粉雪の輪舞曲


 今日1月14日は俺の彼女・石川冬佳の誕生日だ。冬佳と知り合ったのはかれこれ5年前になる。一番最初の出会いは…。そうあれは、傘のことだったな、と思い出す。思い出してみれば些細なことだったなぁ〜っと自分自身恥ずかしくなることばかりだ。家庭教師に冬佳が来たときには正直びっくりしたっけ。でもそんな冬佳にもつらい過去があったとは当時は思う由もなく、つっけんどんとした態度を取っていたもんだ。まあ今だから分かるんだがあの当時は自分でも悪かったなぁっと反省している。
 とあれこれ考えてる暇はなかったんだった!! と一年バイトやそこらで貯めて買ったぽんこつ車に乗る。走行距離10万キロメートルでエアコンつき、オプションでCDドライブをつけてやった俺の愛車。これで今日から1泊2日の小旅行に出かけようと初詣のときに提案した。冬佳は大学4回生ではあるがもう就職の内定はもらっているので問題はない。むしろ俺のほうが大変なわけだが、その時はその時で何とかなるだろうと思っている。進藤に言わせると、“究極の楽天家ですね〜” ということらしいが、俺にしてみればお前のほうがよっぽど楽天家じゃねーのか? と思う。まあ今はどうでもいい話なわけだが…。
 ブルルルル〜ンという音とともに家を出る。ちなみに雪希は進藤に付き合わされて進藤の家にお泊りに行っていて昨日から留守だ。あっと、冬佳にどこへ行くのかまだ聞いてねーや。そう思って車を近くの空き地に止めて、携帯に電話をする。トゥルルルル、トゥルルルルと呼び出し音が耳に届き、ピッという音ともに彼女の声が聞こえてきた。
「あっ、もしもし、俺だけど?」
「健二君? 今どこ? もうすぐ着くんだったらちょっと頼みたいことがあるんだけど」
「あっ、ああ。別にいいぜ? 何でも頼んでくれ。ってちょっと待て。なあ冬佳、一体全体どこに行くんだ?」
 そう言うと、“来れば分かるわよ? うふふっ” と意味深な言葉を発する彼女。結局どこへ行くのか教えてくれなかった。用件はと言うと、ちょっとした買い物だったので、近くのスーパーによって買い物をする。だけど…、うーん。あの意味深な発言がどうも気になるなぁ〜。それに後ろがわいわいがやがやしてたし。誰か来てるのか? と思いつつも早々に買い物を済ませて冬佳の家へと向かう俺がいるのだった。


「なあ、冬佳。雪希や麻美先輩やぽんこつはともかく、何で清香やおまけの進藤までついてくるんだ?」
「お、おまけって! おまけってどういう意味ですか? 先輩!!」
「うわぁぁ〜ん。けんちゃんがわたしのこと、また“ぽんこつ”って言ったよ〜。うわぁぁぁぁ〜ん」
 麻美先輩が、“めっ!” と俺の顔を少々怒った顔で言う。清香は、“バカ健二が先輩に怒られた〜” と泣いている日和の肩を持ってさも楽しそう言っている。多分日和を慰めるためだろう。…にしても本当の頼まれ事。他でもないマイシスターにぽんこつ日和に麻美先輩、パラボナアンテナ女こと小野崎清香におまけのマシンガン女も連れていけと言うことか…。まあマイシスターや先輩や日和はまだ許そう。しかし何で清香や進藤まで一緒に連れていかにゃならんのだ? とは思うものの、もう後部座席にギュウギュウ詰めに乗っているため今更、“降りろ” なんて言えるはずもなく。もし言って進藤に俺のあることないことぜ〜んぶ言われてこのメンバーを含むご近所から白い目で見られることはだいたい予想はつくからな? とほほ…。そう思いつつ今日の主役でナビゲーション役な冬佳に、
「で? 一体どこに行くんだ? 行き先を教えてくれ」
「その前に健二君。この車、タイヤチェーンとかは付いてるの?」
 た、タイヤチェーン? “そんなものは付いてねーよ” と言いかけて、この前雪希と何気なしにドライブに行ったときに買ったやつが入っていることを思い出す。って言うかマイシスター、この計画前々から知ってたのか。とミラー越しに後ろを見れば、イタズラっぽく微笑んでいた。は、ハメられた…。とは思うもののまあこれはこれでいいかな? と思いつつナビゲーションの指示に従う俺がいるのだった。


「は、はひぃ〜。やっと到着だ〜。ふぅ〜」
 キキキッと車が止まる。初めての雪道なのか彼は相当注意して走ってきたみたいで、着いたと思ったらその場でぐったりしている。しかし、きれいだ。辺りを見回してみても雪、雪、雪。一面銀と言うか真っ白な世界だった。車から降りてみるとなお一層きれいな光景が広がっている。途中はしゃぎすぎたのか雪希さんたちはスースーと気持ちのいい寝息を立てて眠ってしまっていた。ガチャっと車の戸を開けて外へ出ると、車内のエアコンの暖かい空気から一気に冷たい空気へと変わる。ちょっと火照った体には申し分ない。立ち上る湯煙とともに温泉独特の硫黄の匂いもしてくる。バタンと車のドアが閉まる音がしてその方向を見ると、彼が私のコートを持って出て来ていた。
「冬佳、そんなところで薄着のままだと風邪引くぞ? う〜っ、寒い」
 そう言って私の横の立つと持ってきたコートを肩にかけてくれる。昔のつらい出来事から人を信じられなくなった私にもう一度信じる勇気をくれた彼。“うん、ありがとう” そう言ってコートを肩にかけてもらう。“ありがとう” 心の中から出た言葉。建前じゃない本当の言葉。その一言さえ昔の自分からは想像できない言葉だ。
「ご苦労様。健二君。さあ、雪希さんたちも起こしてチェックインしちゃいましょう?」
「あっ、ああ、そうだな。こう寒くっちゃ何も出来やしないからな?」
 そう言い合うと、にっこり微笑みながら彼の顔を見る私。彼も嬉しそうに、本当に嬉しそうに微笑んでくれる。その顔を見て、今日何度目か分からない、“ありがとう” を心の中で言う今日1月14日、私の22歳の誕生日。

END