彼女がリボンを外したら?


 今日、10月23日は俺の腐れ縁であり、また彼女でもある清香の誕生日だ。雪希や進藤などは“プレゼントは何がいいかなぁ〜” などと話し合ってるし、日和も俺の前の席で“う〜んう〜ん” と便秘でトイレに入って唸っているような声で悩んでいるし、麻美先輩はいつよりももっとぽや〜っとしている。かく言う俺もどんなものがいいのか分からず悩んでいる。
 そういや昔、あいつにリボンをプレゼントしてやったことがあったな? もうかれこれ7年も前のことだが…。7年か…。そんな事を考えながら歩いていると後ろから声をかけられる。その声は今日の主役・小野崎清香だった。
「健二〜。ちょっと待ちなさいよ〜!!」
 そう言うと俺の横に並ぶ清香。“今日はえらく早いのね? 雨でも降るのかしら…” と晴れた青空を見ながらこんなことを言う。“う、うるせーやいっ!! …えっ?” 初めて清香のほうに振り向いた俺はびっくりしたような声を出した。だってそこには…。
「あら? あたしの顔になにかついてる?」
「いや、ついてるって言うよりは外れてるって言うほうが正しいのか? お前、あのいつもつけてるタケコプターはどうしたんだよ?」
 そう言うが早いか鉄拳制裁が俺の頬にめり込む。こめかみをぴくぴく言わしながら、“リボンでしょ?” と言う清香。でも俺にはあれが巨大パラボラか、忍者の大型手裏剣のように見えて仕方がないんだけどな? そう思って清香の顔を見ると怒りマークが見えるかのように俺の顔をギロリと睨んでいた。
「洗濯中よ!! 全くバカ健二ときたら…。あと、言っておきますけどね〜。あれはリボンよっ!!」
 そう言うと長いストレートヘアーをなびかせながら、おおよそそれに不釣合いなように力任せに俺の手を掴んでずんずん歩く清香…。まるでどこぞの女番長のようだな…。そう思っていると狙いすましたかのように肘鉄砲が俺の鳩尾に決まった。“女番長ですって?” そう言うと怒りをあらわにする清香。“そう言うところが女番長だって言うんだーっ!!” とは言いたいが言ってしまうととんでもないことになりそうなので止めにする。…にしても痛ってー。う、うぐぐぐぐ…。と鳩尾を摩りながら立ち上がる。危うく殺されるところだったぜ。しゃ、洒落になんねー…。将来清香の旦那になるやつは苦労するだろうな…。ってそれって俺か? 頭を抱えながらこれから先のことを考える。だ、だめだ…。かかあ天下だ。そう思った。でもそれでいて素直なところもあるんだよなぁ〜、こいつって……。とも考えながら…、
「お前ももう少しその暴力的なとこを修正すれば、結構可愛いのによ? …まあ今でも十分可愛いんだけどな?
 最後のほうはボソッと小声で呟くように言う俺。聞こえるか聞こえないか分からないように呟いたんだが当の本人には聞こえてしまってるわけで…。
「えっ?」
 そう言うと、途端に俯き加減になる清香…。その後は何だかお互いに気恥ずかしい気分になりそのまま学校へと向かった。ちなみに先輩は卒業して近くの大学へ通っている。朝はいつも一緒に行くんだが、今日は大事なレポートの提出日とか何とかで早めに大学のほうに行っていてここにはいない。日和は日和で今日は日直の仕事があるとかで早くに行ってるから当然いない訳で…。雪希は部活でいつも早いし、進藤もどう言う訳か知らねーが、今日は朝早くに雪希と一緒に行ってしまっていて今は俺と清香の2人だ。ちっ、普段ならど〜でもいいことをぺらぺらぺらぺら喋りまくって近所迷惑も甚だしいのに、何でこう言うときに限って早く行っちまうんだかなぁ〜?…。
 まあ俺たちに気を使ってるってことは分かるんだけどよ? 話題がねぇ〜…。こうなりゃこっちから話を振ってみるか? そう思い話題を考える。清香は今はポニーテールだ。普段ならそこに巨大なリボンをつけているんだが…。って清香はいつからリボンをつけるようになったんだ? 俺が清香と会ったときにはもうつけてた気がするんだが……。どうなんだろう。聞いてみると…。
「あんたに言ってもどうせつまらない話なんだろうけどね? いいわ。じゃあしてあげる…」
 ふぅ〜っとため息を吐くと話し始める。俺は耳を傾けた。
「リボンはね? 昔のお母さんに初めてのプレゼントにもらったものなの…。だから大切にしてるのよ…。あたしにとってはあの白くて大きなリボンが宝物だったから…。……でもね? それも昔の話だから、もういいのかなぁ〜って思ったの。あんたには悪いけどさ。リボンは、これからは止めにするわ…」
「何で? お前、似合ってるのに…。それにあの特徴的なリボンはお前のトレードマークじゃねーか?」
 ちょっと俯き加減にそう言う清香。不思議に思った俺がそう聞くと、
「確かにそうだけど……、って! あれはあんたがデカリボンだの巨大パラボラとか訳の分かんないことを言いまくってたからじゃないのよ?! とにかく! もうリボンは止めにするの! あたしがいつまでも昔の事引き摺ってても過去のことはどうにもならないんだし…、それに何より今のお母さんにも悪いしさ…
 そう言う清香。顔を見ると非常に晴れやかな顔だった。ついでを言うとその顔が俺の一番好きな顔でもある。学校に続く坂道に来ると同じ制服を着たやつらが歩いていた。と、キーンコーンカーンコーンと予鈴のチャイムが鳴る。


「やべぇ!! 予鈴だ! 急ぐぞ? 清香!」
「ちょ、ちょちょちょちょっと!! 健二! そんなに急がなくてもまだ間に合うわよっ! って言うか腰のリボンに手をかけるなぁ〜!!」
 ぺしっと清香に頭を叩かれる。痛ってーなぁ…。そう思って横を見ると腰のリボンを直しながら怒スジを浮かべて立っている俺の彼女。顔を見ると怖い目つきでこっちをギロリと睨んでいた。しかもどこで身につけたのか知らないが唇をぷるぷる言わしてるし…。はっきり言って怖すぎるぞ!! だっ! と走って逃げる俺。もちろん後ろからは……。
「あっ、こら! ちょっと待ちなさいよ!! バカ健二〜!!」
 などと言いながら追いかけてくる俺の彼女。今日10月23日はそんな彼女・小野崎清香の18回目の誕生日だ…。

END