夏のお嬢さん


「健二さん…。あの、に、似合いますか?」
 今日8月3日は俺の1つ年上の先輩・神津麻美さんの誕生日だ。だから日和たちを誘って、先輩の誕生日祝いとばかりに近くのレジャー施設(まあ、早い話がプールと言うわけだが…)に来ている。
「わあ、よく似合ってるよ〜。先輩」
「さすがはアタシの見立てただけのことはあるわね〜。うんうん」
「はい! そりゃもう健二先輩はじめ世の男たちの視線は麻美先輩に釘付けですっ!!」
 と言って先輩の水着を褒めている日和と清香と進藤。雪希は“お兄ちゃん、鼻の下が伸びてるよ?” と言ってうふふふっと笑っている。そりゃ俺だって男なんだし、こんなグラマーな女性を前に鼻の下も伸びるわい!! …でも本当に先輩ってグラマーだよな〜。黒のシックなワンピースタイプの水着がすごく似合うって言うか…。選んだのは清香か? そう聞くと?
「そうよ? やっぱりアタシと同じ水着にして正解だったわ〜」
 そう言って清香はポーズをとる。って、“お前が着てもお子ちゃまが背伸びしてるようにしか見えん!” と正直な感想を言うと、この暴力女は、“でえいっ!!” とばかりに腕を引っ掴んで俺をプールへと落としやがった。ざっぶ〜んと水しぶきが上がる。準備体操も何もしてないので心臓か止まるかと思っちまったぜ。ったく…。
「い、い、いきなり何しやがるっ!! このお団子頭!!」
「アタシはただアンタが変なこと言うから、水でもかぶって反省しなさい! ってどこかに同じ台詞があったわよね? どこだったかしら…。ってそんなことはどうでもいいの! とにかくアンタがいらないことばかり言うから水の中へ叩き込んだだけよ? それと、お団子頭って言うなぁーっ!!」
 髪の毛が異様に長い清香は髪を結ってるんだが俺には“お団子” にしか見えんわけで…。そういや先輩も髪の毛は長かったよな…。そう思って先輩のほうを見るとポニーテールのように後ろ手に一本結わえている。さすがは先輩、髪の毛の一本一本までが透き通るようにきれいだ。まあ日和は何も言わん……。
「わわ、今、けんちゃんがわたしの顔見て、ぷっ! って笑ったよ〜。うわ〜ん、ひどいよ〜。何か感想言ってほしいよ〜。うわ〜ん」
「日和、お前ひょっとしてエスパーか?」
「だって、けんちゃんいっつも口に出してるもん…。ぐっすん、しくしくしく…」
 ぽんこつな声でこう言うとぐよぐよぐよ〜っと泣き出す日和。って俺ってそんなに口に出してる? みんなに向かいそう聞く。うんうんと頷くみんな。我が義妹までもがうんうんと頷いている。ショックだった。俺は一気に悪者だ。麻美先輩が一言、
「めっ!! 仲良くしないといけませんよ? 健二さん…」
 と、俺に向かって人差し指を立ててこう言う。顔を見るとちょっと怒ってるような顔だ。普段そんな顔は見せない先輩なのでこれは相当怒ってるなぁ〜っと思いプールから上がると日和に謝るが…。
「ふ〜んだ…。けんちゃんなんて、もう許してあげないんだから〜」
 とお子ちゃまな水泳帽をかぶった日和は完全に拗ねてしまった。ぷく〜っと膨らませた頬を突くと、“なによ〜。そんなことしたってわたしは怒ってるんだからねっ?” と言ってますます頬を膨らませる日和。こ、困った。と、見かねた雪希が…。
「お兄ちゃんも反省してるみたいだから、今回は許してやってよ……。ねっ?」
 ナイスなフォローだ。さすがは我が義妹。雪希に言われるとさすがの日和も言うことを聞かずにはいられない。長く幼馴染みをやってる2人の合図みたいなものだろう。案の定日和の機嫌も直る。
「もう言わないでね? けんちゃん?」
「な、なるべくなら……。って! 分かりました二度と言いませんお約束致します。……今日は
「うん!」
 一瞬泣きそうになる日和。わわっと改めて言い直すといつものようなにっこり笑顔になる。まあ誰も最後までは聞いてはいまい。そう思ってふと横を見ると、清香と進藤が何やらにんまり笑っていた。先輩はと言うといつもの優しい笑顔。“進藤、清香、内緒にしててくれー” と目で訴えると、身振り手振りで伝えてくる。“帰りに駅前の高級アイスクリームをおごれ?” ピースサインの2人。ぐぐぐぐぐ……。足もと見やがって! とは思ったが、内緒にしててもらわんと後が大変なのでいやいやながら了承する。どことなしが嬉しそうな2人の顔がやけに悔しかった。
 さあ、泳ぐか…。そう思い飛び込み台に向かう。清香たちのほうを見るとなにやら楽しそうに水のかけ合いっこなどをしている。もちろん今日の主役の麻美先輩も一緒だ。でも先輩はのんびり屋さんなのかかけられるほうが多いんだけどな……。
 ざっぷ〜ん。うおっ!! 気持ちいい!! 無心で泳ぐ。……。少し泳ぐのにも退屈してそっとゴーグル越しに向こうを見れば先輩たちの脚が見える。ふふふ、脅かしてやれ! とばかりに近づく。ちなみにここのプールは海のように波も出るし、ビーチに行けば行くほど浅瀬になってるのでガキたちも遊べると言う風な造りだ。幸い先輩たちは俺の腰の辺りで遊んでいるので近づくのはそんなに難しくはなかった。ふふふっ、油断しきってやがるぜ。俺がみんなの真ん中にきても遊んでるんだからよ? そう思い、ザバッと体を水面に上げた途端…。
「集中攻撃!!」
 清香の号令よろしくみんなに集中攻撃を受ける俺。ざばばばばばばば〜っと水しぶきが俺の顔に当たる。もちろん当てているのは…、って進藤じゃない? 誰だ? そう思いよく見てみると、先輩だった……。すごく楽しそうに、無邪気に微笑みながら俺に水をかけている。その顔はまるで、純真無垢な子供のようだった。もちろん雪希たちからも攻撃を喰らう。
 ずびびびびび〜っ!
「あうあっ!!」
 背後からものすごい衝撃が!! な、なんだぁ〜っと後ろに振り返ると、ウォーターガンを持って“うふふふふっ” と怪しく笑っている進藤の姿が…。“最新のヤツか? それ…” ウォーターガンの餌食になりながらもそう聞く俺。“はい、何でも10メートルは一気に飛ばせるほどのヤツらしいですよ? これ…” そう言うと自慢げに俺の目の前にウォーターガンを突きつける進藤。ええい、奪っちゃる! そう思い素早く進藤の手からふんだくる。俺を狙った罰だっ! とばかりに水と空気を満杯まで入れると、にやりと笑った。
 そうしてるうちにも急いで逃げる進藤。ふっ、お前の動きは把握済みだっ!! とばかりに逃げる進藤目掛けてウォーターガンを発射する。ずびびびびび〜っ! と威力を増したウォーターガンが進藤の背中にクリーンヒット!!
「あうあっ!!」
 と俺と同じような声を出して、バシャッと前のめりに倒れこむ進藤がいた。ふっ、悪は滅びた……。とばかりに近くにいた知らんお子ちゃまにウォーターガンを手渡す。“間違ってもこう言う遊びはするんじゃねーぞ?” と恐ろしくにこやかに言うと、こくんと頷くお子ちゃま。うん。子供は素直が一番だ。それににしても進藤が起き上がってこねーぞ? いつもなら、起き上がって文句の一つも言ってるころなのによ…。と思ってると雪希が、“わーっ!! 進藤さんが!!” と言って例の如く、助けに行く始末だった……。


