肝試しに行こうよ
今日8月14日はまあ口から先に生まれたようなやかましさでいつも俺の延髄チョップで涅槃行きな彼女、進藤さつきの誕生日だ。いつも思うんだが誕生日と言うイベントは非常に難しい。例えばプレゼントを贈るにしたって、またどこか出かけるにしたってそれ相応に経費と言うものが絡んでくる。で万年金欠気味な俺は今年も悩んでいるというわけだ。まあプレゼントのほうはマイシスターに手伝ってもらって買ったものがあるので、それを渡してしまえばいいわけだが(もっともこういうことだけには目ざとい俺の彼女のことだから文句をぶつぶつ言われそうな気がするんだけどな?)、さてどこで渡すかが問題になってくる。まあ一般的には小洒落たレストランか喫茶店などで渡すのが一般的なものなのだろう。が俺はこの通りの金欠状態なわけで。この間の祭りで射的に5000円ほど使ってなおかつ彼女に奢らされたのが痛かった。
マイシスター雪希も今月はちょっとピンチらしく、家計簿をつけながらふぅ〜っとため息をついている。しかしこのまま何もやらんかったらやらんかったで後で何を言われるか堪ったもんじゃない。とふといいアイデアが浮かぶ。お金も掛からず、なおかつこのうだるような暑さを凌げる一石二鳥のみならず一石三鳥も四鳥もくる画期的アイデアを!! しかし、あいつが容易くうんと首を縦に振るようには思えんのも事実なわけだが、まあその時はその時で何か考えるか…。と言うことで早速電話を掛ける俺。進藤はと言うと意外にすんなりと“いいですよ” と言う。こうも意外に肯定されると何だか拍子抜けのように感じたが、あとで否定されてがーがー文句を言われるとかなわんので、“じゃあ夜にな” と言うと電話を切った。しかし、2人だけって言うのもなんだか味気ない。それに、あの口から先に生まれたような女のことだ、後で何を言い出すか分かったもんじゃない。この前も月がきれいだったので散歩なんぞしていたら急に、“こんな美人で可愛い彼女が一緒だからってオオカミにならないでくださいよっ!!” なんて言い出してギロリとこっちを睨んでくるから非常に困った訳なんだが…。仮にお前が美少女? だったとしても俺はオオカミにはならん!! とは思ったが相手はマシンガントークな彼女だからこう言うと逆にやり込められるのがオチなわけで…。こういうとき先輩みたいな大人しい彼女だったらどんなにいいだろうと思うわけだけどな?…。はぁ〜。
さて、夜になる。いつものようにいつもの面々が集まったわけだが…。取りあえず日和。雪希の後ろでこっちを涙目で睨むのはやめろ。清香は〜っと、うん、お前は大丈夫そうだな? そのデカリボンが妖怪アンテナ兼護符の役割でどんな悪霊でも逃げ出すだろうぜ。と思ってると向こう脛(いわゆる弁慶の泣き所ってやつだ)に鈍い痛みを感じる。何だぁ〜っと思って見てみるとシマシマ柄の足が俺の脛に見事に入っていた。“いって〜っ!! 何しやがる!!” と言うと“あんたが変なことを口走ってたからね〜” とふんっ! とばかりにそっぽを向くと何やらぶつぶつと文句を言い始める。って言うか小声でしゃべってたのか? と自分自身を指さして麻美先輩に聞く俺。先輩はやや困った顔になりつつもこくんと首を縦に振っていた。みんなの視線が非常にい痛かったことは言うまでもなく、かつマイシスターまでにもちょっとだけ寒い目で見られて、お兄ちゃんは非常にショックだったと今日の日記に記しておこう。ぐっすん、しくしくしく…。
