雨空とリボンの乙女?


 今日10月23日は紛いなりにも女の子? である小野崎清香の誕生日だ。それで雪希たちはなにやら誕生日パーティーなどを開こうという話らしい。雪希が朝飯を食ってる時に突然、“ねえ、お兄ちゃん。今日清香さんのお誕生日だよね? みんなでお誕生日会なんてどうかな?” とそんなことを言ってきた。な、ななな、なぬ〜っ!! 何であんな暴力女の誕生日会を開らかにゃならんのだ? とは思うものの…。雪希の笑顔にはどうしても反論出来ず、こくんと首を縦に振る俺。はぁ〜、相変わらず甘いよなぁ〜。俺…。ため息を吐きつつそう思った。
 学校へ向かう。今日は久しぶりに雨が降っている。傘を持つ手の向こうに子供のような傘を指した少女(と言うよりはお子ちゃま?)、日和と出会う。まあ、道すがら出会わないほうがおかしいんだけどな? …にしても相変わらずのへっぽこ顔だ。だけどこのへっぽこ顔も見慣れてくるとちょっと可愛い。
「わたしはへっぽこ顔じゃないんだよ〜っ!! けんちゃんのいぢばる〜っ!!」
 俺の心の声が聞こえたのか、半泣き状態で俺の顔を“う゛〜う゛〜”と言いながら俺の顔を睨む。睨む顔も何だかぽんこつだがこいつを怒らせて、後で今日の主役であろう清香にぶつぶつ文句をいわれ、それにも増してあの口から先に生まれたような女にまたマシンガンな喋りでぶりぶり文句を言われると非常に厄介なので、ここは素直に謝ることにする。
「悪かった。ちょっとばかり口が滑った…」
「いつものことじゃないのよぅ〜。ぷんぷんっ!」
「まあまあ、お兄ちゃんも謝ってるんだから日和お姉ちゃんも許してあげて?」
 さすがはマイシスター。ナイスなフォローだ。日和も雪希に言われると形なしだ。すぐに機嫌も直る。案の定、“うん。けんちゃんも気をつけてね?” と言ってにっこり笑顔の日和。いつもの光景だった。3人で話をしながらしばらく歩く。と遠くの方から大きな声で俺や雪希の名前を呼ぶ声が聞こえる。まあこんなことをするヤツなんてあいつくらいしかいないよな? そう思い前を見ると案の定、マシンガンが傘を片手にぶんぶん手を振っていた。
「おはようございますぅ、健二先輩。雪希ちゃん。早坂先輩」
「おはようだよぉ〜、さつきちゃ〜ん」
「おはよう、進藤さん」
 雪希と日和があいさつする。俺は考える、何かこいつにダメージを与えられて、いつものあのマシンガントークを減らすことは出来ないだろうかと…。延髄チョップは一応こいつも女の子? と言うことで俺の中で封印した。だから今は使えない。となると、いつものようにスルーして行くのがいいんだが…。雪希と日和の手前、そう言うこともちょっと出来そうにない。と、ふといいことを思いついた俺はこう言ってみた。
「ひゅ〜。相変わらずの可愛い子猫ちゃん。おはよう…」
 推理小説・片瀬健三郎シリーズの有名なくだりだ! 今さらこんなクサイ台詞、自分で言っても引く。現に雪希たちはドン引きしてるしな。ははははは、はぁ〜。笑うしかなかった。で? 言われたほうの進藤はどうなんだ? まあドン引きに引いて引き攣った笑い方をしてるんだろなぁ〜と思い、ふっ、と進藤の方を見ると、以外や以外、頬を赤らめているではないか?!
「先輩が、私のことを“可愛い子猫ちゃん”だなんて…。きゃっ!」
 い、いかん。頭がぼやけてきた。恍惚状態の進藤。一体この後どうしろと言うんだ? 雪希も日和も目が点になっている。俺もさっきから目が点だ。と、とりあえず恍惚状態の進藤を手に引き学校へと向かった。


 ギリギリで学校へ到着。未だにぽや〜っとしている進藤を雪希に渡し、教室へ向かう。向かう途中で日和が俺に話しかけてくる。
「驚いたねぇ〜。けんちゃん…。進藤さんがあんな台詞に弱いなんてねぇ〜?」
「ああ、あんなクサイ台詞にとろ〜んとなるヤツがまだいるとはな? 俺もびっくりした…」
 そんなことを話しながら教室に着く。着くと一番に目に付く巨大タケコプター、今日の主役、小野崎清香だ。思えばこいつとも長い付き合いだよな? いわゆる腐れ縁って言うやつだ。小学校からだったか? そう思いながら今日も日課に一声掛ける。
「よお、どうだ? 今日のアンテナの調子は?」
「うっさいわねー。言われなくても良好よ!! 日和、そんなバカの相手してるとバカが移るわよっ!!」
「わっ、わわわわわっ。やめてよ〜、二人とも〜」
 相変わらずのへっぽこ声で俺たちの仲裁に入る日和。が、ぽんこつにはこの状態は回避は不可能に近い。これを止められるのは麻美先輩か、マイシスターくらいだと俺は思う。にらみ合う俺と目の前にいるサテライトキャノン女。
「バカバカ言うんじゃねーっ!! このサテライトキャノン女!!」
「な、な、ななな何ですってーっ!!」
 清香との朝のやり取りはまあ、こんな調子だ。というかこれがないと朝が始まらない。他のやつも“夫婦喧嘩、犬も食わず”ってな感じで俺たちのやり取りを微笑ましそうに見つめている。そこには南山の野郎も…。まあ、最も俺の横でおろおろあたふたしているぽんこつさんだけは涙目で見てたけどな…。


