宿題は計画的に


「今年は早い目に終わらせるで〜っ!!」
 ってお母さんがいつものハリセンを持ってこんなことを言う。往人さんも、“ああ、そうだ。早めに終わらせるぞっ!!” とやる気満々な顔で言う。夏休み初日からこんなになっているのにはわけがあって…。わたしの病気が治った年の冬休みに宿題のしゅの字もやってなくって冬休み最後の日にお母さんからしこたま怒られて泣きながらやってた。“あんたがせーへんのが悪いんやろ?” とはお母さんの談。確かにわたしがしなかったのが一番悪いんだけど…、夜になってしようと思って自分の部屋に行こうとしてたら、“観鈴ぅ〜、お母ちゃんと一緒にゲームでもせーへん?” なんて言って好きなトランプを取り出して繰りながらそう言うから、“まあいっか。明日で…” と思って遊んでいて、気がついたら冬休みも最後の日になってて…。あの時のお母さんはドラマで見たヤクザさんの人みたいですごく怖かった。で夏休みの初日を明日に控えた7月20日の昼、学校から帰ると昼休みで帰ってきていたお母さんに恐る恐る通信簿を見せてそ〜っと部屋に行こうとしていると呼び止められる。
「なぁ〜あ? 観鈴ちゃん…。あんた、家庭科以外、2とか1とか多いけど、これはどういうことや? 確か遠野さんに教えてもろてるから大丈夫〜っとか余裕ぶっこいて言うてたなぁ〜? じっくり聞かせてもらおうやないの…」
 顔は笑ってるけど目は怒ってる。そんな顔をしながらお母さんがどっこいしょっと座り直しながらわたしの話を聞こうとする。ここで言い訳じみたことを言ったりこうしようと思ってた〜なんて自己正当化して言おうとするものならボカチンって大きなげんこつが来るからそう言うことは言えない。ただただ謝るばかりに謝る。“もう高校3年生なんやし、将来のこととか考えなあかん時期なんやで? そやのに何やの。この間行った3者面談で言うたことは? ‘女の子はお嫁に行くんだから勉強なんてしなくてもいいんじゃないですか〜’ って。ウチもそないなこと考えとった時期は確かにあったわ。でもな人間働かな食うていけへんもんなんやで? 分かっとるんか、ええっ?!” って目をくわってさせながらお母さんはそう言う。そこから姑の嫁いじめみたく延々4時間くらい正座のままでお説教を聞かされて足がしびれ立てなかった。肝心の往人さんは保父見習いの勉強中でお母さんが現在勤めてる保育園のほうに行っていて留守。こんなときの往人さんなのに…とは思うけど決まってこう言うときは無視かお母さんの味方になってわたしに無理難題をふっかけてくるんだから、いてもいなくても結局は同じかなって思うわけで…。と、突然お母さんが…、
「観鈴、あんた今日から夏休みの宿題しい。期限は…、そうやなぁ〜。あんたの誕生日までや。ウチも晩帰ってきたら見たるさかい、頑張って終わらせるんやで? もし終わったらええとこ連れてったる」
 そう言ってニカッと笑うお母さん。実を言うとその顔が一番大好きなわたし。よ〜し頑張って終わらせるぞ〜っ!! って思って気合を入れて自室に籠もるわたしがいたわけなんだけど…。