さて、目的地の寂れた寺に到着する。まあ見るからに何もなさそうな寺のようだが、実のところここを紹介したのは俺の彼女だったりするわけで…。何か裏がありそうだなとは思うんだが、ぶるぶる震えている進藤を見てまあそれはないだろうと思い直した。と言うか普段はあんなに勝気で喋りだすとどこまでも喋る進藤も所詮は女の子だなと思った。まずマイシスター・雪希とぽんこつ日和に行かせることにする俺。“そ、そんなぁ〜” と言う声が見事にユニゾンしていてそれがおかしかったわけだが、二人にしてみれば心細いんだろうな? うるうるした目で俺の顔を見つめているわけで…。その顔に根負けした俺は一緒についていくことにした。進藤はと言うと当然ぶすっとした顔で見ているのかと思いきや、何か良からぬ企みを考えていそうな顔でにこっと微笑んでいるし…。何か背筋に悪寒めいたものがゾゾゾゾ〜ッと走る俺ではあったのだが…。1時間が経過する。それぞれペアを組んでの行動だったわけだが、その中には何故か俺が既成事実のように入っているわけで…。雪希・日和ペアに続いて清香・先輩ペアも一緒に回らされる羽目になってしまった。と言うか、先輩はともかく清香がいるから安心じゃないか? サテライトキャノンも持ってることだし…。と先輩に言うところが…、ふるふるふるふるとどこぞのお嬢様のように首を横に激しく振られ、“誰がサテライトキャノンですって〜っ!!” と怒スジを浮かべた健康優良児に言われて仕方なくついて行った。これで2周目になるので要領はだいたい分かった。少々驚かしてやれ、とばかりに怖いことを言うと案の定飛びつくようにしがみつく2人。先輩のぽにゅぽにゅした感触はたまらなくいいし、清香のほうもまんざらでもない。と半ばエロ親父みたいな感じで両手に華な状態で出てきたわけだが、進藤の俺を見る目がまるでどこぞの執事の娘のような目で非常に恐ろしく感じたわけで…。
「さあ先輩! 次は私の番です! エスコートして下さいよ?!」
こう言うと進藤は俺の腕にむにゅっと自分の胸を押し付ける。多分、さっきの俺の顔を見ていたんだろうな…。はぁ〜っとため息を一つ。さてこれで最後か…。最後はまあお約束通りと言うか何と言うかだが、俺の彼女の番になる。しかし、3回も同じ道を通るのは味気ない気もするんだが…。などと考えていると急に進藤がモジモジしだした。な、何だ? 何か出たのか? と辺りをきょろきょろしていると、“せ、先輩…。あの…、ちょっと…” と言っては上目遣いに俺の顔をちらちら見つめていた。妙に頬を上気させてまじまじと俺の顔を見つめる進藤。まさかここで? と言うかマイシスターたちに見つかるぞ? まあ彼氏彼女の仲は公認済みだし別に恥ずかしいことはないよな? キスくらいは…。などと考えて“進藤…” と唇を合わせようとした刹那、“先輩…。何を勘違いをしちゃったりなんかしてるんです? 私はトイレに行きたいんですっ!!” こうのたまうとさっさと俺をほっぽり出してトイレのほうに行ってしまう。置いてけぼりか? 俺は…。とは思ったがもう行ってしまった進藤に何を言っても始まらん。適当に歩いて出よう。そう思い歩き出そうとしたとき、
「せ〜んぱい。もう済みましたから一緒に歩きませんか?」