「で、今日お前の誕生パーティーを開こうと思うんだけどよ?…。ダメか? いや、無理にとは言わん。お前の都合が良ければの話なんだが…」
 昼休み、雪希の弁当をかっ込みながらそう言う俺。日和も、“お誕生日会しようよぉ〜”といつもの声で言う。間延びした声でほんわか言う日和の声はどんなにツンツンしたヤツでも和むと俺は思う。これが俗に言う癒し系って言うやつなんだろうか? そう思い清香の方を見る。
「べ、別に無理とは言ってないじゃない。でも…、健二の家で? ま、まあ、あたしは構わないけど…。と言うよりちょっと嬉しいけど…。でも、雪希ちゃんに迷惑じゃない?」
 清香が俺に向かって言う。途中何か聞き取りにくいところがあったが、ぽっと顔を赤らめているので“嬉しい”とか言ってるんだろう…。一応こいつも女の子って言うことか。そう思うと顔がにやけてきた。途端に不機嫌そうな顔になる清香。
「な、なによっ! バカ健二! あ、あたしの顔、じろじろ見て…。何かついてるって言うの?」
「い、いや。そう言うわけじゃね〜んだけどよ…。ただ、お前の照れた顔は早々見れないって言うか、何て言うか……」
 そう言うと途端に耳まで真っ赤になる清香。恥ずかしいのか何なのか知らないが、ぷいっとそっぽを向いてしまった。俺の横では日和がさっきからにはには笑ってやがる。急に恥ずかしくなった俺。お前も何か言え! にはには笑ってる日和に向かいそう言うと途端に涙目になって…。
「うわぁぁぁぁぁぁ〜ん。どうしてわたしにとばっちりがくるのよぉ〜? わたしはただけんちゃんと清香ちゃんが仲良しなのを見てただけなのにぃ〜」
「お、大声で言うんじゃねえ!! このぽんこつ!!」
「またわたしのこと、ぽんこつって言ったよぉ〜。けんちゃんのバカァ〜。雪希ちゃんに言いつけてやるんだから〜。うわぁぁぁぁぁぁぁ〜ん」
 いつもどおりの会話。いつもどおりの声。そして…、いつもどおりの怒った顔。
「こらーっ! バカ健二〜っ! 日和に謝りなさいよ〜っ!!」
 逃げる俺の後を追いかけてくる幼馴染みと腐れ縁。これに小うるさい後輩とぽややんな先輩、優しい義妹がいるんだよな。俺の知ってる女の子が…。そう思いながら、腐れ縁のちびっ子から必死で逃げる俺がいるのだった。


「おい! 清香!! こんな高い物を金無しの俺に買わせる気か?」
「嘘おっしゃい! あんた、バイトでかなり儲けたって雪希ちゃんから聞いてるんだからね? さあどれがいいかしらね〜?」
 あの後、日和たちは雪希と一緒に家で料理。雪希のことだ、きっと美味しい料理を作ってるんだと思う。で、かく言う俺はこのリボンのわがままお姫様に連れられて買い物だ。はぁ〜、何でこんな目に…、とは思うものの……。こいつの笑顔を見てるとこっちまで微笑んでしまうから不思議だ。でもまあ、こんな日もあってもいいよな…。屈託のない笑顔で服を選ぶ清香を見ながらそう思った。
「じゃあ、これ。お願いね?」
「おい…。さっきの服と違うじゃねーか? これ…。こんなに安いのでいいのか?」
 そう聞く俺。”あまりに値段が違いすぎだぞ? それにこれ、俺が適当に選んだ安物のTシャツじゃねーか?” 終始はてな顔になりながらそう言う俺にうふふっと微笑みながら清香は言う。
「あたしがこれでいいって言ってるんだからこれでいいの! それとも何? あの高いのを買ってくれるって言うわけ?」
「冗談は止してくれ…」
 全く…。素直じゃねーんだから…。レジに向かう清香を見ながら心の中でため息を一つ。外は久しぶりの雨。今日は相合傘でもして帰るか…。そんなことを思いつつ今日の主役のちょっとわがままで寂しがりなお姫様を見る。にっこり微笑みながらこっちへ向かって駆けてくる。そんなお姫様、小野崎清香の今日は18歳の誕生日だ……。

END