って言うのも案外珍しいんじゃないかとは思うんだが、泣きべそをかきつつ“う〜っ、う〜っ” と言って非難の目を向けてくるぽんこつさんにぺこぺこ頭を下げる俺がいたりするわけで…。


「美味しかったねぇ〜? 次はあそこのケーキ屋さんのイチゴショートだよぉ〜?」
 あの後、時間も中途半端だったので近くのショッピングモールで買い物などをして過ごすことにした俺たちではあったのだが、今日は外食でもして帰るか〜…、などと言うことになって、日和と一緒に地下街巡りをしているわけだが…。まあこいつは普段からよく食べるほうではあるのだが、いつにも増してよく食べるわけで。定食屋に寄ってトンカツ定食をぺろりと平らげた後が、ものすごいわけだ。これじゃあ後でちゃんと歯磨き指導しないとなぁ〜なんて思いつつ、日和先生に腕を引っ張られてケーキ屋さんへ向かい歩いている。ちなみに、日和には内緒で誕生日プレゼントにと前に来たときに欲しがっていた可愛らしいネックレスを購入して、日和の鞄の中に忍ばせてあるんだが…。帰ってどんなふうなリアクションを取るのかが非常に楽しみだな? そんなことを心の中で考えつつも、“まだ食べるんかいっ!” などとツッコミを入れる今日4月23日、幼馴染みで居候でぽんこつで可愛い俺の彼女、早坂日和の誕生日だ。

END