「う〜っ、もう出来ないよ〜っ。頭がこんがらがっちゃう〜…」
 やっぱり出来ないものは出来ないもので、どこをどうやればいいのかさえ分からなくなっちゃって教科書を広げたりしながらやってるわけだけど、その教科書もあやふやになってくる始末で…。もういいや、寝ちゃおうって布団を敷いて横になる。ふと昼間のお母さんの笑顔が頭の中に浮かんでくる。楽しみにしてるんだろうなぁ〜って思うとやらなくちゃって妙な使命感みたいなものが出てくる。仮眠を取りつつ徹夜で頑張った。次の日も同じくらい頑張って3分の2くらい宿題は終わった。夜お母さんに見せると“よう頑張ったなぁ〜。観鈴〜。この調子や!” って言ってニカッと笑う。往人さんも、“終わったら晴子がどこか連れて行ってくれるらしいから頑張れ!” って励ましてくれた。で、明日はわたしのお誕生日。後は苦手な数学の問題集だけだけどこれがなかなかに難しい。それにわたし数学が大の苦手…。が、がお…。でも頑張るって決めたんだ! そう思ってページをめくる。カリカリと言う音は夜まで聞こえていたんだけど案の定と言うかそこまで集中力のないわたしは息抜きにと思って始めたトランプに夢中になっちゃってて様子を見に来たお母さんに見つかっちゃって…。
「あと5ページやないの。何で5ページ分の集中力が身につかへんのか、不思議でかなわんわ」
 って、呆れ顔。往人さんもお母さんと同じような顔で、“5ページだけ残してまた最後になって手伝わされる身にもなってくれ…” って言われちゃう。でもでも頑張ったんだよ? 今年は…。昼も夜も勉強したんだよ? その辺の苦労も分かってほしいな…。なんて考えながら涙目でお母さんと往人さんの顔を見る。とお母さんが、“はぁ〜。しゃーないな? 明日から旅行行くんやし…” そう言ってわたしの宿題を持って、“ほれ、何してんねん、観鈴。手伝だったるからはよ降りてきい” ってそんなことを言う。 往人さんも、“お前、今年は頑張ったからな…” って言ってにこって笑ってた。階下に降りて、さっそく問題に取り掛かる。まあ5ページなんて3人いればすぐに出来るだろうなんて考えてたんだけどこれがなかなかに難ししくて1ページ終わるのに50分くらいかかった。夜の9時くらいから始めて途中休憩も挟みながらやってたから終わったのはお誕生日当日の夜中に1時半くらい。あと残ってる宿題は〜? と宿題の入った袋を見る。ない! うん、観鈴ちん今年は全部終わった。ぶい。さて寝ようかな…。って思ってお母さんたちを見るともう寝ちゃってた。起こしちゃ悪いかなぁ〜なんて考えて毛布を掛ける。その時に“ありがとう” って小さく言うわたし。今年はゆっくり出来そうかなぁ〜なんて考えながらわたしも床に入る。明日はどこに連れて行ってくれるんだろう…。そう思いながら瞼を閉じるともう夢の中だった。


「い、いや往人さんやお母さんは分かってるんだけど、何で佳乃ちゃんに霧島先生、遠野さんにみちるちゃんまでいるの?」
 って改めて電車の中でそう訊くわたし。今朝起きて前々から用意してたんだろうなって思うくらい準備万端に並べられた旅行鞄がでんっと置いてあってびっくりする。そんなわたしに、“観鈴、あんたの分これでええか? あかんのやったらはよ用意してきーや?” とにかっといつもの笑顔で言うお母さん。中を調べると足りないものがいくつかあってそれを鞄の中に入れて準備万端! 鍵を閉めて表へ出る。夏のギラギラした太陽が眩しい。今日も暑いねぇ〜っとか話しているうちに、えっ? とわたしは呟く。だってそこには、ぴょんぴょん飛び跳ねながら、“かみや〜ん” って呼んでるみちるちゃんとペコってお辞儀する遠野さん、ぶんぶん手を振ってる佳乃ちゃんににっこり笑顔な霧島先生が待っていたから。
 “神尾さん、貴女も強引な人だ…”、“そやかて、佳乃ちゃんが心配なんとちゃうん?” とお母さんと霧島先生が話し合ってる。わたしは何が何だか分からずに隣りの往人さんに訊いてみる。すると…、“晴子がな? 今年はみんなで温泉でも行きたいなぁ〜。なんて言うもんだからな? 俺も異論はないし何も言わなかったら行く頃にはこうなってたんだ…って言うかあいつを呼ぶなっ、あいつをっ!!” って言ってにゅふふふふ〜っと往人さんのほうを見ながら怪しい笑いを浮かべてるみちるちゃんのほうを見ながら言ってる。そうこうしながらバスが来る。乗り込んで出発すると気持ちのいい潮風が窓を開けたところから入ってきた。何だか修学旅行みたいで楽しいなっ。にはは…。早速往人さんとみちるちゃんがけんかを始めてそれを遠野さんがぽっとした顔で見ていて、佳乃ちゃんはわたしにお話してくれる。お母さんと霧島先生は向こうについてからのことを話し合ってた。ってこれどこに行くのかな? わたし何も聞かされてないんだけど…。そう思って佳乃ちゃんに聞いてみた。すると。
「何でもね? 隣町に温泉が湧いた〜とかで宿泊施設も出来たんで泊まりに行くらしいよぉ〜?」
 そういうことか、納得…。と納得するわたし。温泉が湧いたのは去年の今頃だったっけ。わたしはその辺は覚えてないけど…。結構広くて落ち着ける場所だって新聞には書いてたっけ。まあこんな小旅行みたいなものもいいよね。みんなの顔を見ながらそう思う今日7月23日はわたしのお誕生日だよ。えへへっ…。

END