今、俺の前からトイレのほうに行った進藤がニコニコ微笑みながら立っているではないか? おかしい。どう考えてもものの30秒ほどでトイレを済ませて帰ってくるなんて出来るわけがない。訝しげに進藤のほうを見遣ると、“と、途中で止まってしまいまして…” と照れくさそうにこう言っては下を向いてしまう。まあ進藤も一応は女の子だもんな? 恥ずかしがることだってあるよな? そう思い、“じゃあ続き行くか?” そう言って歩き出す俺。進藤は俺の服の後ろを掴んで辺りをきょろきょろ見ている。どうもおかしい。さっきまで、いや今までなら離れろと言っても聞かず、それよか、“こんな可愛い彼女を一人にしておくほうがどうかしてますっ!!” とか何とか言って逆に俺の腕に自分の胸を押し付けて歩くってのがこのやかましい俺の彼女の行動パターンだったはず。トイレに行く途中に頭でもぶつけやがったか? と見るがこれと言って変わった様子もなし。不思議だ…。まるで性格が逆回転したように大人しい。俺から何か話でも振っていくか? そう思い口を開きかけた刹那、“きゃっ” と言うこれまた普段の進藤らしからぬ声で俺の腕にしがみつく。まあしがみつくのはいいんだが問題はその後。普段の進藤だったら文句をぶつぶつ言いながらギュッと俺の腕に自分の体を擦り合わせるかのようにしがみつくのに、今の進藤は“ご、ごめんなさい…” と恥ずかしそうに言って離れた。 まるで別人のようだ…例えて言うならそう! 二重人格のように…。二重人格と言うのは心の歪みから生まれるものだとどこかの本に載っていたが、俺がその心の歪みを作っちまうなんて…。“済まなかった! 進藤! 俺はお前にとんでもないことをしてしまったんだな?” と自戒するとともに、今後はもう少し丁重に扱うようにしよう。と思って急いでみんなのところへ向かった…ところまでは良かったんだが……。
「先輩! いつまでお姉ちゃんの手を握ってるつもりです? お姉ちゃんもお姉ちゃんです…。先輩は私の彼氏なのに…。ぶつぶつぶつ…」
進藤が2人いる。顔は全く瓜二つな進藤が2人。まあ何と言うか後で来たのは進藤の双子のお姉さんだったわけで…。しかし何と言うか仕草とかがまるっきり違うので俺はそこで区別できる訳で…。でも最初のうちは分からなかったけどな? 先輩や日和はまだ区別し切れていないみたいで未だに“どっちが進藤さん?” って2人の進藤に尋ねてるけどな。まあ具体的に言うと、もう1人の進藤は二重人格でもなくお化けの類でもなく、ましてやドッペルゲンガーでもなく、双子のお姉さんだったわけで…。びっくりさせちゃおうって言うことで進藤と相談して俺を含むみんなに内緒でついて来たんだそうだ。進藤も一つ絡んでいたのだが、まあ俺は進藤が何か呪いでも受けたのかなどと勝手な想像をしてしまっていたわけだ。それにしても顔のパーツから体の線から瓜二つで一見見た感じじゃ分からんぞって言う感じだったが…。話をするとすぐに分かっちまうんだから、俺の彼女が普段どれだけやかましいのかがこの一件で改めて分かった。
「見てると仲が良いんだもの…。ちょっとイタズラしてみたくなっちゃって…。ごめんね? さつきちゃん…」
いつものマシンガンのように喋りまくる進藤に進藤のお姉さんもたじたじな訳で…。清香や日和たちも喋りまくる進藤に押されて、声が出ない様子だ。先輩はぶるぶると震えながらマイシスター・雪希の背中に隠れている。雪希は“まあまあ進藤さん” といつも通りな対応に思慮している。かくいう俺はと言うと、進藤にギュッと抱きつかれた挙句体を密着されて暑苦しいだの胸と胸が合わさって恥ずかしいだのとまあこんな状態な訳で…。何が悲しゅうてこんなみんなのいる前で抱きつかれにゃならんのだ? とは思うもののこれがヤキモチなのかと思うとちょっと嬉しくなってくる。“とにかく! 先輩もお姉ちゃんのほうばかり見てないで私のほうも見てくださいよっ?!” そう言ってぷぅ〜っと頬を膨らませる進藤が妙に女の子らしくて可愛いと思った今日8月14日、俺の彼女・進藤さつきと、そんな進藤のお姉さん、進藤むつきさんの誕生日だ…。
END