雪希ちゃん、ツンツンする
現在5月7日午後9時半を少し回った辺り、私は部屋の隅っこで体育座りをして上目遣いにとある一方を見ながら拗ねていた。その一方にいる人は私のお兄ちゃん。お兄ちゃんと言っても血は繋がってない所謂義理の兄妹となるわけなんだけど私にとっては頼りがいがあって優しくて尊敬できる人だ。なのに何で今私がこうやって半べそをかきつつ拗ねているのかと言うことになるんだけど…、それは今日のお昼の出来事が原因だったってわけで…。
朝、いつも通りお兄ちゃんを起こして、朝ごはんを食べる私。お兄ちゃんの“おかわり” と言う声にうふふと微笑んでご飯をよそう。お味噌汁を飲みながら、“雪希も今日で17歳か…、早いもんだよなぁ〜” とお兄ちゃんが感慨深げにこう言う。“そうだねぇ〜” とよそったご飯をお兄ちゃんに渡しながらそう言う。実のところわたしはお兄ちゃんとは血は繋がっていない。私の本当のお父さんたちは私がまだ小さかった頃に私だけを残して事故で他界しちゃって親戚の遠縁にあたるこの家に預けられた。私はどういう事故だったかは知らないし聞くつもりもない。だけど私を産んでくれたことにはすごくすごく感謝している。お兄ちゃんとはこの家で出会ったっけ。この家に来て間もない頃はいっぱいイジワルとかイタズラとかもされて、いつも泣いていた私だったんだけど、だんだんとお兄ちゃんとも打ち解けて来て、いつしか仲良し兄妹なんて呼ばれることが多くなった。正直恥ずかしい気持ちもあるんだけどそれにも増して嬉しい気持ちのほうが強い私はにっこりしちゃうわけだけど…、お兄ちゃんは逆みたいで、進藤さんなんかにそう言われていつも延髄チョップをしてるんだけどね?
「あの〜、雪希さん。俺のご飯はどこでせうか?」
と、今だ。お腹を空かせているんだろうお兄ちゃんがそう言う。私は無言でびしっと冷蔵庫を指さしてお兄ちゃんの顔を涙目の上目遣いに見つめる。ガチャッと冷蔵庫を開ける音。そうして、“あの〜、材料だけしかないんですけど…” とお兄ちゃんはそう訊ねてくる。それはそうだ。だって材料だけしかお姉ちゃん用意してないんだから。と私のお腹の虫もぐぅ〜っとなる。“じゃあ作るから座って待ってて…” と上目遣いにお兄ちゃんのほうを見つめたまま簡単に料理をする私がいたんだけど…。
俺は今、蛇に睨まれた蛙のような気分になっていた。まあ勉強に通っている図書館からの帰りしな今日は雪希の誕生日じゃないかと思って、誕生日ケーキを買おうと思ってケーキ屋へと足を向けた道すがら、20代くらいのスタイル抜群のお姉さんに道を聞かれて教えていたんだが、マイシスターはそれを一部始終見ていたようだ。と言うことはあの豊満な胸を体に押し付けられてデレッデレな表情も見られていたことになるのかぁ〜。あは、あは、あはははは、はぁ〜…。っと今はため息しか出ないわけで。せっかく今日は2人っきりなのにな…といつものぽんこつ居候のことを考える。今日からか…。大学受験のために悪友であるデカリボンな清香ん家で勉強会があるらしく今朝早くに出かけていったのは…。“じゃあお兄ちゃん、今日は雪希ちゃんのお誕生日なんだから雪希ちゃんのこと頼むよ?” と朝に日和に言われたっけか? お姉さんぶりやがって! とは思うがこういう時は非常に役に立っているので今何でいないんだ? と思うのだが。まあ帰ってくるのは明後日なんだそうだが、俺は、“日和〜、カムバーック!” とテレパシーでもあったら送りたい気分だ。うちの食事はほとんど日和が作っているので雪希が台所に立つって言うのはなかなか新鮮な気分なんだが、雪希にしてみれば、“怒ってる相手の料理をなんで私が作らないといけないのっ?!” と言う心境なんだろう。そう思いながら淡々と料理をする雪希に悪い気がして俺も一緒に手伝おうと思っていたのだが時すでに遅し…。もう料理は出来てしまっていたわけで…。って言うか昨日の夕方に日和が何やら作ってたな? 真空パックで冷蔵庫の中に入れてたっけか。って言うかマイシスター! 料理してねーじゃねーかよ?! などと思いつついつもの料理が並ぶ食卓を前に買ってきたケーキの箱を置く俺。マイシスターの顔がパァ〜っと華やいだようになったかと思ったのもつかの間、またぶすっとした仏頂面に戻る。これでもダメなのか? と思い最後の手段に移ろうかとも考えたんだが、やっぱり驚かすにはまだまだだろうと思いこのぷぅ〜っとした顔を見ながら飯を食う。