「全く! 先輩は私をもっと大事にしてくださいよ! もう少しであの世行きだったんですからねっ?」
お、俺としてはあの世に行って欲しかったっつうか何つうか…
「「「「あ゛あ゛んっ?」」」」
 どこぞの喧嘩番長のように睨む目8対。4人の目が俺の顔をじ〜っと睨みつけている。もちろん一番睨みつけているのは進藤だということは言うまでもない。夕方、駅前のアイスクリーム店の前にちょっと日に焼けた肌の5人が立っている。そそくさと退散しようにも進藤と清香に腕をがっちり掴まれているので身動きが取れず。おまけに雪希と日和の監視付きとあってはどうしようもない。肝心の先輩はと言うと…。
「すぅ〜、すぅ〜」
 と俺の背中で寝息を立てている。時より寝言も聞こえてくるが、“健二さん…、大好きです…” と先輩が実際言ったら気絶するんじゃないかと思うような大胆な言葉が出てきていた。まあ、おっとりした先輩の愛の告白かな? と思い後ろ目に先輩の顔を見ると嬉しそうな顔をして眠っていた。今日はいっぱい遊んだもんな。
 そう思って前を見ると進藤と清香がいつの間にか俺の財布を取り出してアイスクリームを買ってやがった。“それは俺の金だ…” と言おうとしたが今回はマイシスターも敵に回してしまっているために言えずじまい…。とほほほほほ…。と涙がちょちょ切れそうになるがすんでのところで堪える。夕焼けに染まった町を歩く。前方を歩く雪希たちを遠めに見れば三段重ねのアイスクリームを食べつつ、きゃいきゃいと時折黄色い声を出していた。その後方を歩いている俺。もちろん背中には楽しい夢でも見ているんだろうか、先輩の嬉しそうな寝顔があった。背中の先輩の優しい寝顔を見つつふと空を見上げる。夕焼け空は茜色だ。そんな日暮れの街角、俺の1つ年上の可愛い先輩・神津麻美さんの今日は19回目の誕生日だ。

END