夏色の浴衣


 今日8月14日は、我が義妹の親友で一応俺の彼女な進藤の誕生日だ。だからかどうかは知らないが、進藤のたっての希望で夏祭りに出かけることにした。もちろんマイシスター・雪希やぽんこつ日和やアンテナリボンの清香や麻美先輩も一緒だ。進藤は少し不満そうだったがこいつと一緒にいるだけで耳がおかしくなりそうだったんでな? つい出来心って言うやつだ…。それに進藤の双子の姉に会えるとあって高揚感も増してくる。春に一度会って挨拶などを交わした俺だったが大人しめの感じな、まるで進藤とは真逆のようなタイプだったよな? あれで一卵性双生児だとはとても思えん…。
 などと考えながら、マイシスターの出てくるのを待っている。夏の初めか…、親父が突然帰ってきて“これで浴衣でも作ってもらえ” と10万ほど置いていった。“俺のは?” と聞くと、“お前はなしだっ!!” と言って頭を小突かれる。まあどこの家庭も男親は娘のほうが可愛いとは言ったもんだ。男になんか生まれるんじゃなかったぜ…。とそのときは思ったもんだ。
「お兄ちゃ〜ん、お待たせ〜」
 マイシスターが廊下を走ってくる。浴衣を見ると紺色の生地に訳のわからんネコのプリントが張ってある。大好きだもんな? そう言う訳の分からんもの…。はぁ〜っと深いため息をつく。雪希を連れて表へ出ると夕闇が迫る頃だった。待ち合わせ場所まで向かうと、もうみんな待っていて、進藤がぶりぶり怒っている。遠くから見ても怒っている内容は何となくだが分かる。って言うか俺の彼女だからな? “こんな可愛い彼女を待たせるなんて、先輩は失礼です!!” とこう怒っているに間違いないだろう。そう思いつつ“おーい”と声を掛けた。と案の定…。
「先輩!! いつまで待たせる気ですか?! こんな可愛い彼女を待たせるなんて、先輩は失礼です!!」
 とまあ、予想通りの言葉が返ってきた。と、ぶりぶり怒っている進藤の横で進藤と同じ顔の女の子がくすくす笑っている。すぐに双子の姉だと気付いた。“今日は私が準備に手間取っちゃって…。だから進藤さん、悪いのは私なの…” マイシスターがフォローを入れてくれる。“じゃあ仕方ないです。雪希ちゃんは先輩なんかと違ってウソなんかつきませんしねぇ〜” そう言って俺の顔をギロリと睨む進藤。ご丁寧に“先輩なんかと違って…” のところを強調するように言ってくる。まあこういうことは日常茶飯事なので何も言わず、すたすた歩いていこうとする俺。
「ちょちょ、ちょっと待って下さいよ〜!! こんな可愛い彼女を置いて行くなんて非常識にも程があります!!」
 服の袖を掴まれる。掴まれた先を見ると案の定、ぷぅ〜っと頬を膨らませて俺の彼女が上目遣いに睨んでいた。雪希たちのほうを見るといつものように苦笑いを浮かべていたり、呆れてため息をついていたりとまあ、ある意味俺の予想通りな展開だった。1名を除いては…。
「んっ? どうかしたの? お姉ちゃん?」
「ううん。何でもないのよ? ただ仲がいいなぁ〜って見ていただけだから…」
 そう言うとにっこり微笑む進藤のお姉さん。“お前じゃなくってお姉さんが俺の彼女だったらよかったのに…” と思ったことは絶対の秘密だ。こんなことを当の本人の前で言おうものなら何をされるか分からん。そう思ってよくよく顔を見る。まあ顔形、背格好まで同じだ。声も同じようだから一見進藤が大人しかったら区別がつかねーよな? まあ俺の彼女は口から先に生まれたような女だから一瞬で区別はつくんだが…。“静かにしろっ!” って言うほうが無理なんだと思うんだけどな? はぁ〜…。
 下駄の音がカランカランとなる。進藤は俺の腕に自分の体を押し付けてくる。雪希たちは前を進藤のお姉さんと話をしながら歩いていた。神社の境内に着くともう陽はとっぷり暮れて星がきれいに瞬いているような時間だった。“せっかくなんだし、お参りしましょ?” と言う進藤につられてみんなでお参りをする。広場のほうでは櫓があって威勢のいい太鼓の音が聞こえてくる。どこかで流行った日和のような声の歌手の歌うぽんこつな音頭も聞こえてきた。
「けんちゃ〜ん、一緒に踊ろうよ〜」
 ともう向こうの広場に行って俺のことを呼ぶ日和。こっ恥ずかしいから止めろと毎回言っているのに全然言うことを聞かない。まあそれが幼馴染というもんなんだとは思うが…。まあ今日だけは許しておいてやるか…。そう思い、進藤と進藤のお姉さんの手を取って言う俺。
「日和もああ言ってるし、踊るか?」
 そう言うと元気よく“はいっ! 先輩” と嬉しそうに言う進藤と、“わ、私もご一緒させてもらってもいいんですか?” と少々驚いたような顔で言う進藤のお姉さん。なにか同じ顔なのに言うことが全然違うので戸惑ってしまう。まあ顔は同じでも性格は正反対なわけであり…。でもちょっとドキドキして進藤のお姉さんのほうを見ていた俺に、当の進藤は…。


「先輩は酷いですっ!! 彼女である私よりお姉ちゃんのほうばっかり見惚れて…」
 そう言うとぷぅ〜っと頬を膨らませて上目遣いに睨んでくる。お姉さんは、“さつきはいつもこうなんですか?” と雪希たちに聞いていた。同じ柄の夏色の浴衣でもそれを着る双子の姉妹ではこうも違うのかと思わされる。と、業を煮やしたのか俺の彼女は、ぎゅっと俺の腕に自分の体をこれ以上ないくらい密着させて…。
「先輩! これからはこうやって歩きますからねっ? 学校の登下校時にも! 普通に街を歩くときにも!!」
 おいおい、冗談はよしてくれ…。と進藤の顔を見ると進藤はいつになく真剣な目だ。これじゃ本当にやりかねん。雪希〜、助けてくれ〜っと雪希のほうを見ると、“お兄ちゃんも大変だね?” と微笑みながら言っている。日和は当てにならんし、清香は火に油を注ぐようなもんだしな? 先輩の“めっ!” って言う一言があれば収拾もつくんだろうが、当の先輩は夜店見物でいないし…。困った困ったと言って助けてくれるのか? どうかは知らんがそう言う魔法少女のアニメを日和の家で見たことがあるが、今はそう言う心境だぜ…。
「さあ、先輩! れっつらごーです!!」
「お前、その台詞微妙に古いぞ?」
 そう言う俺に、“い、いいんですっ!! 全くもう…” とぶつぶつ文句を言う俺の彼女。そんな彼女の前方には同じ浴衣の同じ顔のもう一人の“彼女”が楽しそうに話をしながら歩いていた。そんな今日8月14日、俺の彼女・進藤さつきとそんな彼女の姉、進藤むつきさんの17回目の誕生日だ。

END