1人で歯医者さんに行こう


 今日4月23日はわたしのお誕生日だよ? そ、それなのにぃ〜。夕べ歯磨きしてるときにお兄ちゃんが洗面所の入ってきて“どれどれ、ぽんこつさんは歯磨きうまく出来てるかなぁ〜?” って言うものだから、“出来てるよ〜。ほらぁ〜” って口を開けて見せるわたし。でもお兄ちゃんは…、“あ〜あ…、お前またがっぽり穴が開いてるぞ?” ってイジワルそうにそう言ってきたの〜…。えええっ? と一瞬飛び上がるほどに驚くわたし。そう言えばこのまえちょっとがりって言う嫌な音がしたようなしないような…。急いで鏡を見ようとするとお兄ちゃんに止められる。“見たら夜1人でトイレに行けなくなるぞ〜” って不気味な笑いを浮かべてお兄ちゃんはそう言ってきたの。うわぁぁぁぁ〜ん。どうしてよぉ〜。いっつもこの時期になると歯に穴が開くわたし。去年あんなことがあったものだから、ちゃんと歯磨きも毎日休まずやってきたのにぃ〜。ぐっすん、しくしくしく…。雪希ちゃんは歯医者さんになるために勉強に行っていて今年はちょっと帰りが遅くなるって言うから少しだけほっとした気持ちなんだけどなぁ〜。でもね?
「今日は俺も忙しいからお前一人で行って来い!! ただし、逃げたりなんかしたらお前の昔のとっても恥ずかしい写真をカラーコピーにしてそこら辺りにばらまくからな?」
 って目をグリグリさせながらお兄ちゃんはこう言ってわたしの顔を睨んでくるのぉ〜。ええ〜っ?! 絶対無理だよ〜!! 世の中で一番怖くて嫌いな場所なのに〜。…でも去年と一昨年のことがあるから、無理に行かなかったら雪希ちゃんに連れてかれるし…。しかもぷんぷんって怒ったような顔で。それにそれに、お兄ちゃんのこの顔は絶対本当にやりそうな顔だし。行くしかないのかぁ〜。はぁ〜ってため息をつきながら診察券とあと、夕飯の買い出し用の鞄を持ってとぼとぼ出かけるわたしがいたんだよ〜。
 で、普段お世話になってる歯医者さんの通りに着くわたし。この時点で足ががくがく震えてきちゃう。今日は一人だし今冶水でも買って塗っちゃおうかなぁ〜なんて考えたけど、もしバレたりなんかしたらお兄ちゃんと雪希ちゃんから鬼みたいに角を生やして怒られるよぉ〜。せっかくの誕生日に怒られるのは嫌だし、でも行かないと絶対に怒られるし。ぶるぶるぶる…。と、とにかく入っちゃえばいいんだ! そう思って今日は自分の足で歯医者さんの門をくぐったの…。受け付けのお姉さんにおずおずと診察券を見せると?
「今日はお一人ですか?」
 って不思議そうに聞かれる。それはそうだよね? だって毎回お兄ちゃんと雪希ちゃんに両腕を掴まれて強制連行みたいに連れて来さされてるんだもん。でも怖いなぁ〜。遠くでキュイーンって言う音も聞こえてるし。でもでも、わたしの昔の変な写真を進藤さんや清香ちゃんとかにばらまかれるのはもっと嫌だし。そう思って首をこくんと縦に振る。“じゃあお呼びするまで座って待っていて下さいね?” って受け付けのお姉さんに席を勧められる。席に座る。そう言えば去年はあまりの恐さに辛抱できなくなっちゃって雪希ちゃんが目を離した隙に逃げだしたんだよね。でも結局捕まっちゃって…。雪希ちゃんのあのわたしを睨む目を思い出しては、今でもぶるぶる震えてきちゃう。
 って考えてるうちに時間が経過して次の次はわたしの番…。トイレに行きたくなっちゃうけどもうすうぐ番が回ってきちゃうから我慢することにする。男の子がお母さんと出てきた。わわわっ、とっても痛そうに頬に手を当ててるよ〜。きっとガリガリガリって削られたんだ〜。そう思うとあの恐怖が蘇えってくる。本当に逃げちゃおうかな? なんて思ってたら…。
「早坂さ〜ん、早坂日和さ〜ん」
 ってお姉さんの呼ぶ声…。もう逃げられない、逃げられないよ〜。涙目になりながら先生のところまで行くわたし。“あれっ? 今日は1人で来たの?” って先生は驚きながら聞いてくる。そうだよね? だっていっつもお兄ちゃんと雪希ちゃんに腕を掴まれて泣きべそをかきながら来るんだから。その…、今も泣きべそはかいてるんだけど…。寝台の上に寝かされると先生は特殊な鏡みたいなものを持ってたの。あれいつもみたいに麻酔の痛い注射じゃないの? って思ったけど、そんなことを言うとほんとにされそうだから言わない。
「それじゃあ口を大きく開けて…」
 先生の言われたとおり口を大きく開ける。あの猿轡みたいな機械は? キュイーンって言うドリルは? 頭にはてなマークをつけたままのわたし。そんなわたしをよそに歯科衛生士のお姉さんと一緒に特殊な鏡で歯をチェックしていく先生。と、難しい言葉を喋っていた先生は、ぽんぽんとわたしの肩を優しく叩いて…。“今日はこれで終わりだよ? 歯もしっかり磨けてるし言うことなしかな?” って…。へっ? あ、あの、あのあの…。って訳が分からないままそう言うわたし。お兄ちゃんはイジワルそうに……って! そこでようやく分かる私がいたんだよ?


「ウソつきのお兄ちゃんなんか知らないんだからぁ〜っ。ほんとにほんとに怖かったんだからね? ぷんぷんっ!!」
 と、俺の家の居候はこう言うとぷぅ〜っと頬を膨らませてこっちを睨んでいる。まあこんなへっぽこ顔に睨まれても怖くもなんともないわけだが、文句を言おうものなら明日から当分の間味気ない食事が待っているのでこんなことは口が裂けても言えないわけだ。今回は雪希とも相談して何とか日和を1人で歯医者に行かそうって言うことだったんだが、作戦の方は大成功を収めたわけで。まあ代償の方も大きいわけだがこれは数日で元に戻るから俺としては楽な方かもしれない。“でも、日和。何ともなくてよかったな?” と言うと今までの睨んでいた顔がウソのようにニコニコ顔になって、
「うん!! これも毎日歯を磨いてるおかげだよぉ〜。るんららぁ〜」
 と、泣いていたかと思ったらもう笑ってるへっぽこな、でも可愛い俺んちの居候、早坂日和の19回目の誕生日だ…。って! いけねっ! ケーキ買うの忘れてた…。

END