わたしのお誕生日なんだよぉ〜?
今日4月23日はわたしのお誕生日なんだよぉ〜。あっ、でもいつもお誕生日はけんちゃんにすっかり忘れられてて、すっごくすっごく悲しかったんだからね? けんちゃんったら、“へっ? 今日はお前の誕生日だったのか? いけね…。すっかり忘れてたわ…” なんて笑いながら毎回そんなことを言ってくるんだよぉ〜? でもその後で雪希ちゃんにけんちゃん、怒られてたけどね? うふふっ。その後でけんちゃんにプレゼントを買ってもらったんだよ〜。清香ちゃんが、
「なるべく高いものをねだりなさいよ?」
なんて言うから、5000円くらいの春色の可愛いワンピースをおねだりしてみたの。そしたらけんちゃんったら、
「お前はこれで十分だろ?」
って怒りながらクマの絵がプリントされた子供用のシャツを指差してそう言ったんだよぉ〜? ひ、ひどいよぉ〜。けんちゃ〜ん。こんなの着られないじゃないのよぉ〜。ぐっすん。涙目になって文句を言うと、
「じょ、じょじょじょ、冗談だって! 分かった、分かったから…。だから泣きべそかきながら睨むんじゃねぇ!!」
けんちゃんったら、そう言いながら慌て出すんだよ? けんちゃんのおろおろあたふたする格好が面白くてさっきまで涙目になってたわたしは、うふふって笑っちゃう。途端に不機嫌になるけんちゃん。でも結局、そのワンピースは今、わたしの洋服ダンスの中に大切に仕舞ってあるんだけどね?
誕生日の朝、電話でけんちゃんに呼び出されたわたしは公園で待ってたの。何だろ? う〜んう〜んって考えてたけど、やっぱり分からないや…。えへへっ。今年はけんちゃんお祝いしてくれるのかなぁ〜?…。けんちゃんを待ってる間、そんなことを考えてたんだよ? 今のところけんちゃんも清香ちゃんも雪希ちゃんもみんな誰も言ってくれないし…。去年も一昨年もけんちゃんだけ何にも言ってくれなかったし…。また今年もけんちゃんにだけ忘れられてるんじゃないのかな?…。そう思いながら待ってると、
「よっ、ぽんこつ。今日もへっぽこ顔だな」
けんちゃんがそう言いながらやってくるんだよぉ。ひ、ひどいよぉ〜。わたしの顔はへっぽこ顔なんかじゃないんだよぉ〜? そんなことばかり言うとまた雪希ちゃんに言って怒ってもらうんだからね?! ぷんぷんっ! ぷぅ〜っと頬を膨らませるとわたしは言う。そんなことを言うと、必ずけんちゃんはぺこぺこ頭を下げるんだよ? よっぽど雪希ちゃんが怖いんだね? そう思いながら案の定ぺこぺこ頭を下げてるけんちゃんを見てたんだよ。うふふっ。
けんちゃんと町をうろうろ。何でうろうろするんだろ? 不思議に思いながら後をついて行く。“何でうろうろしてるの?”って聞こうかなぁ〜って思ったんだけど、そんなことを言うと必ずけんちゃんは“いいじゃねーかよ?” って言いながらこっちを睨んでくるに違いないんだよ…。そう考えてわたしは聞かないことにした。てくてくてくてく、歩く歩く歩く。けんちゃんはときどき腕時計を気にしてる。う〜ん…、やっぱり分からないや。って考えて、ふと、今日がわたしの誕生日だったんだって気付いたんだ。もしかして? って思って遠回しにわたしの誕生日のことをけんちゃんに言うと?
