マイシスター、拗ねる


「…お兄ちゃんのバカ……」
 実に恨みがましい目で義妹は俺の顔をじ〜っと睨んでいる。今日5月7日は俺の血の繋がらない妹・雪希の誕生日なわけで…。でも俺はそのことをすっかり忘れていて、今、こうしてぷぅ〜っと頬を膨らまして義妹は拗ねている。人間は忘れる生き物なんだ! とは言いたい。だがいつもささやかながら誕生日会などをしてもらってきた雪希にとっては当然今年もやってくれるんだろうと言う考えがあったかもしれない。でも今年は俺のふとした物忘れからそう言うことが出来ない状態へと追い込まれた。
 人に罪を着せるのはどうかと思うが敢えて言いたい。1日前までは覚えていたんだ。と言うか、忘れるはずもない。じゃあ何で忘れたのかと言うと? そうあれは1週間前……。


 いつも通りの朝だった。いつものように義妹のうまい朝飯を食べ、いつも通りに学校へ向かう道すがらぽんこつと巨大パラボナアンテナとマシンガンと優しい先輩に出会う。何やらかやらわいわいがやがやといつものようにご登校……、のはずだったのだが、俺の天敵であるタケコプター女こと小野崎清香に、“そういやこの前遊園地に行こうって約束したわよね? どう? この連休中にでも行かない?” と言われた。俺はこんなぐうたらで自堕落な生活を送っているので、そう言う申し出には素直に聞くのではあるんだが、問題なことが一つだけある。それは、マイシスター・雪希だ。真面目な性格の我が義妹は、部活なるものをしていてちょうど5月の連休に大会があるんだとか…。普段から真面目にやっている雪希を見ていて俺には到底無理だなと思うくらい、部活に打ち込んでいる。そんな義妹を前に“行く”とは素直に言えないわけで…。
「あっ、私のことだったら気にしないでいいよ? お兄ちゃん」
 こっちの状況を理解したのかいつもの優しい表情でこう言うマイシスター。でもなぁ〜、俺だけ遊ぶっていうのも気が引ける…。と思っていると、いつものぽんこつ声で日和が言った。
「あ〜っ、そっかぁ〜。雪希ちゃん、7日お誕生日だったんだねぇ〜」
「うん、そうだよ? 日和お姉ちゃん」
 とにこにこ顔の雪希。この歳になってもと思うかもしれないが、うちは一応ではあるがささやかながらケーキなどを買ってきてパーティーなどをしている。がこれは俺と雪希だけの秘密だ。友達以上の日和にさえこのことは秘密にしてある。“どうせなら連休開けはどうだ? そのほうが雪希も参加出来ていいだろ?” と俺。清香の顔を見ると残念そうにこう言う。
「いやね? この前馴染みの新聞屋さんに遊園地のフリーパスのチケット貰ったんだけどね? そのチケットがちょうど6日までなの…。健二と雪希ちゃんも誘って連休最後の日を楽しもうかな〜って思ってたんだけど…。無理そうね?」
「ああ、そう言うこった。悪いが俺はキャンセルってことで…」
 そう言う俺。進藤が、“えーっ? 先輩、行きましょうよ〜。どうせ家でゴロゴロしてるだけなんだし、それにこ〜んな可愛い妹もついてくるんですよ?” と自分のほうを指差しながらそんなことを言っては手足をばたばたさせていたが、俺はお前みたいな妹は欲しくないわいっ! と思う。雪希はと見ると、
「お兄ちゃん、進藤さんもああ言ってるし、行って来て? 私はいつも通りでいいから…」
 といつものにっこり笑顔で言う。雪希がそこまで言うのならまあいいか…。そう思った俺は一応OKのサインを出す。5月6日、GW最後の日。約束通り俺は雪希を除くいつものメンバーで、遊園地へと赴いた。いろいろなアトラクションを回り楽しんだ。定番のお化け屋敷ではみんなが俺にしがみつくものだから歩くに歩けず、最後はひいひい言いながら出てきたもんだ。とにもかくにもその日は遊びすぎて帰りが9時過ぎになっていた。帰ってみると晩飯を作って待っていたのか雪希はちょっとだけ膨れていた。晩飯はもう遊園地内のレストランで食ってきた俺ではあったのだが、義妹の折角作った料理を無碍に断ることも出来ず我慢して食べた。“翌日は大変だろうなぁ〜” と思いつつ……。でも何か一つ引っかかるものがあるんだよなぁ〜。何だっけか? う〜んと考えてみるが思い出せん…。まあ、どうせ日和がしょうもないとこでも言ったんだろうと思いつついつもの晩飯を食う俺がいるのだった。


 ……で、今現在。昨日遊びすぎて雪希の誕生日のことをすっかり忘れてしまっていた俺は雪希にこうして拗ねられているわけで…。ケーキ屋はもう…閉まってるしなぁ〜。はぁ〜。昨日の朝までは覚えていたんだ。うん。昨日の朝までは…。とマイシスターの顔を見ると…。す、拗ねてるよ〜。頬をぷぅ〜って膨らまして更に涙目になりながら…。ああっ! 困った困った。ってどこからかぽんこつな声とともに魔法遣いが出てきて“お困りですか?” って出てくるアニメを日和の家で見たことがあるな。全く、どこまで行ってもお子ちゃまなヤツだぜ…。ってこんな余計なことを考えてる暇なんてねーぞ! 俺!!
 しかしどうするんだ? この状況…。時間はもう9時を越してるし。って言うか昨日のうちに気づけよ、俺! …もうしょうがねえ…。土下座でも何でもしてる謝るしかねぇよなぁ〜。もとはと言えば俺が悪いんだしよ? そう思って頬を子供のように膨らまして拗ねている義妹の前、土下座して謝る俺。でも…、
「お兄ちゃん、いつも私の誕生日のこと覚えててくれててくれてたのにさ…。もう知らないっ!」
 ぷいっとそっぽを向かれてしまう、いつもは素直で優しいマイシスターなんだけどな? 一端拗ねるとこうなってしまうわけで…。ははは…、はぁ〜。仕方ねえ。奥の手を出すか…。ってこれはかなりこっ恥ずかしいんだけどな?


「えへへっ、何年ぶりかな? 一緒にお布団並べて寝るのって…」
「さあな? 俺にも詳しくは分からん。って今日だけだからな? こうやって寝るのは…」
 応接室に二つの布団。スタンドの光の横には少し気恥ずかしそうな義妹の顔がある。“じゃあ電気消すぞ?” そう言うとスタンドの電気を消した。真っ暗になる。“お兄ちゃん、もう寝た?” と雪希の声。“いや…” と俺は単簡に答える。と…、
「手、繋いでてほしいな…。お兄ちゃんの夢が見られるように…」
 と、暗闇の中がさごそと布団が動く音。しょうがねぇなーと俺も手を伸ばす。しばらくそうしていると“すぅ〜、すぅ〜” と義妹の寝息が聞こえてきた。と同時に寝言も聞こえてくる。“お兄ちゃん、大好きだよ…” ってな? まあよくもこんなこっ恥ずかしいことが言えたもんだとは思ったが夢の中でも俺のことを思ってくれてるんだと思うと妙に嬉しく思えた。そんな義妹に…。
「今日は忘れちまっててごめんな? それと誕生日おめでとう…」
 と静かに言う今日5月7日は優しい俺のマイシスター・片瀬雪希の17回目の誕生日だ…。

END