聖さんの結婚願望
三日正月の3日目、明日1月3日は俺の居候先の女医・霧島聖の誕生日だ。俺がこの町に定住するようになって5年が経つ。それまでにいろいろと俺にもよく分からん不思議な出来事があったりしたわけだが、取りあえずは俺の知っているやつは元気でいる。と言うか佳乃の夢遊病的なものから観鈴の癇癪から全部俺が治したそうなんだが俺自身そんな記憶は一切なく…。聖や晴子に伝え聞くところによると、目が据わった状態の俺がやって来て妙に平安朝なしゃべり口で、“余のせいで悪かったの…” と言って金色の光る気みたいなものを手から出して佳乃や観鈴に胸のところに宛がったんだとかなんとか。それで佳乃の夢遊病的なものから観鈴の癇癪が治ったらしく俺は一時期、某・北○神拳の奇跡の医者のような感じで丁重にもてなされたことは言う間でもない。もっともそれはもう5年も前の話なので今はいつも通り、凶悪女医者や大酒飲みの保母からこき使われている毎日なんだが…。
と最近ふと疑問に思うことがある。佳乃の病気が治ったんだからそろそろ聖自身の幸せを見つけてもいいだろうに…と。聖自身にこの間何とはなく聞いてみたんだが、“私はいいさ…。佳乃が幸せになってくれるだけで…” と言って遠い目をしていた。佳乃にもそれとなく訊いてみると、“前にもお姉ちゃん、そんなこと言ってお見合い断わったんだよぉ〜。あたしも元気になったんだからお姉ちゃんも自分の幸せを考えてもいいのになぁ〜…” と真剣な顔でそう言う。佳乃は現在俺の彼女で近々結婚を申し込もうと思っている相手なんだが…。と言うか聖の好きなタイプと言うのがいまいちよく分からん。まあ俺ではないと言うことだけははっきり分かっていることなんだが。直接聞いたところで話をはぐらかされるか、若しくは逆ギレしていつものように町中を追いかけまわされるかのどちらかだからなぁ〜…。しかし聖の本音と言うものも聞いてみたい気もする。お屠蘇でも飲ませて聞き出せばいいのだが酒はあまり好きじゃない等より嫌いな感じを受ける聖なもんで勧めると言うものどうかと思うわけだが、一旦火のついた探究心と言うものには抑える術を知らない俺は…。
「往人くん!! これはどう言うことなの? 説明してっ!!」
三白眼の怖い目をしながら俺の顔をぐぐぐぐぐぐ〜っと睨みつける佳乃。で俺の隣りにはほぼ生まれた姿のままの女医が気持ち良さそうに眠っている。俺自身どう説明すればいいのか分からないが事ここに至った経緯と言うものを記憶の糸を頼りに手繰り寄せてみた。まず聖の本音を聞き出そうと思って佳乃がこの間飲みかけてそのままだった甘酒を注いで飲ませてみた。まあこれは酒の成分はほとんどゼロっぽいものだから大丈夫だろうと思って飲ませてみたわけだが、これが今のこの危険な空間になるようなことは誰も予想していなかっただろう。途端に斜めに構えて、潤んだ瞳を俺に向けてくる聖。晴子みたくうわばみを超えるような大酒飲みではない、むしろ元々酒には耐性のない聖は甘酒一杯でぽっと顔が赤くなる。それが何とも普段俺を馬車馬のようにこき使う聖とは一線を画すような感じで見ていて飽きない。
と本題を忘れるところだったと肝心の聖の結婚願望と言うかそう言うものについて聞いてみたのだが、出てきた答えに少々びっくりと言うか驚きと言うかそう言う感情が芽生えてしまったわけで…。曰く、“国崎さんを見た瞬間、私の心がときめきだして…。でも妹の、佳乃の手前自分の気持ちを偽ることしか出来ませんでした…” と言うことらしい。“もしよろしければ私を妾にでも置いてくださいませんか? 私は貴方が好きです。愛しています…” などとさらに強烈な一言をぶつけられる俺。ここに来てから日常化と化しているメスを持って追いかけまわす行為もいわば愛情の裏返しだったらしい。愛情の裏返しで殺されかけそうになった人物は多分この世界で俺くらいなものだろう。そう思うとこの女医の今までの行為が恐ろしい。晴子を見てきた俺にとっては謎なんだが、聖は酔うと今までとは真逆に大人しくしおらしくなるようで、それは旅先のどこぞのテレビドラマで見たメイドのように静かになってしまう。そんなわけだがらこっちとすれば普段小姑のいびりとばかりにいびられてきた腹いせと言うか何と言うかだが、思いっきり困らせてやろうと思って、“全裸になれ” などと普段そんなことを言えばそれこそその場で俺の名前が立派になるようなことを言ってみる。“……妹には内緒にしておいてくださいね?…” などと少し考えた後でそう言いつつしゅるしゅる服を脱ぎだす聖にはっきり言って恐怖を感じてしまう。“い、いや、冗談だから…” と言っても、“いえ! 今の言葉は本気でしたわ…” と言いつつ、ついに生まれたままの姿になってしまう聖。なるべく見ないようにと思ってそこらへんに落ちていたタオル? で目を覆う俺に恥ずかしいのかなんなのか分からんが少々戸惑った感じの聖の声が聞こえてくる。
「国崎さん、それ、私の下着なんですけど……」
なぬっ? と思ってよくよく見てみると三角形なものが目の前にあって…。その場でぶはっと盛大に鼻血をぶちまけながら倒れる俺がいた。倒れる瞬間佳乃の数十倍はある艶めかしい肢体が目に焼きついたのは言う間でもない。佳乃が普段から羨ましそうに聖のほうを見ていることの意味をようやく理解した。誰だってあんなに均整のとれた体型になりたいものだよなぁ〜っと…。
「皆までとは言わん。裸体については変な虫に食われたと思って諦めよう。しかし私の言ったあの一言については忘れろ! そうでなければ今ここでキミを殺る!!」
と強烈な視線を浴びせながらそんなことを言う聖。もしかしてなんだが、聖は記憶が残るタイプなんじゃ? と言うかそうだろうな。あれから聖が起きてきたかと思うと、何やら俺の顔をぽっと赤らめた顔で見ていて、佳乃から“往人くんを誘惑しないで!!” とむむむむむむ〜っと擬音を発しながら俺の顔を自分の胸にうずめて言われてしまい、“こ、これは国崎くんが、わ、わわわ私に酒を飲ませてだな?” などと言う女医。まあ飲ませたのは俺だし、命令したのも俺なんだが、何の抵抗もなくただ恥ずかしそうにするだけで結局思うがままになってしまう聖にも問題があると思う。まあ本人に自覚があることには大いに良いことなんだろうが…。しかし、内心ではそんなことを思っていたのかと考えるとこの凶悪女医者も可愛く思えてくる1月3日、俺を普段散々こき使うのに内心では好きだと言うツンデレ? な女医・霧島聖の誕生日。でその後、いつもの倍以上追い掛け回された挙句、切り傷を数百か所も作る羽目になってしまったことは言う間でもない。がくっ…。
END