雷雨と怪談の夜に…
「きょ、今日が…。今日が私の誕生日だって前から話してたじゃないですかっ!!」
「だーかーらー、悪かったって謝ってるだろ?」
今日8月14日は雪希の友達で俺の一応ではあるが恋人の進藤さつきの誕生日なわけで…。でも、俺は進藤が遊びにくるまですっかり忘れていて、今ぷぅ〜っと頬を膨らまして進藤に睨まれている。
「だいたい先輩は私のことを彼女だなんて思ってないでしょ!? もう! 男としてのデリカシーって言うものが先輩には欠けてますっ! 全く……。ぶつぶつぶつ…」
さっきから謝ってるって言うのにこの調子…。いったいどうせいと言うんだ?! 今からじゃ遠出は無理っぽいし、かと言って近場で済まそうものならこの口から先に生まれたようなお嬢様になんて言われるか…。頼みの綱の我が妹、雪希は今日は日和の家にお泊りに行っていてここにはいない。あああっ、何もこんな時に限って…と言おうとしても雪希はいないし…。
「えっ? 今日は私、先輩と二人っきりなんですかっ?!」
今の今まで頬をフグのように膨らませて俺の顔をじ〜っと見つめていた進藤は驚いた顔になると、今度は何だか体をもじもじし始める。あ、あのな進藤。俺は知らなかったんだぞ? 雪希が今朝、朝飯食ってる時に“今日日和ちゃんちにお泊りするからね?”っていきなり言ってきたから…。って聞いちゃいねぇ〜。頬を真っ赤っかにした進藤はまるで極上の微笑み? で俺の顔を見つめて座っていた…。
「先輩と二人っきり……。ふふ、ふふふふ」
怪しく笑う進藤。背筋が凍りついたことは言うまでもない。でもこんなやかましいヤツでも、幽霊とか怪談とかは苦手らしい。どれくらい苦手かっていうことは知らないが、まあ、この女のことだ。実は全然平気でした〜って言うことも十分ありうる。“お前でも怖いものがあるんだな” からかい半分で俺がそう言うと、“わ、わ、私にだって怖いものはあるんですっ! 失礼しちゃいますっ! 先輩は…” そう言ってぶりぶり怒り出す進藤。以外に事実かも知れんな…、まあこいつも一応は女の子ってことかね?…。俺はそう思った。
ピッとテレビの電源を入れる俺。チャンネルを変えていくと怪奇特集の文字が目に入る。進藤はと言うとしばらくあっちの世界に行って帰ってこないみたいだ。まあいいだろう。で? 怪奇特集を見ていると正気に戻った進藤が、“な、な、何なんですかっ? 先輩。私が今日一人だからってこんなものをわざわざ見せて! ひ、酷い。酷いですぅ!!” とか、“もう帰れません。というか怖いから帰りたくないですっ!” とか言い出して駄々をこね始める。この女ぁ〜っとは思ったが聞くところによると進藤は今日から明後日まで一人らしい。親父さんたちは昨日から旅行で留守なんだとさ…。ははは…。はぁ〜。だったらこんなもの見るなよ! …と声を大にして言いたいのだがこの番組を見だしたのは何を隠そうこの俺だった。後悔先に立たずとは言ったもの、はぁ〜っと今日何度目か分からないため息を吐く。ここで進藤を無理矢理家に帰してもいいんだが、もし進藤がそれを苦に自殺して、怨霊となって俺を呪うことになるのはもっと嫌なんでな。はぁ〜、しょうがねぇ〜。ため息を一つつくと席を立つ。こいつも何だかんだ言って女だからな。男と寝るなんて嫌だろうし…。それに変なうわさを立てられるとこっちがかなわん。そう思って日和の家まで連れて行こうと思ったんだが……。
「ど、どこに連れて行くんです? 先輩? い、嫌ですーっ! 私はここにいたいですぅ!!」
泣き叫びながら机をがしっと掴んでいる進藤。はは、ははは。てこでも動かねぇ〜…。しょうがねぇ…。いつもの延髄チョップで…、とは思ったがさすがに今日は可哀想な気がするのでやめにした。はぁ〜。こうなったら雪希たちにでも来てもらうか…。そう思って電話のところまで行こうとすると、ピカッと閃光。続いてバリバリバリバリ…。大地が震えるような音。とともに今までついていた電気がいっせいに消える。雨がどぉーっと降ってくる。あちこちの家から“うおっ”とか、“きゃあ”とか聞こえてくる。と家の中から、“う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ〜ん” とぽんこつな声が聞こえてきた。一瞬日和か? とも思ったが日和はこんな声じゃねーし……。と少し考えて気がついた。後ろを振り返ると進藤がぶるぶる震えながら部屋の隅っこで頭を座布団で隠している姿が見えた。
「なあ、進藤…。お前が雷とか心霊とかが苦手だなんて、何か意外だな?」
「わ、私にだって怖いものくらいあります! 罰です先輩!! 今夜一晩、ず〜っと手を繋いでいてくださいよっ! 放したりなんかしたら許しませんからね?」
しばらくして雷雲はどこかに行って今は何事もなかったように晴れている。そんな中、応接室に布団を並べて進藤と俺は手を繋いだまま寝ていた。さっきのことを思い出すと、思わず笑みがこぼれる。雪希に話したら何て言うだろう。そう思いながらふと手を繋いだ隣を見てみると、ぷぅ〜っとはち切れんばかりに頬を膨らまして、しかも涙目の上目遣いで俺の顔を睨むお嬢様のお姿が…。
お、お、怒ってるよ〜。唇をぷるぷると震わせながら俺の顔をなおも睨みつけるお嬢様。その顔に思わず呪われるんじゃないだろうかと思った今日8月14日、進藤さつきの誕生日だった……。
おわり