「ああっ? 誕生日? 誰の?」
って笑いながら言ってくるんだよ〜? やっぱりまた今年も忘れられてる…。ぐっすん…。しくしくしく。わたしの心の中はきっと土砂降りの大雨だよぉ…。と、けんちゃんがとぼとぼ歩くわたしの背中越しにこう言うの。
「日和、ちょっと今から俺に付き合ってくれねーか?」
って。“なによぉ〜。わたしの誕生日も忘れるけんちゃんなんかに付き合ってあげないよ〜だ! ふんっ!” こう言いたいけど、わたしにだけイジワルばっかりしてくるけんちゃんにこんなことを言えるはずもなく、結局泣きべそをかきながらもついて行くわたし。
てくてく歩く。けんちゃんの横顔を、“う〜っ!”って睨みつけながら歩く。でも当のけんちゃんは…。
「清香や進藤ならともかく、ぽんこつのお前に睨まれても全然怖くねーや。あはは…」
「またひどいこと言ってるよぉ〜。わたしはぽんこつじゃないって何度も言ってるのにぃ〜。うぅ…」
そう言ってわたしの顔を微笑みながら見つめてる。わたしはぐぐぐっとけんちゃんの顔を睨みながら横を歩いてる。でもけんちゃんはそんなわたしのことなんか気にもかけずにてくてく……。ふと、けんちゃんが腕時計を眺めて呟くようにこう言った。
「もうそろそろいい頃なんじゃねーかな?」
独り言のようにこう言うとまた歩き出す。ふふふって怪しく笑いながら。わたしはちょっと怖くなってきちゃって、“あっ、ちょっと用事を思い出しちゃった”って言って離れようとするんだけど…。ガシッと手を掴まれていて動きが取れなかったの…。
「う、う、うわぁぁぁ〜〜ん。けんちゃんごめんなさい〜。お願いだから変なところに連れてかないで〜。ぐよぐよぐよ〜」
「お、お、俺がそんなことするか! このへっぽこ!! いいからきりきり歩け! きりきりっ!!」
そう言いながらわたしの手を引いてずんずん歩くけんちゃん。ど、どこに連れて行かれるの? 怖くて……って? この道はいつも通る道だよ? けんちゃんと雪希ちゃんといつも通っている道…。何でかな? って思いながらわたしはけんちゃんに手を引かれてあちこちと引っ張られて行ったの…。町内を回るうち、あれ? って気付いたことがあったんだ。けんちゃんは通学路とか商店街とか昔の遊び場とか、そういう所ばかり回ってる…。手を繋いだけんちゃんの顔は何故か真っ赤っか…。
やがて目的地に着いたんだよ…って、ここはけんちゃんの家? えっ? えっ? えっ? ど、どういうこと? けんちゃんの顔を見る。わたしの顔を優しく見つめていたの。はてな顔のわたし。“ここって?”って、けんちゃんに言うと急に慌て出してけんちゃんはこう言うんだよ…。
「きょきょ、今日はお前の誕生日だろ? だからな? みみみ、みんなで誕生日会をやろうって…。お、俺が言い出したんじゃないんだからな? ゆ、雪希だぞ? 言いだしっぺは…」
けんちゃん…。忘れられてると思ってた。おめでとうって言ってくれないのかと思ってた。でもそんなわたしの考えとは違って、優しそうな微笑みを浮かべてけんちゃんはこう言ってくれたの…。
「誕生日おめでとう…。日和」
って。そう言ってくれたの……。
「うわぁぁぁぁぁぁ〜〜ん。しくしくしく…。け、けんちゃん絶対忘れちゃってるんだ〜って思ってたんだも〜ん。うわぁぁぁぁぁぁ〜〜ん」
「お、おい。泣くなよ。みんなが笑ってるぞ?」
だ、だってぇ〜。けんちゃん絶対忘れちゃってるて思ってたんだもん。雪希ちゃんは“お兄ちゃんだって日和ちゃんのお誕生日は覚えてるよ…”って言って慰めてくれる。清香ちゃんは“そうよ、バカ健二も毎回忘れてるわけじゃないもんねぇ?…”って言ってけんちゃんの顔をうふふって笑いながら見つめてるし、進藤さんはいつものマシンガントークでけんちゃんに言い寄ってる。神津先輩はそんなけんちゃんたちを優しく見つめていた。
鼻をぐすぐす鳴らしながら、でもにっこり笑顔になるわたし…。そんな今日4月23日、わたしの誕生日だったんだよ。ぐすっ。えへへっ…。
END