進藤さんの夏風邪


「くしゅんっ! あ〜、風邪を引きました。先輩に言ったら絶対笑われるんでしょうねぇ〜」
 夏の太陽がギラギラ輝いて地面もアスファルトが溶け出そうかと言う今日8月14日、そんな今日は私のお誕生日です。しかし今年は暑い日が続いていたのかクーラーをかけっ放しにしてしまいまして。元々クーラーの得意でない私は寝冷えを起こしてしまったのか夏風邪を引いてしまいました。鼻水が垂れて来てしまいます。チーンと噛んでゴミ箱へポイっと投げました。お姉ちゃんは今年は何やら用事があることかで帰ってきませんし、お父さんもお母さんも田舎の法事で昨日から出かけていていません。普段ならここぞと言うことで荷物を纏めて先輩の家に押しかけ女房するのですが、今年はご覧の有様。昨夜あまりの暑さに水風呂に飛び込んでそのまま上がってナイスバディーをひけらかすように裸のまましばらくいてそのまま寝ちゃったのが原因なんでしょうか…。おまけに前述の通りクーラーの効いた部屋でつけっぱなしで寝ていたものですから余計ですよね? それもこれも暑いのが悪いんだ〜っと言って暴れようにも体のだるさからそう言う気にはなれませんし、体が言うことを聞きません。
 病院に行こうと思って外を見ると、陽炎がゆらゆら揺らめいています。入道雲ももくもく湧き立っているので帰りしなに絶対に夕立に遭って、私の最も苦手な雷に遭う可能性が大です。でもこのまま何もしなくて余計に悪くなったらそれこそ厄介ですので病院に行くしかない! そう思って言うことを聞かない体に鞭打って出かける準備をすることにしたわけなのですが、頭はフラフラするし体はだるいしで用意するのに普段なら5分ぐらいで済むところを30分もかかってようやく準備が終わりました。もうふうふう息が上がってますが、早く治さないと先輩にお祝いしてもらえない…と思ってふんぬぅ〜っと力を入れて家を出ます。陽の光がちょうど真上から西に傾きかけるような時刻、一番暑い盛りに出たものですので暑くて仕方がありません。ゆっくり歩いているとどこかのヨボヨボしているおじいさんに追い抜かれてしまいました。とりあえず休憩と自販機の前でスポーツ飲料を買って飲みます。ふと家のほうを見ると500メートルも離れていない場所じゃあないですか? ここ!! 時計を見ると普通ならもうとっくに病院についてる頃です。どんなに体が弱ってるんですか?! 私!! と暴れようにもこの暑さの中暴れたらそれこそ死んでしまいます。ふぅふぅげほげほ言いながらもまた歩き出す私がいるのでした。
 1時間ほど歩いたでしょうか、やっと病院に到着しました。普段なら5分少々で着くところが1時間もかかっているわけで。夏風邪は怖いと思います。受診証と保険証を出して座って待ちます。お盆休みと言うこともあって院内は閑散としてますね。きょろきょろと見回していると、“進藤さま〜” と呼ぶ声が…。“は〜い” と返事をして診察室に入ったところが…。


「お前は風邪かよ。まああながち諺? って言うものも間違いじゃあなかったわけだ…。“夏風邪はバカが引く” って言う感じか」
 そう言ってワハハと笑う先輩。相変わらず失礼です。“じゃあ先輩は何なんですか?” と言うと、“俺? 俺は軽い熱中症かな? 昨日1日墓参りとかで表にいたもんだからちょっとな…。今朝は朝から家の周りの草取りしてたもんだからか頭がクラクラしてこりゃいかんと思って病院に来て点滴打ってる途中でお前が入って来るんだもんなぁ〜” そう言ってしきりに夏風邪のことを言ってくる先輩。“でも、そうかそうか。俺の考えてたことは当たってたのか〜” と私の肩をパンパン叩きながら失礼すぎることを言う先輩に腹が立った私。何か仕返ししないと気が収まりません!! そう思って、ふと私のお誕生日のことを思い出して訊いてみるところが、“今日? はて何だったっけかなぁ〜” なんて言いながらとぼけ顔。その顔に余計に腹が立ちます!! 先輩の腕にはめられた腕時計をむんずと掴み、日付けのところを指さしながら前にテレビドラマでやっていた女の子のように怖い目をしながら唇をぷるぷる言わせて先輩の顔を見遣るものの…、気にも留めずに、“何だぁ〜、今日なんかあったか? って言うかちょっと俺ん家に付き合え” と逆にむんずと腕を掴まれて連れて行かされます。抵抗しようとも考えましたが、病身の身なので無茶は出来ません。代わりにぶっす〜っとした顔で先輩の顔を睨みつけながら、手を引かれて歩き続ける私。10分くらい歩き続けて勝手知ったる先輩の家、到着です。もうこの際だから思いっきり甘えてやりますっ! そう思ってぶすっとした顔のまま玄関の扉を開けると…。


