今は働け! 日和ちゃん
今日4月23日は俺の隣りでぷく〜っと頬を膨らませて上目遣いに睨んでくるぽんこつへっぽこ幼馴染み・早坂日和の誕生日だ。大学のほうも3回生になりそろそろ就職先を探すことになる。まあのんびりアルバイトで稼ぐやつもいることはいるのだが、俺自身はせっかく大学に入ったのだから第一線でバリバリやりたいと思って3回生の今から企業の説明会なんかに参加したりしている。まあ10年から20年くらい前までは就職難民なんて言う言葉が流行っていたわけなのだが、ここ2、3年は言われなくなった。まあ実際は表に出て来ていないだけでまだまだかなりいるんだろう。で、今だ。今日もこれから説明会に参加しようと思って着替えているところへ、居候中であるこのぽんこつさんにぎゅ〜っと抱きつかれていた。うん、ふっくらしたこの並盛りなボリューム感が心地いい…んじゃない!! と抱きついているぽんこつさんに向かい、“おい、日和。服が着替えられんからどいてくれ” と言うとふるふるふるっ! と麻美先輩かどこぞのお嬢様のように首を横に振る日和。
「今日はわたしのお誕生日なんだからお兄ちゃんはわたしに付き合う義務があるんだよぉ〜っ!!」
こう言って膨らませた頬をますます膨らませて言う。甘えん坊、ここに極まれりと言う感じにこいつは家でも外でもお構いなしに甘えてくる。最近じゃ風呂まで一緒に入って来ようとしてそれを必死で止める俺との抗争が日常茶飯事なことになりつつあるわけだ。そんな俺たちの抗争を今まで止めてくれたマイシスターも今は家を出て近くのアパートで暮らしている。歯科衛生士の免許も一昨年に取得して今は近くの歯医者に勤めている。俺も3ヶ月に1回検診に行くのだが、もう1人前に働いているマイシスターを見て、“立派になったもんだ…” と親父みたくそう思うわけだ。そうそうこのぽんこつさんも連れて行くときもあるのだが、歯がもともと弱いのかただ単に歯磨きをしないで放っておいただけなのかは知らんが毎回どこかに虫歯が出来ていて、雪希に半分呆れ顔で見られることも多くある。ぽんこつな姉にしっかり者の妹と言うどこかでドラマ化にでもなるんじゃなかろうかと言う構図がうちではもう出来上がっているわけで…。と言うか俺より3ヶ月くらい早い生まれの一番年上な“お姉さん”なんだからもう少ししっかりしてくれ…と思うのは俺の間違いなんだろうか。とにもかくにも今はこんなところで油を売ってる暇はない! とばかりに日和をひっぺ返そうと必死な俺とそうはさせまいと必死に抵抗するぽんこつさんとのくんずほぐれつな戦いの真っ最中なわけだ。ぽよんふにょんした感触が俺の手や体にやたらと当たってくるのだが、この際どうでもいい。と言うか、夜に雪希も呼んで誕生日会なんぞを開いてやるって言うのに何でこんなワガママに抵抗なんぞをしてくるんだ? と思い聞いてみるところが、
「だって…。だってだって最近お兄ちゃんったら全然わたしに構ってくれないんだも〜ん、うわぁぁぁぁぁぁ〜ん」
そう言って泣き出す。お前はどこぞのお子ちゃまかっ! とは思ったがよくよく考えてみるとお子ちゃま以外考えられんわけで…。はぁ〜っとため息を吐きつつ、“じゃあ一緒についてくるか?” と言うと今までぐよぐよ泣いていたのがウソのようににっこり笑顔に変わって、うんと大きく頷くこのぽんこつさんの変わりように呆れるのを通り越して半ば笑いしか出てこなかったのか言う間でもなかった。
「どれも1つピンとこないものばかりだよなぁ〜…」
