ロースペック少女の憤慨
むむむむむぅ〜っと言う声とともに鋭いかどうかは知らんが眼光が俺の間抜け面を居貫いている。今日6月12日は毎日俺をこき使う凶悪女医者の妹にして俺の彼女でもある霧島佳乃の誕生日だ。だったら何でこうやって今睨まれているのかと言うことなのだが、俺には一向に分からんわけで…。俺何かしたか? と考えるものの、これと言って思う節もなし…、あるとするならこの間美味そうな饅頭があったので食ってしまったわけだが、後で佳乃から、“ねぇ〜? 往人くん。ここに置いておいたあたしのおやつのお饅頭知らない?” と言われて、知らんと答えてしまったわけだが、あれがバレたのか? と一瞬冷や汗をかきつつ未だにむむむむむぅ〜っと言う擬音を発しながら俺の顔を見ている佳乃を横目に見る俺。しかし、睨んでいるのに何と言うか可愛い顔をしているなんてちょっとばかりイジワルをしたくなるのだが、あの凶悪女医者に後で何をされるか分かったものじゃない。この間も佳乃が観鈴たちと一緒に隣町の衣服の大型量販店で買ってきたんだろう服を来て、“ねぇ〜、往人くん。この服似合うかなぁ〜?” と言ってポーズを取っていたんだが、もともとファッションと言うかそう言うものには縁遠い俺なので、適当にあしらっていたわけだが、その後で佳乃が告げ口でもしたんだろう、俺は凶悪女医者に追い掛け回されると言うこの町に来てから一種の風物詩になりつつある光景に今回も遭ってしまったわけだ。
で、今だ。何でかは知らんがぷぅ〜っと頬を膨らませた佳乃がむむむむむぅ〜っと言う擬音を発しながら俺の顔を見遣っている。正直俺何かしたか? とは思うんだがこれと言って何をしたわけでもない。強いて言うなら前述の饅頭事件なんだがあれはもう弁償と言うか代償と言うかそう言うものを払わされた。ならなんだ? と思うわけだが、佳乃はこの通りぷく〜っと頬を膨らませた挙句にどこぞの乳神様のように半べそをかきつつむむむむむぅ〜っと言う擬音を発して睨んでいる。まあ睨んでいると言うよりはお兄ちゃんに遊んでもらえない女の子が拗ねていると言う表現のほうが合ってるか…と思う。とにかく埒が明かないのでその辺も含めて聞いてみるのだが…。ぷいっとそっぽを向かれてしまって全く会話が出来ない。この間、と言うか一昨日までは普通に話も出来てたのになぁ〜っと一昨日? と考える俺。確か一昨日は観鈴の検診で晴子が一緒に来て、聖と何やら話をしていて俺を出汁に使って酒を奢らされたんだっけか? 観鈴は佳乃と一緒に海のほうに遊びに行くとか言い出して出掛けていった。で俺は? その後どうしたんだっけか…。全く記憶がない。ただとても気持ちがよかったことだけは覚えているんだが…。とにもかくにも一昨日のことと今現在のこの状況とはつながっているような気がするのは確かだ。確かなんだが一体何があったのかが分からんことには解決の糸口さえ見出せないので恐る恐る膨れている佳乃に聞いてみるのだが…。
「往人くんなんて知らないよぉ〜っ!! ぷんぷんっ!!」
そう言いながら自分の胸の辺りをしきりに撫でたり触ったりしている佳乃。謎な行動に少し焦る俺。しまいには自分の胸を揉み出してはギロリとこっちを涙目に睨みつける始末。そんな男の前でこれ見よがしに揉まんでも…とは思ったが、頭に何やら靄がかかったかのように思い出せん。佳乃は佳乃で謎な行為を続けながらむむむむぅ〜っと睨みつけていた。聖は聖で寝たままだ。多分聖は昨日散々にやり込められたんだろう。今朝、げんなりしながら朝食を作ってまた床に就いていたっけか。“今日は1日寝かせてくれ…。昼と晩は好きに店屋物でも取って食べるといいだろう。私は反省のために寝る…。うううっ…” と訳の分からんことを言いながら寝に入るので、“鬼の撹乱か? はたまた医者の不養生か?” などと考えていたのだが要は一昨日に起こった出来事に昨日の夜、佳乃に問い詰められていたんだなぁ〜? と考えるものの、今日は俺か?! と思って次は俺かと思い言い訳なんかを模索する俺。そう、一昨日の晩、晴子が日頃観鈴や自身のことで何かと世話になってる聖のところへ大吟醸の酒を片手にやって来て、女2人で酒を酌み交わしていた。俺は部屋の後片付けやら何やらを日頃からやらされていてこの日もついぞやらされていたわけだが、“国崎往人〜っ!! お前も飲め〜っ!!” と出来上がった聖に飲まされたんだっけか? まあ俺も酒は嫌いなほうじゃないのでちびちび飲んでは晴子の持ってきたつまみのいかくんを食べたりなんぞをしていた。そこから何やら自慢話になっていってたような気がするんだがはっきり言って記憶がない。翌朝起きたら聖と晴子が佳乃と観鈴に無茶苦茶怒られていたっけか。聖はグスグス鼻を鳴らしてるし、晴子に至っては何か白くなっていた。まあ俺の天敵である2人がそんな風に怒られるなんて言うことは滅多にお目にかかれない光景だからか、俺は寝たふりを決め込んで怒られている様を嬉々として見ていたわけだが…。そのうちに眠たくなって寝ていて起きたら夕方になっていた。まあ夕方になることはここに居候を決め込んだ時から時々ある。聖がぶつぶつ文句を言うのにももう慣れっこだ。そう思ってきょろきょろ辺りを見回すが聖と佳乃の姿がない。まあ2人してオレに内緒でどこかに出掛けたんだろうと思い買い置きしてあったカップ麺でその日は済ませてとっとと寝たわけだが。