「うわぁぁぁ〜ん。先輩ってば何にも言ってくれないし絶対忘れてるって思ってたんだも〜ん。うわぁぁぁぁ〜ん」
 と鼻水と涙とを垂れ流しながら進藤はまるで日和のような物言いでこう言う。あのな…、わざわざ14日のところに“進藤さつき誕生日、忘れたら私のことを強制的にお嫁さんにしてもらいますからねっ?!” って一種の脅迫の何物でもない文言を書かれて忘れろって言うほうが土台無理な話だと思うわけだが、まあ書いたのは今年に入ってすぐの頃だから書いた本人が忘れてたと言うことなんだろう。雪希は、“進藤さんのお誕生日のことをお兄ちゃんが忘れるはずがないよ〜” と言ってるし彼女である麻美も同じようなことを言っている。冬佳先生はどうしても抜けられない用事があるとかで今回はパスだ。その代わりにプレゼントを用意しておいてくれていたしらしく雪希に預けておいたとか。日和と清香はもう一杯ひっかけてるのか顔がほんのり赤いわけで…。
 まあ今日も暑かったなぁ〜っと未だに熱中症気味な体を椅子に預ける俺。昨日は親父に頼まれて墓参りと墓の掃除に1日使い、今日は今日で朝から庭の草取りとかに追われて昼間にふらふらしてマイシスターから、“病院に行ったほうがいいよ?” と言われてどうせ進藤を呼びに行くついでだしな? それにあいつと一緒に帰ると余計な体力を使って後々で健康に響くかもしれん…と考えて点滴を打ちに行ったわけだが、進藤が来るなんて思いもせんかった。まあ呼びに行こうと思っていたので向こうから来てくれたことにはラッキーと言うこと以外言うことはないわけだ。如何せんこいつの顔を見るとイジワルをしたくなる性分なものなので、“夏風邪はバカが引く” なんて言うことを言ってしまうわけだが…。もうそれも過去のことみたいにはしゃぐ後輩の姿を後ろから眺めて、現金なやつだなぁ〜っと苦笑いを浮かべる今日8月14日、うるさ型な俺の後輩・進藤さつきの誕生日だ。

END

おまけ

「くっそ〜。進藤のやつめぇ〜。俺に風邪をうつしていきやがって…。っくしゅん」
 勉強会を冠した進藤の誕生日会も滞りなく終わってその翌日、朝起きて何か体がふらふらするなぁ〜っと思っているとマイシスターが、“お兄ちゃん、顔が赤いよ? どうしたの?” と言われて俺のデコに手を持ってきて熱を測られるわけだが、“熱いよ! お兄ちゃん” と言われて速攻でベッドに寝かされる俺がいたわけだ。まあ要は進藤に風邪をうつされたらしい。そういや俺の隣りで赤い顔をして時々咳をゴホゴホやってたなぁ〜なんて思って完全にうつされたんだなぁ〜っと思う。当の進藤派と言うと、“私にあんなことを言うから罰が当たったんですよ〜だ” と言ってあかんべーっと舌を出してくる始末で。もう一度うつし直してやる〜っとばかりにゴホゴホ咳をするんだが…。俺の魂胆が分かっていたのか、すちゃっとマスクをする進藤の狡猾さが半端ねぇ〜っと思わされたやかましいがなぜか憎めない後輩・進藤さつきの誕生日から1日経った午後である。ちなみに病院にはうつさせた本人がついてくるらしいとのことだが、こいつの場合、“でっかい注射でも打ってやってくださいっ!” だの、“お薬多めで苦いやつをたくさん出してください!!” だのと言いまくる可能性が高いわけで…。“俺は雪希と一緒に行きたいんだ!” と言うと急にしゅんとなりやがるから手に負えねぇ〜。とにかく進藤にはいつまでも元気でいてもらわなきゃならんなぁ〜っ(まあ元気すぎても困るわけだが…)と思う今である。がくり…。

TRUE END?