と説明会を数社聴き終えてそう言う俺。まあ慌てる必要も全くないわけだが、どうせ仕事をやるのならやりがいのある仕事を選びたいと思うのも事実なわけだ。と隣りで、“さぁ〜、お兄ちゃん。これからわたしとデートだよぉ〜っ!!” とにこにこ顔で言う居候のことが気になってくる。そう言えばこいつが就職活動をしてるところなんて見たことがない。一体どこに就職するつもりだ? 気になる。こいつはわりかしと家庭的な部分が強いから“保母さん” とかのイメージが強いのだが…。どうだろう? まあ本人はそんな俺の気持ちなんて言うものを全く気がつかないのか気付こうとしないのか、“どこそこのお店にはこれこれこう言う食べ物があって美味しいんだって〜” などと話しているんだが…。気になる気になる気になる気になる〜っ! 一度気になりだしたらそれが解決するまでずっと気になる性分なものなので他のことにも手が付けられんわけで…。“なあ日和。お前就職先ってもう決めてるのか?” とにこにこ顔の日和に聞いてみる。うん! とばかりに頷いて、“もう決まってるよぉ〜。提出もしたもん” と偉そうに胸を突きだしてそう言う日和先生。どこかは知らんがこいつが就職するところも大変だろうなぁ〜。何せぽんこつだしよ。ははは…。って! 普段なかなか決められないお前にしては相当早いじゃねーかよ…って言うよりいつ提出した? 俺はちっとも見てねーぞ? と思って日和のほうを見てみると、なぜだか分からんがぽっと頬を染めている。“で? お前の就職先はどこだ?” と言うところが、ちょっと不機嫌になって、“お兄ちゃんが言ったんじゃないのよぉ〜。もう! ぷんぷんっ!!” と何やら怒った表情になる日和。その顔を見て何やら嫌な感覚に襲われる俺。ま、まさかとは思うが、永久就職か? と思ってぷぅ〜っと頬を膨らませているぽんこつに聞いてみるところが…。
「真面目に働き先を探せ! お前!! 何が、“お兄ちゃんのお嫁さんになるんだから永久就職なんだよぉ〜” だっ!! そ、そりゃ俺だってゆくゆくはお前を嫁に迎えに行こうとは思ってはいるが…。って! なにこっ恥ずかしいことを言ってるんだ? 俺はっ!! と、ととととにかく! お前も今は就職先を真剣に探すようにっ! 分かったか? これは最優先事項だっ!!」
ともう全泣き状態のぽんこつさんにずびしっと指を指してそう言う俺。う〜っ、う〜っ、う〜っと文句でも言いたそうに上目遣いに俺を見遣るぽんこつさんだが、つい本音が出てしまった俺のほうを見遣ってうふふと微笑んだ表情になる。はぁ〜っ、この嬉しそうな顔には何を言っても無駄だろうな。とは思ったが、こんなぽんこつな奴に負けるなんて俺のプライドが許せん。そう思って、“と、とにかく現在は女も働く時代なんだから俺と一緒に今度一回説明会でも聞きに行こうや…” と言う俺。そんな俺に急に涙をぽろぽろ零して、“お兄ちゃん、わたしに飽きちゃったんだぁ〜。だからわたしに働かせてお兄ちゃんはほかの女の人としっぽり仲良くしようとか思ってるんだぁ〜。うわぁぁぁぁ〜ん。酷いよぉ〜、お兄ちゃ〜ん。ぐよぐよぐよ〜” とますます泣き出すぽんこつさん。し、しっぽり? するわけねーじゃねーかよ! って言うかゆくゆくは俺んちで一緒に暮らすことになるんだからもう少し社会経験を積んでだな? と思って隣りを見ると、べそをかいて頬をぷぅ〜っと膨ませながら上目遣いに俺の顔を非常に恨めしく睨んでいる日和先生。はぁ〜、これは相当に怒ってるよなぁ〜。と言うかこれが世に言う“激おこぷんぷん丸状態”なのか? とも思う。とにかくせっかくの誕生日がこんなことで(と言うのもおかしい気もするが…)、潰れちまうのもどうかと思ったので一端その話題から離れようと思うのだが、“お兄ちゃんがわたしを捨てたよぉ〜!! ぐよぐよぐよ〜” と大声で泣きながらそうのたまっているこのぽんこつさんをどうにかせんと俺の将来にも関わってくるので、“だぁ〜、もう分かった! お前は永久就職でいいから!! だからそんな街中で大声で言わないでくれ〜っ!!” と言わざるを得なかった今日4月23日は俺の彼女で家の居候兼将来の伴侶? な早坂日和の誕生日だ。…ちなみにではあるが日和は大学から後日呼び出されてこってり絞られたことは言う間でもない。まあ提出部分を見りゃあなぁ〜と就職課の職員に同情したりもするわけだが…。その反動かその日の夜から俺の晩飯が異様に質素になったことも言う間でもない事実だった…。がくっ…。
END