と言うことは一昨日のあの酒の宴で何かがあったんだな? そうでもなければ佳乃がこんなにぷんすか怒るはずがない。がだ…。どうやって聞き出せばいいんだ? 正直にあの時記憶が飛んでいた〜とでも言えばいいのか? 素直そうに見えて実は相当の頑固者の佳乃が俺のこの言い訳を素直に受け止めるはずもない。少々推理してみよう。まず佳乃のあの奇妙な行動、あれは俺が誰かにやっていた行為を真似ていたんじゃないのか? じゃあ誰に? と言うことだが、大体は分かる。晴子と聖だ。しかし、あの凶悪女2人組に酔っぱらっているとはいえ俺がそんなことが出来るか? とは思う。まあ俺が襲われるのは分かるが…、って! 襲われたのか? 俺。と服の中を見遣ると薄々ながらキスマークがあちこちに出来ているではないか?! と、はっと一昨日の記憶がフラッシュバックのように蘇るとともに顔が真っ青になる俺。そうだ…。あの後酔っぱらった2人から、“よく見たらかっこいい” やら、“男前” だのと言われて体やら首やらにキスされてしまっていたことを。普段隠されている欲望と言うかそう言うものが出てきたんだろうか晴子と聖がいろいろ絡んできて最後にはどっちの胸が大きいか柔らかいか、その辺をベロベロに酔っぱらった俺に決めさせるようなことをやっていたんだんだが、それを見ていたんだ…。そう考えて、“あの〜、佳乃さん?” と恐る恐る尋ねると、涙目の上目遣いでおまけにすごい泣きべそをかきつつ、“むむむむむむむむむぅ〜っ!!” と言う擬音も聞こえそうな顔が俺の間抜け顔を見遣ってくる。超ご機嫌斜めですっ!! と言う顔で実に恨めしそうに見つめて、こう言ってくる。
「往人くん! 往人くんはあたしの彼氏さんなんだから、お姉ちゃんや観鈴ちんのお母さんがいくらおっぱいが大きいからって揉んだりしないこと! 揉むんだったら彼女のあたしのを揉めばいいじゃないのさ〜っ! それともあたしのおっぱいが小さいからってお姉ちゃんや観鈴ちんのお母さんのを揉んだのぉ〜っ?! これから大きくなるかも知れないんだからこれからはあたしのだけ揉むことっ!! 分かった?!」
いや、あれは酔っぱらってやったことであって、俺が好きでやったことじゃないんだけどな? 朧気ながらしか覚えていないのでどんな感触だったかさえ分からないんだが。そんなことを考えていると佳乃が小ぶりではあるもののいい感じのモノを突き出して、“お姉ちゃんには出来てあたしには出来ないって言うわけじゃないよねぇ〜?” などと言う。目を見ると本気だ。脱兎に如く逃げようとして、後ろを向くと瞬間移動のように佳乃が後ろに立っていて、うふふっと恐ろしいほどの笑顔で見つめてくると言うか睨みながら胸を突き出してくるわけで、結局……。
「もう、もう絶対酒は飲まんぞ!! 俺はっ!!」
ティッシュペーパーを鼻の穴に詰め込み詰め込みしながら俺は言う。あれから数日後、佳乃からの要求はだんだん過激になってきて昨日はついに風呂にまで乱入してきやがった。もちろん一糸纏わぬ素っ裸状態なわけで。思わず“う、うわぁ〜っ!!” と言って逃げ出そうとはしたのだが、ガシッと腕を掴まれて、“どこ行くのぉ〜? 往人く〜ん” と目を爛々に光らせていうものだから逃げるに逃げられんかったわけだ。そんな俺たちの行動と言うか佳乃の行動を見た聖は、“か、かかか佳乃がぁ〜、佳乃が不良になった〜っ!!” と言っては俺の顔を殺意の眼でぐぐぐぐぐ〜っと睨んでくるが、“お姉ちゃん!!” と言われてしゅるしゅる身を縮こませて、部屋の隅っこで体育座り押しながらすんすん泣いている。俺は俺でそんな聖が何となく可哀想に思えて声をかけようと思ったりしているわけだが、聖は聖で妹があんな性格になったのは全部俺のせいだ〜っと思っているのか、あたかも地獄の鬼のような目つきで睨んでくるわけで…。時間が戻りさえすればあの時の俺を殴ってでも酒を飲むのをやめさせたいと思った6月12日、俺の居候先の女医の妹で俺の彼女の霧島佳乃の誕生日から数日後の雨の夕方のことだ。ぐふっ…。
END