「今日の料理は格別に美味いよなぁ〜」
と俺が言っても、“これ全部、日和お姉ちゃんが作っておいたものだからね? お兄ちゃんのお口に合うんでしょ? ふんっ! …そ、そりゃ私もこれくらい上手に出来ればお兄ちゃんに喜んでもらえるんだろうけど…” と言われてしまう。普段素直で優しいマイシスターなだけにこう言う場合は極度にツンツンな感じになってしまうわけで…って最後のほうが何かもごもご聞こえんかったわけだが、まあそんなことはどうでもいい。とばかりにケーキを箱から取り出す俺。いかにも美味そうなケーキがどんっ! と出てくる。あとは雪希にどうやって喜んでもらうかだが、まあこのいかにもご機嫌ナナメですっ! って言うような顔をしているのでこれは相当時間がかかりそうだな? と思っていると、ぷぅ〜っとした顔のまま俺のところまでやってくるマイシスター。い、いったい何を? と考える間もなくちょこんと俺の膝に座って来るではないか? な、ななな、何ですかこれ? と言うと、“私がどこでケーキを食べようといいじゃない!” とぷぅ〜っと頬を膨らませてそんなことを言われる。怒ってるよ…、相当に怒ってるよこれ…、と言うか道を聞かれてたまたまそう言うことになっただけなのになぁ〜。悲しいなぁ〜、悲しいったら悲しいなぁ〜、しくしくしく…、と心の中で滂沱の涙を流す俺がいたわけだが…。“お兄ちゃんは何も悲しくなんてないじゃない。むしろ嬉しいほうなんじゃないの? 私や日和お姉ちゃんよりはるかに大きい、麻美先輩くらいのモノに抱きつかれてえへえへ笑ってるお兄ちゃんなんて不潔だよっ!! ぶぅ〜…” と心の中でも読んだのか、はたまた俺が無意識に言ってしまったのかは知らんが、もろにそう言われてぐうの音も出なかった。さらにはこんな蛇の生殺し状態な要求もしてくるわけで…。
「お兄ちゃんはこれからしばらく私と日和お姉ちゃんと一緒に寝ること!! 寝てくれなきゃ進藤さんや麻美先輩なんかに言っちゃうんだからねっ?! 分かった? お兄ちゃん! と、取りあえず今日は日和お姉ちゃんがいないから私と一緒に寝るんだからっ! むぅ〜っ…」
と…。これはもう逃げられん。そう思って失意前屈型になって心の中で滂沱の涙を流しつつこくっと頷く俺。ふと雪希の顔を見る。マイシスターの勝ち誇った笑みにデコピンの一発でもお見舞いしてやりたかったわけだが、そんなことをするとさらに過激な要求をしてきそうで何だか怖い気がする。と言うか今まで物静かで儚げなイメージしかなかった雪希にこんな大胆な一面があったなんてな? と思うとこれから俄かに厄介ごとが多くなりそうだな? と思う今日5月7日は俺の好きなマイシスター・片瀬雪希の17歳の誕生日だ。ちなみに付け加えるとその2日後に日和が帰ってきて、雪希に聞いたのか俺の昼飯は白飯一択になったことは言う間でもなく、晩は晩で2人から抱き枕替わりにされてぽにゅぽにゅした感触が体のあちこちに当たって毎日鉄錆の匂いと格闘中で寝られない。朝は朝であ〜ん攻撃。晩も然り…。と言う散々な? 日々が続いている…。だから寝不足だ。進藤とかには、“雪希ちゃんとあ〜んなことやこ〜んなことを毎夜毎夜やってるんじゃありませんよね?” と実に疑り深い目で見られる。デカリボンの健康優良児・清香にも同じようなことを言われて、被害を被ってるのはむしろ俺のほうなんだ!! と言いたいのだが…。まあ進藤や麻美先輩には言っていないのかまだマシンガンと最終兵器の “めっ!” は出ていないがいつ出るか恐ろしくてたまらない日々を送っている…。最早、嫌いなはずの学校が安住の地になっているわけだが、日和がいつポロッと口を滑らせるかと思うと戦々恐々と言う心境な雪希の誕生日から4日後の午前の古文の授業中のことだ。がくり…。
END