冬佳先生、ダイエットする?
突然ではあるんだけど、太ってしまった。体重計に何気なく乗って、びっくり仰天してしまったわけだけど、ベスト体重より3kgもオーバーしてしまっていた。下着姿で鏡越しに見る感じではそれほど太ったと言う感じには見えないのだけど、見えない部分にお肉がついてしまったんだわ…と思った。思えばお正月にお餅を5kgほど購入しておいたのにそれを3日で食べてしまって4日の日に近くのスーパーが開店になってすぐにお餅を仕入れてしまったのが原因と言ってはそうなのだろうけど…。とにかく今は炬燵でのんびりみかんと言う場合じゃない! と思い朝夕のランニングに勤しんでいるっていうわけで…。
まあなぜ私をそうさせるのかについていろいろ考えるんだけど、主原因は彼の存在かな? なんて思う。昔、父に裏切られたショックからか他人を信じられなくなっていた私を元に戻してくれた彼。その彼のプラス思考の部分がだんだんと私にもうつってきたんだと思う。別に変な意味じゃなくおおよそそんな感じなのだろう。とにかくジャージに着替えて走ろうと思って服のチャックを持ち上げようとするものの、全然持ち上がらない。何で? 昨年末のころには持ち上がっていたのに? と目が点になった。それでも何とか持ち上げて靴を履いて颯爽と表へ…と思ったらすごく寒い。冬生まれだけど寒いのは苦手な私は、こう言う日は家でゴロゴロと過ごすのが一番だと思うわけだけど、後で取り返しのつかないことになるのはもっと嫌! と思い直し一念発起玄関を飛び出した。
吐く息はものすごく白い。彼のお友達で幼馴染みの早坂さんがよく“冷凍こうせ〜ん、はぁ〜…” ってやってるのを聞いて子供っぽい人ね? とちょっとバカにしてたんだけど、この息の白さを見ると誰しもがやってみたくなるんじゃないかしら…と思う。きょろきょろ辺りに誰もいないのを確認して私もちょっとやってみたらすごく面白かった。これからはちょくちょくやってみようかな? なんて思った。まだ朝日も出ていない時間に街中をこうやって走るのって何だか新鮮な気分…、今度彼も一緒に誘っちゃおうかしら…。まあ絶対嫌だって言ってくるのは分かってるけどね? でもこんなに新鮮なのは普段こう言うこととは無縁だったからかしらね? と思って走る。街中をぐるり1周して帰ってくる時には1時間ばかり悠に越えていた。
これを今朝まで続けていよいよ体重計と言う悪魔との戦いになる。まあこれだけ運動したんだから痩せているのは明白だろう。そう思い意気揚々という気分で体重計に乗る私。と、んんっ? と一瞬目を疑った。何だか目盛りが右に傾いているような…。い、いやいやそんなことはない。と一端体重計から降りてもう一度乗ってみるものの、結果は同じ…。あっ、そうか! 服がいけないんだ。服のせいで何キロか重くなるって言うし…。服を脱いでもう一度再チャレンジしてみるものの、針は無情にも全くぶれていない。…下着に重さがかかってるんだ。と思いブラのホックを外すところでふるふると首を横に振った。いい加減現実を見よう。と思いもう一度体重計を見る私。やっぱりこの間量った時より右にぶれていた。
「で、何にも食べずにいたらこうなったって言うことか?」
呆れてものが言えないぜ…。全く。雪希や日和たちもそうだが女っていうものは体重を気にするんだから。俺が来なけりゃ餓死してるところだったろうな…。痩せてると嬉しがったりその逆に太ってたりすると今の冬佳みたく落ち込んだり。女っていうものはいつもこうだ。まあきれいに見られたいって言う気持ちは分からなくはないんだが、極端すぎるだろ?! とも思うわけで…。これじゃあ誕生日も何もあったもんじゃないよな。と言うかどこが太ってるんだ? と俺は思うわけだが、本人曰く、“腕とか腰とか太って見えるでしょ?!” と言う感じだ。見た感じでは全然そんな感じには見えないんだけどな…。と、よく見てみると2か所だけ目立って出っ張ったところが分かるんだが…。本人には分からないんだろう。そう考えて最近スリーサイズは測ってみたのかとかそんなことを2、3質問してみたところ、ぶんぶん首を横に振る冬佳先生。布団を目深にかぶりながら目だけをこっちに向けてじ〜っと俺の顔を見ている姿が異様に可愛らしい。勿論向こうは、“何でこんな時にそんなエッチな質問してくるの!” と思っているんだろうが、俺の考えが正しければ間違いはないはず。そう考えて…、“ちょっとスリーサイズを測ってみてくれ” と言うところが、むぅ〜っとした顔になって、
「健二くん。私は本当に困ってるの! なのに何であなたの趣味に付き合わなければならないわけ?」
とかなりご立腹な様子だ。“まあまあ、そんなこと言わずに測ってみてくれ。それですべてが分かるはずだから…” と怒る先生をなだめつつ俺は部屋を出る。ガサゴソと音が聞こえてくる。多分測ってるんだろうな? そう思いながら待つ。待ってる途中で、“ええっ?!” とか、“きゃあ! こんなに大きくなってる〜っ!” とか嬌声が聞こえてくるあたりやっぱりな? と思った。やがて、“健二くん、もういいわよ…” と先生の声。中に入ると妙に顔を赤らめてもじもじした俺の彼女が上目遣いに見遣っていた。“む、胸とかお尻とかが大きくなってたの…” とやや小声でそう言う彼女の顔はどことなしか安心したような顔だったことは言うまでもない。まあそんなわけで、こんな無理過ぎるダイエットは禁止だ! と言う感じになって予約しておいたレストランへ彼女をエスコートする今日1月14日は、俺のちょっぴり厳しくもありまた甘えん坊な彼女・石川冬佳の誕生日だ。
END
おまけ
余談だが、今までダイエットしてきてそれが胸や尻に回っていると言うことが分かった途端、タカが外れたように食欲の魔人と化してしまうところは何と言うか冬佳の人間性だよなぁ〜っと思う。おまけに酒に酔って周りに憚らず脱ごうとするわけだからほとほと参ってしまうわけだ。で止めに入ると、“あによぉ〜、あたしが酔ってるとでも言いたいわけ? それともこの豊満な肉体を弄びたいってか? きゃはははははは…。冗談よ、じょ〜だん。ひっく…” とバシバシ俺の肩を叩きながら、普段は口にすることさえ憚るようなことを平気で言ってくる始末で…。何回思ったことだろうが改めて冬佳には酒は勧められんと強く思った。
で家まで送り届けて帰ろうとすると、“まだ帰んないで〜” と涙を流しながら哀願してくる始末で。こんなことがしょっちゅうあるんでもう慣れてしまったが最初のうちはすごくドキドキしたよなぁ〜っと思ったわけだ。まあ帰らないでと言っても帰って勉強しないと大学の講義に追いつけなくなるんで帰るんだが。最初、こう言われて帰らずにいたら翌朝ケロッとしたような顔で、“健二くん、なんで私の家の、それも私の寝室にいるの?” と真顔で言われたのには驚いたわけだが…。まあよく人間は2面性のある生き物だとは言われているが、俺の彼女ほど如実にそれを体現している人も珍しいんじゃないだろうかと思う今日が昨日へと変わる10分前、家の玄関の扉を静かに閉めた。
TRUE END?