お説教と天女の衣装
「う、う、裏葉っ!! な、なにゆえ余があのような格好をせねばならぬのだっ?!」
「うふふふっ、神奈さまもお年頃ですこと……」
余は今、憤慨しておる。というのも、目の前にいる女御の所為で…。ここは都から五里ばかり西にある社殿。余が暮らしておるところだ。いわば余の家というべきところだが、誠から余に仕えておる者は少ない。
誠から余に仕えておる者…。それは、この間都から赴任してきた、正八位衛門大志・柳也殿と今、余の前におる女御の裏葉の二人だけだ。後のものは己が出世のためとか、そのような輩ばかり…。腐った世だのう…。余はそのように思うておる。
「神奈さま? 如何なさいましたか? あまりに美しいお着物ゆえ、見惚れておいでなのでございましょう?…。分かりますわ…。わたくしがもし益荒男であったなら毎夜の如く通うことでございましょう…」
「ええい。言うでない。余は今、憤慨しておるのだ!!」
余はそう言って裏葉の顔を睨みつける。相も変わらず、下にも止めず飄々とした語り口で裏葉はこう言う。
「あらあらまあまあ…。どこのどなたでございましょうねぇ? そのような格好になられる発端をお作りになられたお方は……。……お恥かしいことでございますこと…。神に仕えし天津人…、そのようなお人が…」
裏葉は余の顔をじ〜っと見つめておる。数刻、余の顔を見つめると、今度はよよよよよ…と、泣きまねをする。ええい、分かっておるわ、痴れ者め…。余は裏葉の顔を睨んだ。
社殿の奥の陽の当たる場所…。今回の発端と言うべきものがある。そう…、あれは余の寝具。その寝具の敷物の真ん中にあるしみこそ今、余が憤慨しておる発端だ。ちなみに余は今、生まれたままの姿で座しておる。
「ふ、ふん!! し、仕方ないであろう? 自然の摂理と言うものには逆らえぬということだ…」
「まあ……。ご自分のことは棚にお上げになられて、そのようなことをおっしゃいますか? そのようなことを言うお口はこのお口にございますか!!」
そう言うと、余の頬を両の手で抓り上げる裏葉。顔を見るとたゆとう微笑んだままだ。
「ひはひ、ひはひほは〜っ!!(痛い、痛いのじゃ〜っ!!)」
「神奈さま! 早くお召し物を着てしまわれませんと柳也様が来てしまいますよ?…」
き、着替えるというのか? あのような恥かしき格好に? ひらひらのふわふわなあの格好に? …い、嫌じゃあ〜っ!! あのような格好などできぬっ!! 断じて出来ぬぞっ!!
そう思うては見たものの……、余の着る服はあれ一着だけ…。いっそこのままとも思うたが、柳也殿にこのような肢体を見せることも出来ず……。服の替えがなぜないのじゃ〜っと暴れようにもこのままの格好では恥かしく…。結局……。
「馬子にも衣装とは言うが……、うん。なかなか似合ってるぞ? 神奈。そのぶすっとした顔さえなければな……」
「そうでございましょう? 柳也様。神奈さまにはこのような格好もお似合いでございますわ…。うふふふふっ」
ふんっ! 痴れ者め…。その余を見つめる顔は何だというのだ? これではまるで幼き頃に絵で見た古の天女のようではないか!? 余はあれほど恥かしい格好はないと思うておったのだっ!! それを…。
「あらあらまあまあ…。神奈さま。そんなにこの衣装がお嫌いでございますか? よよよよよっ……」
「ええい、泣くでないわ!! 鬱陶しい!!」
はぁ〜。余はため息を吐く。でも、まあ、これはこれでよかったのかも知れぬな…。着心地もそんなに悪くはないしの…。そんなことを思う、夏のある暑い日であった……。
おわり
おまけ
「で、一つ気になることがあるのだがな、裏葉?…」
「はい? 何でございましょう? 柳也様」
「なぜ神奈の寝具一式といつも着ている服があそこに干してあるんだ? ……って、もしかして?」
柳也殿が表に干されてある、余の寝具といつも着ておる服を指差しながら言う。途端に余の顔から火が出たことは言うまでもない……。う、う、裏葉〜っ!! わ、わざとであろう!? 相も変わらず飄々としておる裏葉は…。
「お察しのとおりでございますわ……。柳也様…。よよよよよっ……」
う、裏切り者め〜っ!! とは思うたが、柳也殿の手前きつく言うことも出来ず……。
「ううっ…。うううううっ……」
唇を噛んで、表に干されておる余の寝具を微笑ましそうに見つめる裏葉たちを、悔しそうに睨むしかない余であった…。く、く、悔しいのじゃぁ〜〜っ!!
ほんとにおわり